第13話 魔王討伐編②

 屍の数々……争う気など無かったのに……

 こんな生き方をするつもりは無かったのに……

 お前らが……望んだ戦いだ……

 その身を持って味わえ、神とか俺には関係ない。


 あの2人を……キノが幸せに暮らせる世界を、責めてお前に造らせてやる。

 それが……俺と、それが敵わなくなったおっさんへのお前の償いだ。



 再び訪れた聖都……

 すでに彼の異変を察し、彼の神への進行を止めに入った、

 神に仕えし者の数名が彼の手により命を落としている。


 国一つの消滅とこれまでの戦いで、彼の消耗は相当なものだ。

 彼の能力……言葉にした事をまるでどんな命令でも従わせているかのような、魔王の力と呼ばれる絶対的能力。


 その能力の本質。

 それは彼の異常なまでの魔力が、対称となる者の体内の魔力を書き換え、

 強制的に操り、魔力を書き換えることにより、体内でその魔力を爆発させ、砕け散ったり、膝を破壊したり、手足を操り自害させたり、その体内の魔力をどこかに引き付け吹き飛ばしたり、相手の魔力を操ることで、言葉どおりのことを実現させる恐ろしい能力だ。


 もちろん、自分のように高い魔力を持つものには、上手く発動できなかったり、時間を要したりもする。

 まして、今はかなり自分の魔力を消耗しているため、さすがに今、神奪戦争に選ばれたメンバーとの戦いとなればかなり不利な状況とも言える。


 だから、彼は直接……神への反乱を試みたのだったが……


 「……俺1人に……総員相手で叩くとか本気かよ……」

 聖都の目指すべき教会の道に立ち塞がる影を見てアスはそう呟く。


 神の使いにより再度招集をかけられた神奪メンバー。

 フーカ、ハレ、レクス、マイト、レフィ、アリスとイシュトの7名。

 それと対峙するアス。

 それを少し離れた場所で、レフィのマスターであるセンと雇われている傭兵のタリス、そしてフーカのマスターのナヒトがその様子を見ていた。



 「よぉ、随分とらしい顔つきになったじゃん、魔王様♪」

 ハレは楽しそうに目の前の男に言い放つ。


 「……弱ってるうちに寄って集って潰してしまう……なんともわかり易い構図だな」

 嫌味まじりにアスは返す。


 「……まったく、少々目立ち過ぎた様だの……なんなら我と一騎打ちで勝負といくか?」

 フーカはそう告げる。


 「……人数差くらいならいくらでも埋められる」

 そうアスが言うと、アスが葬ってきた神に仕えし神官共の屍が起き上がる。


 「ははははっ、全くらしい真似できるようになったなぁ……魔王様」

 楽しそうにハレが言う。

 そう言うと突如現れた剣の一本が勢い良く、アスに向かい飛んでいく。


 「……消えろッ」

 アスがそう呟くと……アスの魔力に剣の魔力が書き換えられ消滅する。


 「ふーん」

 実に楽しそうにハレがアスを観察する。


 とことことハレがアスの方に歩いていく。

 アスの顔が険しくなり身構える。


 「怖い顔すんな、魔王様♪」

 両手を挙げ、服従を示すようにアスに歩み寄る。


 「あんたに従う気はねーけど、どっちかというとあたしの目的はあんたよりなんでねー」

 そう言って、アスの側に寄ったハレはくるりと反対を向く。


 「今回はあんたに強力してやるよ♪」

 「2人で楽しく神様殺しといこーぜぃ」

 実に楽しそうにハレが笑う。

 

 「さて、この場をお膳立てするんなら、そんな貧相な屍だけだと役不足だろ」

 そう言ってハレは何処からか取り出した水晶を天にかざすと、

 強い雷のようなものが落ち、水晶が砕け散る。


 何時の間にか現れた黒い雲が空を覆っていて、

 その雲から大勢の魔物が降りてくる。

 

 「……まぁ、仮にも神に選ばれた兵どもだ、それなりの上級の魔物ではあっても相手にならねーだろうからな、魔王様、あんたの魔力で強化してやりゃ、それなりに面白い展開になるんじゃねーか?」

