第6話 神奪戦争 開催前日談③


 「さっさと起きなさい、駄犬」

 そんな不快な一言で目を覚ます事になる。


 「どうした、こんな時間に……」

 と言っても今が何時であるかは理解していない。

 自分に与えられた部屋で眠っていたが、

 俺の部屋に用意された部屋の椅子を占拠するように、

 こちらを見ながら、まるで下級民族を見るかのようにそうアリスが言った。

 いや、実際そう見ている可能性は高い。



 「下僕、幸せ一杯のところ申し訳ないのだけど、さっそく仕事を与えるわ」

 ちっとも申し訳なさそうでないアリスがそう告げる。


 「あぁ……突っ込みどころは沢山あるが、まず俺が幸せに見えている理由を聞かせてくれるか?」

 ろくな回答は無さそうだが取り合えず尋ねる。


 「美人なご主人様に起こされて、幸せって顔に書いてあるわよ」

 くすりと少しだけ楽しそうにアリスが言う。


 「お前って意外と自意識過剰なのな?」

 そうアリスへ告げる。


 「だって、本当に書いてあるもの……さっき私がマコに書かせたから……」

 そうアリスが言う。


 「えっ……本気か!?」

 意味もなく顔を押さえそう言う。


 「嘘よ…」

 軽々しくそう告げる。

 この野郎……と漏れそうになる言葉を何とか留める。


 「で……仕事ってなんだ?」

 そうアリスへ尋ねる。


 「これから、私とそれと、そこにいる私の別の下僕と3人で聖都へ向かうわ」

 そして、なんとなく気がついていたが、なんとなく見てみぬふりをしていた女性が紹介される。

 黒の短髪で黒い眼鏡をかけた女性。


 「いよぉ、あんたが私の新しい舎弟君だな、私はマリシア、マリ様と呼んでくれていいぜ」

 そう言って握手を求めてきた右手を俺の右手はすり抜け……


 「あたたっ痛い、痛いね、イシュト君、どう考えてもそれはマリさんの右手じゃないな」

 俺は初対面の女性のこめかみに指を食い込ませながら挨拶する。


 「イシュトです。マリさん?なんか、マコと被るし、マリシアって呼んでいいですか?」

 アイアンクローを噛ましながらそうマリさんへそう告げる。


 「ちょ、様付けって言ってる側から呼び捨てになってる……ってか、痛い、痛いのよイシュト君、まずはマリさんのこめかみからその手を離すことから始めよう、ね…ねって……はなぁーーーせぇーーーッ!!」

 若干キレ気味に腕を振りほどかれる。


 「まぢでふざけやがって、とんでもねぇ新入りが入ったもんだ……マリさんは大人の女性だから良かったものの、下手したら一瞬で頭飛んでるぜッ……いいか?マリさんは上下関係には厳しいからな、頭の悪い犬は知らない顔を見ると自分の下と決めたがる、きっちりきょうい……くぅーーーッ」

 再度、一度降ろした腕を元の位置へ戻す。


 「あたたっ痛い、だから痛いの、イシュト君、マリさん……浮いてる、こめかみ掴まれて両足が宙に浮いてるの、そんな不思議な体験しちゃってる」

 誰かに丁寧に状況説明をするようにマリさんはそう告げる。


 「ねっイシュト君、ちゃんと話し合おう、話し合おうね」

 人が自然に身についている行為なのか、俺の腕をぺしぺしと軽くタップしながら、行為を辞めるよう訴えている。


 「あーーーいてぇ」

 マリさんは、再度腕が上げられる事を恐れてか一歩後退して距離を取る。


 「アリス様ぁ、なんすかこの男、とんでもないDV野郎ですよ、教育足りてませんよ……あぁ、眼鏡が壊れたらどうするつもりだ、まぁ……マリさんは眼鏡がなくても、ナイスなガールだけどな、惚れるなよイシュト?マリさん、お前には高嶺の花だかんな、お前には手がとど……」

 再度マリさんが宙に浮く。


 「痛い、痛い……なんで手が届くの?イシュトくん、マリさんのこめかみさっきから、メリメリってメリメリって言ってる、この際、イシュトくんの手が余りにも長いのが誤算でしたってのは内緒にしておくからね、マリさんも反省するね、反省するからイシュト君も女性のこめかみ掴んで宙に浮かばせるのは辞めよう」

 兎に角よく喋ると感心する。

 この一瞬の登場で軽く、俺とアリスの台詞量を超えてるのではないだろうか?


