第33話 その呪いは願いになり、時を越えまだ私を呪い続ける

 女盗賊を敗った……命を奪える一つ手前まで行き、その手を引いた。

 別に命を奪う事に躊躇した訳ではない。


 神奪戦争に勝利した先の願いに興味がある訳じゃない。

 この神奪戦争に選ばれた者達の中で、私が最強であること……

 それが重要なんだ。



 ただ……時折不安になる。

 

 別に……その願い叶わなく敗れ、その運命を終える事に恐怖などない。

 その逆……もしも私はその願いを叶えその最強の座を手に入れられたのなら……


 私は……その先……何を目的として生きるのだろうか?



 あの憎むべき男が私に託した……その生きる目的。

 

 アクレアに来るまでの旅中に買った首飾りを眺める……


 先に……フーカがナヒトへ送ったものと同じ首飾り。

 10年後の未来にその身体を送り届ける首飾り……



 レフィは、センを少し眺めた後……その目線を隣のタリスに移す。

 契約の対価選んだ相手は……センだったはずだが……


 タリスから受け取った団子を食べ終える……



 「タリス……お願いがある」

 そうレフィは珍しくそう話し出す。



 「わたしに?あらためて何?」

 そう少し不思議そうにタリスが尋ねる。


 見つめていた首飾りをタリスに渡すと。


 「この後……私は魔女とその使いと勝負を挑む……それが私の最後の戦いになる……」

 そうレフィがどこか遠い目で語り始める。



 「待ってよ……まさか、レフィ……自分が負けるなんて……」

 言うつもりじゃないだろ?そうタリスが尋ねる。


 レフィはどこか遠くを見つめたまま首をふり……


 「負けない……あの次元を断つ剣を……見極り私は勝利する……でもその後の私はきっと手負いだろう……だから、タリス……あなたのその剣で最強となった私を殺してくれ、そして……その渡した石で10年後、私を倒した最強の貴方がいない世界では……その10年間、私は最強で……10年後の世界ではあなたは、この私の呪いを背負い生きて欲しい」

 そうレフィがタリスに乞う。



 「何言ってんだっ…レフィッ!!わたしも、この貧弱王子も、あんたがこの神奪戦争を勝利するっ、そう信じてんだっ……これからも、私はあんたをっ!!」

 あんたがこの神奪戦争に勝利した後もずっと……その先も一緒に……


 「……タリス…タリスといたこの数日間……悪くなかったよ……そういう生き方もいいかな……と思えた、でも……今更、私にはその生き方はできない」

 そうレフィは、初めてタリスにはっきりと笑いかけた。


 そして……待ち人の登場に気づくと、レフィは腰をかけていた岩場を飛び降り……

 二人の進路を塞ぐように立ち塞がる。


 不器用な女……そうタリスは心の中で呟く。

 当初の旅の目的……。



 「見届けるよ……」

 タリスはそうレフィの背中に呼びかける。

 その貴方の願い……見届けてあげる。

 だけど……全て貴方の思い通りになんてさせない。




 ・

 ・

 ・



 聖都へと向かう道……

 イシュトとアリスの前に立ち塞がる影……



 ピンク色の短髪……紅色の刀と呼ばれる武器を手にした女性。



 「……容赦ないな……ほんと」

 そうイシュトが呟く。


 

 「……全力で来い」

 最初に交える台詞でそう告げるレフィ。


 半端なイシュトに勝つことは意味がない。

 あの次元を断つ力を使う前に潰す意味がない。


 あの力を発揮させ、それを私の力で見極る……そこに意味があるのだ。


 「イシュトっ!!」

 アリスはそう叫ぶと、ありったけの魔法を飛ばし結界を作り、レフィの動きを喰い止める。

 が……レフィは動じる事無く……まるでその魔法の行き先も、結界の抜け道も全て見えているかのように、少ない身体の動作で全てをかわして行く。


 ほぼ、歩くようなスピードでその全てをかわし、アリスの前に立つ……


 「魔女の使い……舐めるなっ、さっさとその全力を私にぶつけてこい」

 その刀の先をアリスへとつきつける。

 この命を守りたいならその全力を出せとそう告げる。



 黒い帯……

 きれいな月が浮かぶ空の下に囚われる謎の包帯の男……


 その映像が何かはわからない……でも今はそれに頼るしかない。


 イシュトの身体が一瞬だらんと力が抜けるように見えるが……すぐにその周囲から異様なまでの殺気が漂う。



 レフィは、アリスから刀を離すと、その異様なイシュトに向き合う。



 黒い帯を辿るように剣先を動かす……

 その微妙な動きを……レフィは黙って目で追う。


 次元を断つ……そんなものが物理的に見極れるものなのか……

 あくまで、レフィの異常なるその超越した力は現実の物理に反しないものにたいして成り立っている。


 その物理的な法則から外れるその力に……自分の力が通用するのだろうか?