 そうハレはケラケラと笑う。


 ……その言葉に素直に従うのは不服であったが、

 この場を凌ぐ方法としては、彼女に従うことは一つの方法である。

 

 「ふん、くだらん……」

 マイトが弓を構えると……空から降りてくる魔物達を、地に降りる前に次々と射抜いていく。

 

 「!?」

 弓で射抜いていたマイトが地を強く蹴り後ろへ大きく後退する。

 その途端、地面に大きな穴が空く。


 「マァーーーィーーートォォーーッ!!」

 頭に黒い包帯を巻いた化け物がその穴の中に立っていた。


 「ちっ……余計な奴まで駆けつけてきた訳か」

 マイトがその包帯の化け物に対し呟く。


 「……よくわからないが……」

 あの者の敵も向こうに居る様だ。

 アスはその化け物の体内の魔力を操り、その能力を強化する。


 「!?」

 マイトが驚いた様に横に飛ぶ……

 今までの化け物とは比べ物にならないくらいのスピードの突進を辛うじて回避する。

 

 「ちっ……低俗風情が……少し魔力を与えられたくらいで図に乗るなよッ」

 マイトが素早く矢を放つ。

 化け物は右腕を前に突き出し手のひらを広げると、黒い衝撃が放たれ、

 その矢をかき消す。


 「マーーーィーーートォーーーーッ」

 通用している……

 匹敵している……

 復讐の理由など覚えていない……

 なぜ、目の前の男が憎いのか覚えていない……

 それでも、かすかに残る意思が、チャンスは今だと言っている。

 

 「!?」

 少し反応に遅れたマイトが防御体勢取る。


 ギンッ

 間に入ったレクスが手にしたギアブレードでその一撃を受け止める。

 近未来を思わせるような、一般の武器とは全く異なった形。

 刃となる部分からは自分の魔力が放出される代物で、

 その戦闘能力はやはり並外れたモノを感じる。

 

 「止めないかッ……こんな場で自分達が今争う理由がッ」

 レクスはそうアスとハレに叫ぶ。

 「あれほど、争う事を拒んでいた君がどうして……このような真似をッ」

 信じられないようにレクスが叫ぶ。



 「俺だってこんな事したくなかったさッ」

 そうさせたのはアイツだ。

 アイツがこんな戦いを仕組まなければ……

 

 「今のこの争いも全部……キサマ等の望みじゃねーのかッ!」

 アスから強い衝撃が放たれ、

 その場に居合わせた全員が防御体勢を取る。

 さすがの魔王の異名を持つ能力値、誰もがそう感じている。

 

