第7話 開催の儀 募る正義と交差する意思

 「私はクロウド……神に変わり今回の神奪戦争の開催をここに告げる」

 「己の正義を貫き、この戦争を勝ち抜いたものの願いを神は必ず聞き入れるであろう!」

 各、メンバーの元へ神奪戦争に選抜されたメンバーの告知に周っていた豪華な神官服に身を包む男。

 男はそう集まった者たちへ告げた。


 募った7人の戦士とそのマスターとされるメンバーの計14名が大きなテーブルを囲むように揃っている。

 因みにマリさんは近くの宿で休んでもらい、参加しているのは俺とアリスの二人だ。


 「なるほど、この先、ここに居る者共と争うことになるって訳かの」

 紫色の髪の褐色の女が実に楽しそうに言う。

 行儀悪く椅子に座りながら、両足をテーブルの上で交差するように乗せている。


 「なるほどねぇーーー何か思ったより覇気を感じない連中も居るけど……何ならここでもう何人かやっとくべきかにゃーーー」

 手にした拳銃を楽しそうに順番に標準を合わせ挑発するハレ。


 「やるなら、俺の居ないところで勝手にやれよっ」

 何故か手枷をされている男。

 魔王の異名を持つアストと呼ばれる男。


 「なんかさーーここに居る男連中どもは、誰捕まえてもパッとしねーのばっかじゃん?」

 ハレはさらに挑発を重ねる。


 「弁えろ、貴様らごときと馴れ合うこと、こんな場に居合わせていることすら貴様らには恐れ多い事だ」

 マイトはそう返す。


 一応探りあいをしているつもりなのだろうか。

 

 「たくっここまで挑発してるのに、乗ってこないってどうなの」

 ハレは拳銃を無発言の連中に向ける。


 「……別に私は口喧嘩で勝ちに来た訳じゃない、ここで手っ取り早く全員で決着をつけようってなら構わない、どっかの誰かさんみたいに口だけ達者とは思われたくない」

 無表情に、言いたいことだけはずばりと、レフィは言った。


 「あんっ舐めてんのか!?」

 ハレが乗り出すが、

 同時に自分にも向けられた言葉かとマイトの眉も動く。


 「まぁ……せっかくのこんな場だ、今日くらいはみなで楽しく意見を交わすのも悪くないであろう?」

 制裁に入るようにフーカがそう言う。

 「おい、フーカ」

 余り余計な真似するなとナヒトが言うが、


 「いい加減にしないかッ」

 口を開くのはアクレアの選抜されしレクス

 「これから……望もうが望まないが命のやり取りをしなげればならない中で、そんな馴れ合いなんてっ……」


 「だから、こそではないのか?これから命を取り合う相手がどんな者なのか、どんな思いで戦っているのか知ることも必要ではないかの?」

 そうレクスへフーカが返す。


 「相手の事情を知り、同情を誘うことで単にやり難くなるだけじゃないか」

 レクスがそう返すが、



 「つまらぬ答えだ……それは主の戦う理由が、他人の言葉一つで簡単にひっくり返るようなものであった、そういう事であろう?」

 フーカは返す。


 「そんな事……」

 守りたいものはある。

 戦う理由はある。

 だからと言って、同じように戦う者が居れば、心は揺らぐ。


 「にしても随分と無口だな、魔女?」

 ハレがまだ一言も発していないアリスに振る。


 面倒くさそうにため息をつく。

 「そうね、私は貴方と馴れ合うためにここに来た訳じゃないのよ……」

 何時もの愛想の無さでそう返す。


 「にゃははは、嫌われちゃったかなーーー関係ねーけど」

 笑いながらハレは言う。

 


△△△



 結局このまま残っても楽しい話になりそうに無いと、ほとんどの者がそこを後にした。

 残ったのは、イシュト、フーカ、ハレ、レクスの4名。

 他人の戦う理由を聞きたくないと言ったアクレアの騎士が残ったのは以外だった。

 

「ふむ、魔女のマスターだったか?お主が残るとは意外だったな」

 フーカがイシュトを見てそう言った。

 だけど、俺が魔女のマスターだったのか?