 「あら、あなたたちこの一瞬で随分と仲良くなったわね……」

 取り残されていたアリスはようやく、割って入る。


 「アリス様ぁ、見てたなら助けてくださいよぉ、こいつ、マリさんみたいな黒髪眼鏡美人のこめかみを潰すことに性癖を持つド変態野郎なんですよ」

 怒りを通り越してちょっと面白いくらいに、自分に合わせたワードに変換するマリさんの思考に少し感心する。


 「で、アリス、このポンコツと俺を出会わせることに何の意味があるんだ?」

 俺の手で宙吊りになってる女性を見ながらそう尋ねる。


 「……そうね、それは最初に言ったはずだけど、取り合えず……私をそっちのけで、勝手に宜しくやってくれたことには、そうね、二人仲良く殺してあげるわ」

 さらりと恐ろしいことを言う。

 意外とこの魔女、寂しがり屋なのか?


 「アリス様、ごめんなさい……違う、違うんですよ、こいつが、私が将来の白馬の王子様に最初に捧げるはずの、こめかみメリメリ宙吊りプレイの初体験を奪いやがったのですよ」

 この人はいったい何を言っているのか……

 というか、将来の恋的相手に何を求めているんだこの人。



 「……そう、まぁマリ、貴方はいいわ」

 面倒くさそうにアリスは適当に受け流し、


 「イシュト、あなたはぶっ殺すわ」

 標的は俺1人になる。


 「はい、やりましょう、ヤッてやりましょうアリス様ぁ」

 水を得た魚のように、息を吹き返す。


 「さりげなく、いま……私の事を呼び捨てにしたわね」

 冷たい目でアリスが見る。


 「いいですよぉ、アリスさまぁ、ベッコベコにして使い物にならなくして、誰が本当のポンコツかをおしえ…てぇーーーッ!」

 正直、マリさんのこめかみに凄く自分の手が馴染んで来ている気さえしてしまう。


 「らめぇーーーッマリさんの頭がベッコベコになっちゃう、たったちゅけて、マリさんの頭があぁーーーーーッ」

 だんだん、奇声を発するようになり、黙らせようとしても返って煩い事に気がつく。


 「あーーーっ、あぶねーーー、マリさん新たな快感に目覚めるところだった……」

 煩いから手を離してやったが、何だか恐ろしい発言をしたようにも聞こえたが、

 取り合えず、聞こえなかった事にしておく。


 「で、こいつ何者?」

 なんの為に3人で聖都へ出向くのか。


 「フフフっ マリさんはアリス様の親衛隊、たいちょ…」

 

 「…下僕よ」

 さらりとアリスがマリさんの発言を取り消す。


 「そうね、下僕のあなたの先輩にあたる下僕よ」

 取り合えず、色々思考してみたが……


 「下僕の先輩って……さらに下位に聞こえるぞ?」

 そもそも俺は下僕になったつもりもないが……


 「馬鹿なの……今はあなた方の呼び方なんてどうでもいいわ」

 アリスがそう会話を断ち切る。


 「だったら、今後、その下僕はやめろ、こう下僕が沢山いたんじゃ、誰が呼ばれているのかわからない」

 割とまともな事を言ったつもりだったが、


 「馬鹿なの?クズ、いえ…ゴミ……駄犬」

 下僕以外の俺の呼び方を探したようだが、結局……残念なものばかりだった。

 珍しくマリさんは黙っている……



 「いた……いたたたっ、あれ?あれ?イシュト君、あれれれ?マリさんがまた宙に浮いちゃってる……これ、マリさん、マリさんの頭だなぁ……大人しくいい子にしていたマリさんの頭だなぁ、イシュト君、マリさん良くないと思う、関心しないなぁ……八つ当たりとか絶対良くないと思うなぁ」