 そして、空から送り込まれたハレが呼び寄せた魔物にも、アスは魔力を送り強化を施す。

 空から、魔物達が次々と魔法や口から炎など、攻撃を開始する。



 「……さすがに厄介だな」

 イシュトがそう呟くと、


 「馬鹿なの、邪魔よ……後ろで大人しくしてなさい」

 そう言うと、至る場所にアリスは結界を張り巡らすとそれらの攻撃を防ぐ。

 結果、他の英雄達やそのマスターの身を守っている。


 「実にくだらん、魔女……貧弱なマスターを庇って貰った事に関しては感謝するが、我への援護は不要だ」

 そうフーカはアリスに告げると、せっかくの結界の前に飛び出す。

 振り注ぐ、魔法や炎を全く気にも留めず……まっすぐと標的へ向き合う。


 アスとの一騎打ちを名乗り出ようとするが、さすがのアスもそれは許さず、

 操った、神の使途の屍を操りフーカを襲わせる。


 どんな能力を見せ付けるかと思ったが、実につまらなそうに拳と蹴りでそれらを簡単にあしらっていく。

 その体術だけでも相当な能力だ……それが彼女のスキルと言われても十分な程に。

 だが……彼女の本当の能力にはまだ先があるのだろう。


 フーカが倒した屍達はバラバラに砕け散っても、すぐにアスの魔力に再生される。

 繰り返し、その身のこなしで、全てを破壊するフーカだが、


 「なるほど……元を断たねば永遠にこの遊戯を続けさせられる訳か」

 屍共の奥に居るアスを睨む。

 だが、その視界は数多の屍の兵隊に阻まれ、アスを目視する事ができなくなる。


 「その程度で我の進路を立ったつもりか……魔王よ」

 そうフーカが言うと、右手を自分の目の前に突き出し、

 手のひらを広げる。


 そこに居る誰もの目が彼女に集中する。


 黒い文字……呪文が彼女の周囲に現れると、

 その黒い呪文は彼女の手のひらに集結していき、

 漆黒の槍を形どっていく。


 精製された漆黒の槍は彼女が睨む一直線上に飛んでいく。

 立ち憚る屍どもを粉々に蹴散らし、狙いからその勢いを緩める事無く、

 目標目掛け疾走する。


 「っ!?」

 あっという間に勢いも威力も弱まる事無く、目の前の屍を蹴散らし、アスの目の前に漆黒の槍が現れる。

 咄嗟にアスは自分の魔力でその漆黒の槍の魔力を書き換えると、なんとか直前でその漆黒の槍の消滅に成功する……が、その相殺する時にしょうじた魔力の衝撃でその身体を吹き飛ばされる。


 「なんだ……今の?」

 誰もがその力に度肝を抜かされていたが、イシュトが思わず漏らす。


 「……恐らく、火力……攻撃力といった能力での分野であのフーカという女性が間違いなくトップでしょうね」

 魔女と称される彼女でさえ、それを目の辺りにしたフーカの能力は認めざる得なかった。

 だが、その一撃を食い止めた魔王と異名を持つ男も相当なものだ。


 「……ふむ、全力だったとは言わぬが、これを防ぐか、さすがは魔王と呼ばれるだけのことはあるようだの」

 少しだけ楽しそうにフーカが言う。


 「……ふざけるなっ」

 あんなものを何発も放たれたらたまったものじゃない……

 アスはそう察し、フーカの魔力を制御する。


 「……なるほど、貴様に我々の魔力を書き換えられるとゲームオーバーという訳か」

 自分の魔力にアスが干渉を始めた事に気がつくとフーカはそう告げる。

 下手に魔力を使いすぎると、魔王に己の魔力を操らる恐れがある。

 マスターであるナヒトは魔力が0であるため、魔力の供給が不可能であるフーカに取ってはこの状況は酷く不利である。



 「あたしの存在を忘れるなよッ!」

 フーカに向かい拳銃を構えたハレだったか、即座にその存在に気がつき後ろに飛んだ。


 「……一番厄介なのがあたしについたじゃねーか」

 ハレがそう言った相手。

 刀と呼ばれる異国の武器を持つ女……レフィ。

 高い魔力は感じられない。


 それでも、神奪戦争に選ばれた者は口を揃えてやりたくない相手を口にするなら彼女の名前を出すであろう。

 それほど、彼女の能力は平凡であり、どんな凶悪な力を持つ者さえ逸脱する能力者である。

 どんな強者すら寄せ付けない……


 例えるなら、彼女が30分かけて倒した凶悪な敵を、たった1分で倒した強者が居るとする……そんな強者を30分かけて倒せるのは彼女。

 そういった可能性を秘めているのが彼女だ。


 「あんたには私が最強と名乗るための礎になってもらう……」

 レフィがそう呟く。


 「ふん、あたしは神でもなんでもねーよ、あんたの望みを叶える義理はねーなぁ」

 ハレは手にした拳銃の引き金を引くが、それらを簡単にレフィは避ける。

 

 「これならどうだっ!」

 再び拳銃を構えるハレの左右の空間が歪むと異なった二つの銃器が現れる。

 二つの銃器はハレの手にする銃器に連動するように、その引き金を引くと左右の銃器も同時に射撃を開始する。

 地を蹴り上げ高く飛び上がりそれらを回避するレフィ


 「っ!?」

 レフィの目の前の空間が歪むと、新たな銃がいくつも現れる。


 「さぁ……こっからどう避ける?」

 ハレはニヤリと笑みを浮かべ再び自分の手にする拳銃の引き金を天に向かい乱射するとレフィの目の前に現れた銃器にも連動する。


 レフィは冷静にまるで、自分が今空中に居ることを忘れているかのように再度、地を蹴るようにさらに高い場所に移動する。


 「すっげぇーーー二段飛びとか現実で始めてみた」

 その様子を遠くで見ていたタリスが改めて感心する。


 「……どんな運動神経してりゃ、そんな真似ができるんだよ」

 額に汗を滲ませながらも不敵な笑みでハレはレフィを睨みつける。

 