 そんな話は聞いていないけど、俺がここに居合わせているということはそういう事に知らぬ間になっていたのかもしれない。


 「別に、俺はただ魔女と行動を一緒にしているだけだ」

 マスターとかそういう事は関係無い。


 「何故だ?」

 レクスはそう尋ねる。


 少しだけ悩んだが……別に恥じることなどない。

 「情を持ってしまった相手に救いを求められれば、俺は誰だって助ける……」

 「それが、俺の正義……信念だ」

 少しだけ場が凍りつく。


 「ギャハハハハッ……魔女に協力をすることが?」

 ハレは笑う。


 「そんなに面白いか?自分も同じだ……自分も自分の正義を信じこの神奪戦争へ参加している」

 レクスはそう続く。

 国をアクレアを守る。

 教会をシエルをリースさんを守る。


 「正義?本気で言っているのか?」

 ハレが真っ向から否定する。

 「あたしはさぁ、沢山の正義理論みたいなもん聞いてきたけど、それが証明されるような証言を結局一度も聞いたことねーけどな?結局てめーらの自己満足だろ?」

 ハレがそう二人に言う。


 少しだけ悔しそうに顔を歪ませるレクス。


 「それが悪い事なのか?」

 イシュトがそう切り返す。


 「あぁ……悪いね、てめーが正義の味方としてどちらかにつくってことは、もう片方は自動的に敵、悪という認識にされるんだ……どっちもどっちの言い分がある、それはどっちが正しいかって決めるのは本人達の話さ、第三者のてめーの勝手な正義感でどっちが正しいかなんて決められるほどてめーは正しいのか?正しい判断ができんのか?」

 ハレがそう少しだけ感情的になる。


 「わからない……だからと言って自分に救いを求める弱き手を見捨てるようなまねはできない」

 そう返す。


 「だから、そのせいで知らずにあんたに敵、悪と認定された者はどうなる?」

 「そいつが、懸命に救いを求めていてもあんたは無視するのか?」

 ハレがそう叫ぶ。



 「……それは、その場に居合わせてみないとわからないけど、自分の信念を曲げる事はない、俺はその行為が例え自己満足だったとして、誰にも感謝されなかったとして、それが無駄では無かった……そう信じている」

 イシュトが真っ直ぐそう答えるが、


 「……なるほどの、私は特にどちらに付くつもりもなかったのだが、少しだけそっちの女の助言をさせてもらおうかの」

 フーカがそう割って入る。


 「……貴様らがやりたい事や誰かにしてやりたい事をするのは勝手だ、だがのそれをいちいち私が正しい、私が正義ですっそんな言い分は必要なのか?」

 重い眼差しでフーカがイシュトとレクスに言った。

 

 「少なくとも俺は、人を助けるために……そこに干渉するためには、それに担う理由、俺が正義と正しいと判断し行動する事は必要だと思っている」

 曲げる気など無いとイシュトは告げる。



 「ふむ、優しく言っても我の言葉は通じなさそうだの」

 少しだけ威圧的な口調でフーカは返しされに言葉を続ける。

 「我が言っているのは……貴様らの勝手な自己主張やら自己犠牲に対する言い訳にいちいち、正義などという言葉を使いそれらを正当化する理由にするな、そういう事だ」

 フーカはイシュトを目を見ながら、威圧する。


 「誰かを助けたいというのは、間違ったことじゃない……それを正義と信じ己の動力源とすることは間違ってなどいない……もちろんその自分の答えが必ず正しいと思っている訳ではない、俺は俺が救える者……救いを求める者、それを助けることを諦める事はしない、貴方にいくら否定されようと、俺はその意見を変えないッ!」

 強くイシュトは言い切る。


 「ふはっはっはっは」

 フーカは笑い


 「まぁ、よかろう……ナヒト程では無かったが、それなりに面白い主張であったわ」

 フーカはイシュトに少しだけ関心を示すように言う。


 「だが、覚えておけ魔女の使い、我とナヒトはそんな貴様の正義などお構い無しに立ちふさがるぞ、そんな貴様らの正義などと言う立派な理由も無く、己のくだらぬ欲を満たすだけのそんなくだらぬ理由でその正義とやらを全力で潰しにかかる……」

 フーカは笑いながら威圧するかのようにイシュトへ告げる。



 「貴様の言う立派な正義では我の心は揺るがぬ、お前の言葉に比べると実に奴の言葉は滑稽だ、ただ傲慢でわがまま……そんなくだらぬ事に命をかける、そんな馬鹿な弱き者の泣き言の言葉に、我はそんな貴様の正義理論以上に、ここ数十年起こりえなかった……この気持ちに出会うことになった……我の背を我の生き様をしかとアイツに見せつけよう、我の足跡を残してやろう……貴様がどんな正義をぶつけようとも、そんな愚かな我々には何一つ届かない、容赦なく叩き潰すそれだけだ」

 そうイシュトの正義を否定する訳ではなく、肯定もしない。



 「自分も魔女の使いと似た意見だ……ただ少しだけ違う、助けたい者達が居る。それを助ける為に戦うんだ、正義とか悪とかどちらかなど関係はない、例え世界が自分を悪だと判定しても、自分は彼女たちを守る、何としても助けたい人たちが居る……その為なら自分の信念を曲げてでもそれを遂行する」