 少し図星をつかれ、マリさんを解放する。


 「で、結局……この3人で聖都へ向かうんだったか?」

 イシュトがそうアリスへ尋ねる。


 「馬鹿なの?最初にそう言ったはずだけど……早くなさい、神奪戦争の開催の儀に遅れて、変なペナルティでも課せられたら面倒くさいじゃない」

 そう言ってアリスは立ち上がると、出発の意思を伝える。




△△△




 数日ぶりの外……

 アリスの後ろについて歩き、いくつかの階段を登ると外に出た。


 そとは廃墟のような場所。

 そこの崩れた建物の瓦礫に隠れるようにある下に続く階段。

 そこを隠れ家にするように魔女達は住んでいたのだろうか。


 そんな事はどうでもいいが……

 結局マリさんは準備するといい、結局マリさんを置いて先に出発することになった。

 アリスの前を歩いていたイシュトだったが、


 「止まりなさい」

 不意にアリスに呼び止められる。


 そして、イシュトの前にアリスが立つと、

 一瞬ガラスのような透明な壁がきらりと見えると、

 アリスが手をかざす一部の空間が切り抜かれる。


 「さっさと出なさい」

 今度はさっさと歩けと諭される。


 結界の外へと二人で出る。

 

 不思議な感覚でそこを通り抜け、後ろを振り返る。

 違和感は無い。

 だけど、その風景は先ほどと少し変わって見えた。


 結界を張り、普通の者ではその結界によって、

 その正しくあるべき世界が違って見えているのだろうか。


 「おやーー?魔女の巣を見つけられず困っていたら、そちら側さんから来てくれたみたいだな」

 悪いが以下にも三流の男、賞金稼ぎの男だろうか。

 紳士的な服に身を包んでは居るが、悪いが少しの凄みも感じられない。


 イシュトは背に手を伸ばすと、背中に装着していた鞘から短剣を抜く。

 

 「そうね、お手並み拝見といこうかしら……」

 アリスは少し楽しそうにイシュトの様子を伺う。


 「先手必勝ッ!!」

 紳士的な服の男は拳銃を抜くと素早く、弾丸を数段発射させる。


 抜いた短剣を素早く振るうと全ての弾丸を斬り落とす。



 「あら……意外と器用な真似ができるじゃない」

 素直に感心したようにアリスがそう告げる。


 「てめぇ…そんなまぐれで調子に乗るなよっ」

 再度発射される弾丸を、同じように斬り落とすイシュト。

 諦めろ、そう言う様に相手を睨むが、

 再度、男は銃を構える。


 「ふざけるなっ!」

 再度、拳銃の引き金を引こうとする男の前にはすでにイシュトの姿、

 そして、銃口の先端を手にする短剣で斬りおとす。


 「へっ?」

 男は引き金を引こうと動かない銃を不思議そうに見ている。


 「去れ、命までは取らない」

 イシュトが男がそう告げると、


 「随分と甘い事を抜かすのね、不殺が貴方の正義……とでも言うつもりかしら?」

 貴方が勝手に判断するつもり?そう目が言っている。


 「別に、それでも無闇に命を奪うことはしたくない……」

 そうアリスへ伝えると、

 「ただ、お前が懲りずに俺達の前に現れ、俺の周りの人間に危害をくわえると言うなら、その両腕を斬りおとされるくらいの覚悟はしておけッ」

 ひぃと男はらしく怯え、回れ右で逃げ出していく。


 「はひっ?」

 数メートル離れた先で男は真っ二つに引き裂かれる。


 「アリスっ!?」

 イシュトは思わず怒り任せに叫ぶ。


 「馬鹿なの……私じゃないわ」

 その先をもっと見ろと、遥か先を睨むようにアリスがイシュトに言う。


 「相変わらず、甘っちょろいなイシュト」

 真っ二つに引き裂かれた男の前に、赤い髪の女が1人立っている。

 少なくとも、イシュトの記憶にある人物では無かったが、

 自分の名前を呼ぶ女の様子を伺う。


 少し男っぽい格好……手には黒い包帯が巻かれていて、

 その手には自分と同じように短剣が握られている。


 「……少なくとも俺はあんたと知り合った記憶が無いが、何処かで出会っていたか?」

 少なくとも友好的では無い女性にイシュトが言う。


 「ほんと、毎回……記憶無くして、イシュトあんたは本当におめでたい奴だよ」

 いつ襲いかかってきてもおかしくない殺気を漂わせる。


 「……相変わらずの正義の味方を気どってるのか?いい加減気づけ、この世界にあんたが守る必要のある世界は存在しない……そんなあんたの自己満足な正義を遂行できるような優しい世界じゃねって、毎回、毎回、何度もお前に教育している身になりやがれよっ!!」