 その一撃を受け止めようと……刀を構えるが……



 「ちぃっ!!」

 構えた刀をレフィは遥か遠くに投げ飛ばす。


 そして、できるだけ自分の身体をイシュトが振るった剣先から遠ざける。



 ……静まり返るその戦場で……


 レフィの胸元からビシャリと血吹雪が飛び散る。



 想像以上に……厄介だ。


 致命傷は逃れたものの……このまま戦い続け、傷口を広げれば……


 

 死への恐怖はない。


 自然と笑いがこみ上げる……私と出合ったキョウはこんな気持ちだったのだろうか?



 刀であの一撃を受け止めていれば、きっと刀もろとも私の身体は真っ二つに裂けていたであろう。


 次元を切り裂く……文字通りにそれだけ恐ろしい技だ。



 投げ捨てた刀を再び抜き取る。



 だったら……どうする?

 そんなチート的な技をどう……見極るというのか?



 保障などない……でも……やるしかない……

 私はあの力の上をいく……最強なる者として、あの上を……



 「もうっ止めろ!!」

 センのそう叫ぶ声が聞こえる……


 お願い……邪魔をしないで……

 試される……私の力……

 世界の理に反する力の前に……

 

 キョウが求めた……この力が、

 この私が上に居るのか……


 「……来い、魔女の使い……」

 不敵に笑うレフィに……センは恐怖すら覚える。


 イシュトと同時に、レフィが動く。


 キョウ……今……私は本当の意味で貴方を超える。

 そして……私が最強になるっ



 その戦場を目にする誰もが魅入った……

 その異常なる光景に……



 無理に身体を動かすレフィの身体から噴出す血の量すら気にならないほどに……



 まるで反射する鏡を見ているかのようだった……


 イシュトの見る別の次元なんて見えていないはずのレフィ……

 その動きの法則性を知るはずのないレフィ……


 まるっきり同じ動きでその剣先を動かす。


 一つの可能性を信じ……その最強もくてきのためだけに……

 

 自分の見えない世界を見ている男……その剣先をそろえることで……

 異次元に通す剣と同じ空間に自分の剣先が送れる……そんな可能性を信じ……

 交える事のない剣先がそこに通じると信じて……



 ギンッ!!


 そんな金属がぶつかり合うような音がした。



 ビチャリとイシュトの身体に大量の血が降りかかる。


 無理に動いたため、レフィから流れた血をイシュトが浴びていた。



 「……私の勝ちだ、魔女の使い」

 そうレフィは目の前の男に告げる。


 イシュト自身も何処かでその技が無敵であると思っていたのかもしれない。

 次元を超えたはずの自分の短剣ははるか後方へ弾き飛ばされた。


 目を見開き、膝をつくイシュトの首もとに紅色の刃が突きつけられる。



 「……あんたの歴史に……この敗北を刻め……」

 この手を引けば、お前の命を絶つことができる……そう告げる。


 宣言通りに……その不可能とされた技さえも見極り……自分の力の最強をその場に居る者に示す。

 

 剣先を首もとから離し刀を引く。


 「……後は誰が勝ち残ろうと、私が貴方たちに倒されなければ……私は最強だ」

 そう言って、センとタリスの元へと歩く。


 「……タリス、約束の時……レフィは笑い、紅色の刀を押し付ける」

 呪いは引き継がれる……

 

 「……同時にそれは感染するんだ」

 そうタリスは呟く。



 ダンっという銃声が響く。

 同時にレフィの身体がゆっくりとタリスの胸に倒れた。



 「ばーーーかぁ、そんなきれいに終わらせてやんねーーよ」

 女盗賊……ハレが倒れたレフィの後ろから現れる。


 「タリス……お願い……私にこんな敗北さいごを刻ませないで……」

 そう、タリスの耳元でレフィが囁く。


 「……わかってるよ、レフィ」

 そうタリスは答える。



 「……貧弱王子……ちょっとお願い」

 そうタリスが言うと、レフィの身体をセンに預ける。

 同時に紅色の刀をレフィの胸に押し返す。


 「……タリス……どうして?」

 私の願いを引き継いでくれると信じていた……


 「あんたの言う……呪いってのさ、感染すんだよね……レフィ、私はその呪いからあんたを解放なんてしてやんない」

 そう意地悪そうにタリスは笑うと、持っていた首飾りの石を砕くと、それをレフィの首元にかけた。


 「……キョウ?だっけ……あんたの昔話に出てきた男同様に、私もあんたの最強になる姿……その名を刻ませた世界を見たいんだよ」

 そうレフィに託す。


 「……おい、軟弱王子」

 そう言って、分厚い本を取り出すとセンの頭をそれで軽く叩く。


 「……あんたは10年間、死に物狂いで医学の勉強をしろ……そして、10年後……レフィの傷を治すだけの医療を身に着けろ」

 そうセンへ告げる。


 「……レフィ……そして、あんたはその10年後の世界で再び最強になれ……それが私からあんたに与える(生きろと言う)のろいだよ……」

 そうレフィへと告げると、センが所持していたレフィから受け取った刀を奪い取る。

 