 レフィは自分の更に上空を見上げる。

 再び次元が歪むと、新たな銃器が現れる。

 「三段跳びなんてものを披露されても困るんでなっ」

 ハレはそう言って再び手にする拳銃の引き金を引く。


 レフィの目線はすでに上空にある銃を気にもせず、

 上空からハレだけを目視しする。

 銃口から放たれる弾はレフィ目掛け飛んでいくが、

 今度は後方にありもしない壁を蹴り上げるようにハレを目掛け急降下する。


 「どんだけ、世界の物理法則を無視してんだよっこの曲芸女ッ!!」

 ハレの顔にさすがに焦りが表れ、余裕や加減など言ってられない状況になる。

 まるで、空中を自由に移動できるかのように、レフィはハレ目掛けての急降下を停止しする。

 レフィの360度を完全に囲むように現れた銃器……


 「じゃーーなっ曲芸女ッ!!」

 コレクションである魔装器とよばれる武器の中でもレアと言われる銃器を惜しみなく披露しレフィの周囲を取り囲む。

 右手を天に掲げ、再び人差し指で何度も引き金を引いた。


 空中で停止しゆっくり落下しているレフィは身体を全く動かさず、

 瞳だけを凄いスピードで動かし、その一つ一つの動きを見定める。

 そして、瞳がある一点だけを見つめ、己の左斜め下だけを見つめると、

 その場で自分の身体を180度回転させると、上空を蹴り上げるように、

 見つめた場所を目掛け落下していく。


 「……さすがにチート過ぎるだろうが……」

 容赦なく追い詰めたつもりのハレは完全に追い詰められた顔をする。

 「あの一瞬で自分の身体一つ抜け出せる場所を見つけてそこを通り抜けた……というのか?」

 ようやく地に降りたレフィを見てハレが呟く。

 あれだけの猛攻を受けて無傷でレフィはハレと対峙している。


 ハレの猛攻はレフィを寄せ付けない。

 だが、ハレの猛攻は彼女の逸脱したその動きを捕らえる事は出来ない。



 イシュトとアリスは、魔王により強化された魔物や屍の相手をさせられていた。

 ただでさえ、厄介な異界の魔物が魔王の力で強化され、その一体、一体がかなり厄介な相手になっている。

 その数が計りしれない程の数で、それらを複数相手にするというのは、とても容易なものではない。


 フーカ、レフィ、マイト、レクスもそれぞれの担当を請け負いながらも、

 魔物や屍の相手を務めていたが、それでもその数は圧倒的だ。

 

 「さすがにきりが無い……」

 手にした短剣で目の前の魔物を射抜いたイシュトがアリスに言う。


 「そうね……このまま時間を稼がれれば、あの魔王にここにいる全員、魔力を分析されてゲームオーバーになるわね」

 冷静にそんなことを言うアリス。


 「魔王を倒す他無いってことか?」

 標的を定めるしかない。

 魔物や屍の相手を務めていたイシュトはそう確認する。



 「出来る出来ないじゃなく、やらなければ……負け確定ね」

 アリスのその台詞で、イシュトとアリスはアスの方に身体を向ける。


 「出来るの?」

 アリスがそうイシュトに尋ねる。


 「出来る出来ないじゃない……やらなければならないんだろ?」

 そうイシュトが返すが、


 「……貴方の下手な正義感ってやつは、彼を斬る事ができるの?」

 言い方を変える、アリス。


 「……でなければ、俺はあんたを守れない」

 そう続けるイシュトに。


 「……少しだけ、気持ちのいい事言ってくれるわね」

 アリスが少しだけ嬉しそうに言った。


 神奪戦争……最初からの大乱闘は、

 二手にチームを別けるように均衡を今は続けている。

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