 素早く地面を切り上げ、あっという間にイシュトの間合いに入る。

 咄嗟に振りかざした短剣で間一髪その一撃を防ぐ。

 

 「ヒリカ……私の名前だ、一応知らせておくぜ?どうせ私の名前も忘れちまってんだろうからな?」

 かなり動揺している。

 いったい……目の前の女は自分の何を知っているのか……


 「思い出してみろ……どうせ思い出せねぇんだろ?お前がそのその魔女と出会う前の記憶、イシュト……お前は何処で何をしていた?」

 鍔迫り合いの中で、ヒリカと名乗った女はそうイシュトにそう話しかける。


 「……俺は……」

 俺は正義の味方になりたかった……

 だから……魔女の討伐に……


 「ちぃ、うざってい魔法だなッ!」

 ヒリカはその場から後ろに大きく跳ぶと、アリスが放つ魔法を回避する。

 

 「勝手に私の駄犬を飼育するのは辞めてくれるかしら」

 アリスがそうヒリカを睨みつける。


 「はぁ?魔女風情がイシュトを私物化気どってんじゃねーよッ!」

 黒い包帯から黒いオーラの様なものが漂う、

 短剣を明らかに離れた距離からアリスに向かい一振りすると、


 黒い旋風が一直線にアリスの元へ飛んでいく。

 

 「くっ!?」

 アリスは両手を目の前にかざすと、防壁の結界を作り上げる。

 黒い旋風は、結界と相殺するかのように消える。


 アリスは少なくとも神奪戦争に選ばれるだけの能力者だ。

 それに匹敵する……まして、俺とアリスを同時に相手にし、

 されにマウントを取ろうとしているこの女はいったい何者なのか……


 相殺すると同時に地を蹴り上げアリスの元へ駆け寄るヒリカ。

 咄嗟にその間に入り込むと再度、相手の短剣と自分の短剣を重ねる。


 「イシュトっ!!」

 そのアリスの言葉に全て理解したように、左に身を避ける。

 同時にヒリカも上体を左に反らすと、

 向かい合っていたイシュトとヒリカは互いに左右反対に身を反らす形となり、

 その間に魔女の放った魔法が通過していった。


 「ッ!?」

 すぐに、イシュトはその場で踏みとどまり、地を蹴り上げヒリカの側部を取ると、一気に短剣で斬りかかる。


 「見え見えだ、つまんねぇ……」

 こちらも向きもせずにヒリカの伸ばした右腕はイシュトの一撃を弾く。


 「記憶と一緒に力まで忘れてきたのか?」

 そのヒリカの余裕を他所に、イシュトは短剣をスライドさせ、

 さらに、その横をすり抜け、ヒリカの懐に入ろうとする。

 

 「それも知っているよ……師匠」

 そう不思議な事を抜かしヒリカは簡単にその攻撃も防ぐ。

 まるで、自分の動きを知り尽くされているかのようだ。


 「さぁ、こっからどうする……?」

 「もう、お終いか?」

 そうヒリカが言うと、また右手に黒いオーラが纏い、

 短剣を振りかざすと、強く弾かれるイシュトの腕から短剣が弾き飛ばされ、

 後方の地面に突き刺さる。


 「どうやら、終わりみてーだな?」

 ヒリカが右手を振り上げると……

 目の前で爆風が巻き起こる。


 アリス……?では、無いようだ……。


 「後輩のピンチに颯爽さっそうと登場っ、マリさんの株価はうなぎ登りですなぁ」

 今までの緊張を台無しにするかのような、間の抜けた口調。

 さっきまで装着していなかった黒いマントをなびかせて、

 黒い大きい鎌を首の後ろに回し、両手と両肩で持ちながら、

 人5人分くらいの高さに積み上がった瓦礫の上でそれっぽくポーズを決めている。


 煙の中からは、ほぼ無傷で現れるヒリカの右手はすでに黒いオーラが纏っていて、

 何も言わず振りかざした短剣から黒い旋風が一直線にマリの元へ向かった。


 「ありゃりゃ、マリさん切り裂かれちゃったよ」

 棒読みでそうマリさんが無抵抗で真っ二つになるが、

 幻影のようにその姿が消える。


 「残像……だよっ」

 そんな厨二くさい台詞を吐きながら、隣の瓦礫の山に姿を現す。

 トンっとその瓦礫の山から下りると、疲労しているイシュトを中腰の体制で眺め、

 