 

 「おいおい、そうきれいに終われるとおもうな」

 石の効果が発動するのにまだ少し時間がかかる。


 ハレはその前に、レフィの息の根を止めようと動くが……



 「女盗賊……あんたに世界最強の相手は荷が重い……世界最強の一番弟子のタリスちゃんの相手でもしてろ」

 そう銀色の刃の刀を抜くと、ハレの目線を遮る。


 「じゃまだ、どけよっ」

 ハレが手にする銃の引き金を引くが……


 その銃弾を全て斬りおとす。


 言葉だけじゃない……実際にこれまでセンと共にレフィの特訓を受けていたんだ。



 足を開き、身体を捻り一度身体の後ろで刀を鞘に納める。



 ハレが再び引き金に手をかける瞬間その刀を引き抜く。



 「あぁ?」

 ハレがそう不快そうな声を漏らすと、ハレが手にしていた銃は上空に飛び上がり真っ二つに裂かれた。



 ハレの横の次元が歪むとそこにハレは手を差し込み新たなる銃を持ち出す。



 「調子に乗るなよ」

 そう再びハレはタリスに銃口を向け……


 タリスは地面を力強くけると、ハレに向かい駆け出す。


 レフィのように、空間をスロー再生するような能力はない。

 それでも……再び発射される銃弾を引き裂く。


 反応する……

 憧れ見てきたその姿のように……



 「……つぁ」

 次の瞬間……タリスはハレの前に倒れこむ。

 それを冷たく見下ろすハレ。


 タリスの背後から現れた銃……その銃弾に足を撃ちぬかれた。



 レフィに憧れようと……やはり彼女にはなれない。


 彼女のように……その背後から迫る銃弾にまで反応できない。


 「ねぇ……痛い?後悔したぁ?」

 ハレは乱暴にタリスの髪の毛を引っ張りしゃがみこむ自分の顔の側まで近づける。


 「……ぜんぜん、悪いけどさ、私がここであんたに負けてもさ……変わんないよ?」

 苦痛の中、そうハレは無理に笑い顔を作る。


 「あぁ?」

 ハレが不快な顔でその言葉の意味を問う。


 「……あんたが、完全にレフィに敗北している事実はかわらねぇ」

 そうタリスが言い捨てる。


 「……がぁっ!!」

 髪の毛を引っ張り上げていた手を離すと、そのタリスの頭が地に落ちる前に、その拳でグーを作り、乱暴にそのタリスの顔を殴り飛ばす。


 そして、ハレは立ち上がると、もはやタリスに興味が無さそうにセンの方へ歩き出す。


 だが、不意に左足首をつかまれ動きを止められる。


 「あぁ?」

 再び不快そうに声をあげる。

 

 「いかせねーーって、私だって……あいつの呪いに魅せられた人間だ……そう簡単に終わらねーーよ」

 そう力強く足首を掴むが……


 「……つぅ」

 ダンっという銃声と共に、その手が足首を離れる。


 「気安く触ってんじゃねーよ」

 そう冷たく見下ろし、その手の甲を撃ちぬく。


 再びタリスに背を向けるハレだが、後ろの物音に再びタリスの方を振り向く。


 刀を地面に突き刺し、自分の身体を支えように起き上がる……

 足をゆっくり開き……腰を落とす。



 終わるわけにいかないんだ……

 この勝敗が決して……レフィの戦歴に泥を塗るようなものじゃないにしろ……


 レフィから剣の使い方を習い……共にした……この私が、

 私自身が……このまま終わるなんて事……


 「ゆるせねぇーーんだっ!!」

 タリスの刀が鞘に納まるのと同時に……一閃の光が見えると、

 ハレの前髪がふわりと揺れ……その数本がちりちりと風の中を飛んでいった。


 咄嗟に反らした顔の額から一筋の血が流れる。



 「なるほど……だが、それで満足していろ」

 そうハレが呟くと。


 再び背後からの銃弾がタリスを貫く。



 倒れる中……すでにレフィの姿がなくなっていたことを確認する。


 目的は果たした。



 なぁ……神様。

 別に私だってこんな最後……望んでたわけじゃないんだ。


 彼女の強さを見てきて……魅せられて……

 本当はあんな風に……最強になりたいって思ったんだ。


 目的は果たしたんだ。

 もう……必要ないのに……

 本当は震えるほど怖いのに……本当は泣きたいほど痛いのに……


 なんでだろう……

 もっと……もっと試したい……


 あいつに魅せられた私の技を……出しきれてねぇんだ。


 試してやる、私の限界……

 レフィ、あんたに追いつけない私が……どこまでなのか……


 私の命の代償だ……最後まで付き合え、女盗賊!




 「あの曲芸女バケモノの弟子もまた、バケモノか」

 そう立ち上がったタリスの姿にハレは呟く。


 その後、その戦場で幾度も銃声が響き渡った。



 それが……10年後の貴方に残した私の希望のろい

 

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