 自分の正義を曲げないイシュトとは違い、目的のためなら自分の意見を曲げると言うレクス。



 「どいつもこいつもくだらないねーーーー」

 ハレがそう割って入る。


 「戦う事に殺す事に理由をつけてんじゃねーよ」

 ハレが言う。


 「そんなてめーーらのくだらねーー理屈で死んでいった者の気持ちを理解しろよっ」

 目を見開き、手にした拳銃をハレがこちら側に向けてくる。


 「笑わせる……世界を幸せにするために殺し合いさせられてる時点で、この世界がこの神がイカれてることくらい理解できんだろッ」

 そうハレが叫ぶと、遠くでこの会話に干渉するつもりはなく見守っていた、神の使い、クロウドと名乗った男がさすがに眉をしかめる。


 「いいかーーー、あたしは神がこの世界の物語を書き終えたいとかそんなことはどうでもいい……あたしは、あたしとあの人の物語の結末だけが知りたいんだッ」

 自分以外のほか3名には到底理解のできない会話。


 「ーーーくだらぬ……実に貴様の言葉には決意を感じぬ」

 フーカがハレに投げ捨てる。


 「はぁ?ふざけるなっ、てめぇに何がッ!」

 銃口をフーカに向ける。


 「私は泣き言は言いません、あなた達に同情を求めません……そう言ってるつもりかの?駄々漏れだのぉ……貴様の鳴き声、私は可哀想な人間です助けてくださいっての……」

 フーカがそう投げ捨てる。


 がたりとハレが立ち上がり完全にブチ切れたようにフーカへ拳銃を向けている。


 「辞めておけ、我を誰だと思っておる……」

 同じ神奪戦争に選ばれた中であっても、貴様に敵う相手ではないと言わんばかりにフーカはそういい捨てる。


 「くっ……」

 少なくともつわもの揃い、それぞれが自己の能力、相手を見極める能力を持っている。

 ハレとて、目の前の女がどれほどの実力者かは理解している。

 同時に自分との力量の差も理解している。

 滲み出る力の強さ、魔力の強さは、フーカ、アスト、レクスの3名は群を抜いていた。

 ただ、それに変わる能力として自分は次元を超えて集めた数ある武器を所持している。

 それに対抗するだけの力を持っている。

 能力値が均等では無いにしろ、7人7様の勝ち筋が必ずある。


 それで居ても、目の前のフーカは決して自分がここでやりあっても負けることなどないという自身が滲み出ている。


 それにこのレクスという男も、全く殺意や争う意思も感じられないが、自身の秘めえいる能力値の高さは相当なもの。



 あと、この魔女の僕、これが一番未知数……

 それはここに居る誰もが気づいていた。

 実力が全く見測れない……まるでこの世界に存在する事が許されていないかのように、その存在をはっきりと見定めることができない。

 実際に魔女より厄介な人物だとここに居るメンバーが全員そう思っている。

 彼の実力云々より、認識難関というのが何より不気味だった。


 「さて、そろそろお開きにするか?本当にここで今居るメンバーで決着をつけるのも良いが、この場に居ないメンバーからすれば、そやつらを喜ばすだけの話だ」

 フーカがそう切り出す。

 ハレは構えていた拳銃を下ろすと、面白く無さそうにその場を後にする。



 レクスも立ち上がり、一つ礼をすると、

 イシュトへ向き直り、


 「君の意見だけは面白かった、少しだけ考えさせられた……再度、自分の意見を再認識させて貰った、それでやはり、自分は自分の守るべき者の為、必要であれば君にも剣を向ける事になる……できれば避けたい事だが、避けられぬ場合はその時は、お互いに覚悟を決めよう」

 そうレクスはイシュトへ告げるとその場を後にした。


 「魔女の使い……」

 最後に残ったフーカ。


 「まぁ、我の中では貴様の意見が我に取っては一番印象的ではあったの」

 フーカが言う。

 顔だけ向けるイシュトに……


 「……だが我は我で約束をしたのでな、我の背を我の生き様をあの馬鹿に見せてやらねばならぬ……そんなくだらぬ理由ではあるが、貴様の言う正義など全否定させてもらう……悪く思うな魔女の使い、くだらぬ理由であろうと、我にとっては、貴様の言葉以上に価値のある言葉だ、神とやらを怨もうが感謝しようが……共に潰しあう覚悟の上、今後は挑ませてもらうぞ」

 そう言い、イシュトは何も語る事無く二人はその場を後にした。



 残される、クロウドと名乗る神の使い。

 「神よ……いよいよ、始まりますよ」

 そう呟き、イシュト達が出て行った出口に目を向け……


 「貴様の思うようにはならんぞ、今回もまた自分の無力さに後悔するがいい……」

 「貴様の願い……貴様の正義がこの世界で成り立つことはない……」

 「存分に後悔するがいいさ……イシュト……俺を差し置き、神に近づこうなど……」

 そうクロウドは呟く。


 さぁ……始まる。

 世界はまた動き出す。



 今までイシュト達が居たさらに奥……

 人が踏み入れる事のできぬ聖域。



 1人の少女が真っ白な世界に立っていて……

 ぽつりと寂しそうに呟く。


 「……ピースは揃った」

 世界を見渡してるかのように何も無い真っ白な風景を見ながら……


 「……ねぇ、正義の味方はいつ私を助けに来るの?」

 少女は呟く。


 「……私はここ、早く来て……イシュト。」

 神と呼ばれる少女は、そう誰かに助けを求める。

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