 「イシュト君、大丈夫ーー?後はマリさんに任せておきなッ!ちょっと乱暴君だけど私にできた可愛い後輩君を苛めてくれた奴には、しっかりとマリさんが仕返ししてやるぜぃ、コノヤローッ!」

 ヒリカに向き合うマリさん。

 正直、混乱している……相手は自分の主人も苦しめているような相手だ。

 それを……


 「くだらねぇーーーすっこんでろッ!」

 黒い旋風がマリを襲う。

 が、その姿はやはり幻影と消える。


 「芸が無いなぁ……その力で大抵の奴はどうにかなるんだろうけどさぁ」

 別な場所に姿を現すマリがそう言って、ニヤリと笑う。


 「まぁ……イシュト君のためにこんな言い方してやろうか?」

 意地悪そうに笑い、

 「見え見えだ、つまんねぇーーーッ」



 「調子にのんじゃねーーーッ!!」

 ヒリカはブチ切れるように地を蹴り上げ、マリに詰め寄る。


 「わわわっ……ちょい、怒ったなら誤るけどさぁ」

 そう言いながら、後退しながらひょいひょいとその攻撃を交わしていく。


 「……何が理由で絡んできたのかしらないけど、余り私達を舐めてんじゃねーよ」

 焦っていた顔が急に真顔になる。


 「マリさん、普段は温厚なタイプだけどな……怒り頂点になるとドッカーンだぜ?」

 グーの手をパーにして、その様子を表現する。


 瓦礫の壁に追い詰められる。


 「ばかかっ、終わるのはてめーーだっ!イカレ女がッ」

 壁に追いやったマリに短剣を腹部へと突き刺す。


 「あーあ……マリさん、こんなに血がでちゃってるよぉ……」

 言いながら腹部を押さえ……

 ホラー映画の役者のような演技で、俯いた頭を上げ、ヒリカの顔を下から覗き込む。

 「言ったのになぁ……どっかーーーーんッ!!」

 そう言うと、ヒリカの目の前のマリが本当に爆発する。


 「っ!?」

 まともにその爆発を受けながらも、すぐにマリ本体を探す……


 「なっ?」

 振り返った、懐に既にマリの姿がある。

 右手の手のひらをひろげた状態で腹の位置まで下げている。


 「力を失っているイシュト君抜きなら、私達全員潰せると思ったか?」

 マリの台詞に戸惑う。

 こいつは何者なんだ?

 今までの記憶の中に……こんな奴の存在は?


 「マリさん、優しくないからなぁ……簡単に殺してなんてやらねーぜ?三下に負けた屈辱の中、生きていくんだなッ!!」

 ドンっと嘗打をヒリカの腹部に決めると、遥か後方へとヒリカの身体が吹き飛ばされていく。



 「ヤバイ……一言も喋れなかった……」

 呆気に取られ、完全に見入っていたイシュトがそう呟く。


 「まぁ、相性の問題よ、マリはあの手のタイプとは相性がいい」

 アリスがイシュトにそう返す。


 吹き飛ばされたヒリカは、この場は完全に分が悪いと悟ると、

 大人しく、その場から撤退する。


 「あれーーー、イシュト君どうしたの?瞳の中がハートマークになってるよぉ」

 何時もの憎たらしい笑みでマリがイシュトをからかう。


 「そんな訳あるかッ!」

 取り合えずそう返すが、感心したのは確かだった。

 

 「馬鹿なの?さっさとしなさい、またあんなのに絡まれる前にさっさと聖都に急ぐわよ」

 そんなやり取りをしてる二人に呆れた言葉をアリスがかけ、しばらくそんな二人のやり取りが続きながら3人は聖都を目指す。 

 

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