第2話 各々の正義と戦う理由①

 イシュト達の現在地の遥か南東の国……

 オーガニストという国に舞台は移る。


 その国では、国の偉人達が集まり緊急会議が開かれていた。

 「今、告げた通りです……この国に居るアストという少年、彼が今回の神奪戦争の 戦士へと選ばれた、そしてこの国を支配する貴方が彼のマスターとして選ばれた」

 白い少し豪華な制服に身を包んだ男が、その国の主にそう告げる。



 神奪戦争、基本は神に選ばれた戦士がその舞台で争い戦う事になるが、

 その人物を所有するような人物がいる場合には、その者をマスターとし、

 その神に選ばれし戦士を従えることができれば、共に戦争へ参加し、

 勝利へ導くことが出来れば、その権限の一部を与えられる。


 「待ってくれ、奴はまだ……」

 国の主は少し焦ったように、神の使いとして現れた男を呼び止める。


 「どうしました?神奪戦争の参加を拒否されるつもりですか?」

 神の使いの男はそう返す。


 「……いや、そうではない、だが……」

 歯切れ悪そうに国の主が言う。


 「参加を望もうが望まないが、神が選抜したメンバーの変更は有り得ない」

 バサリと神の使いが言い放つ。

 「貴方はマスターとして、来るべき日までに彼を手なずける方法を考える事ですね」

 そう言って、神の使いはその場を立ち去る。


 残された部屋に残された、国の主とその他、偉人たち。


 「奴はまだ、この戦争に参加する気は無いとそう言っているのか」

 国の主がそう怒鳴るように周りに確認する。


 「はい、自分の力は人を殺めるためにあるわけじゃないと……」

 その場の席に座る一人がそう告げる。


 「それで、アストは今何処に?」

 国の王のその問いに


 「はい、奴の力だけは本物です……従わぬ力といえ、この戦争を勝ち抜くだけの能力を持っています」

 席に座る男が続ける。

 「従わぬ出すぎた力は返って国を危険に晒します……故に今は離れた孤島へ幽閉しております」

 その男の言葉に、


 「離れた場所に幽閉?何か意図があるのか?」

 そんな国王の言葉に、


 「はい、少し荒っぽい説得になりそうな故、この国にその力が向かぬよう……」

 男の言葉に国王は納得していた。



 舞台はさらに、今の会話で出た孤島へと移る。

 そこに1人の少年が幽閉されていた。


 そんな場所に少し体格の良い、三十代後半位の男が使わされた。

 

 神奪戦争に選ばれるだけの力を持つ少年の監視役。

 一つ間違えばその力で命を奪われるかもしれない。

 そんな貧乏くじを引かされることになった。

 嘆いていたが、もう少しで好いた女性との結婚。

 そして、その婚約者のお腹には2人の子供が居た。

 今、職を失い稼ぎを失う訳にはいかない。


 そんな鉄格子越しの2人の出会い。

 そんな最悪と思われた出会いが、

 その短い2人の生活が……

 互いの運命を変える形になるとはその時は、

 考えもしなかった。



 少年はそんな場所に幽閉されているにも構わず、

 笑顔で誰も怨んでいない笑顔で、その男を出迎えた。





△△△





 そことは、また違う場所……

 魔法が栄えた国、レジストウェルと呼ばれる国。

 魔法に特化されたその国は、全ての生活、社会に置いて、

 魔法が基本とされており、魔法の使えない者は、

 レジストウェルでは国民としてさえ認めて貰えないほどであった。


 「ぜぇーーはぁーーぜぇーーはぁーー」

 何かから逃れてきたかの様に、少年が1人息を切らせ、無人の建物の中に身を潜めている。

 彼はミクニ家と呼ばれる、レジストウェルの国の中でも、

 三大勢力に入る名家の家系の1人であった。


 だが、彼は一度もミクニ家の人間として扱われることは無かった。


 魔力を持たずして産まれた彼は、16年と言う年月を得てもまだ、その力を覚醒させる事は無かったからだ。

 家計に泥を塗るまいと彼の存在はこの16年間隠すかのように、生かされてきた。


 悔しかった?誰かに認めて貰いたかった?

 こんな思いをさせられた家族への復讐がしたかった?


 「そんなんじゃないんだ……」

 少年は整えた呼吸で、誰かに言い訳するようにそう呟く。


 懐から一つの宝石を取り出す。

 ミクニ家に伝わる家宝。


 何でも、この世界に平行する別の世界線から、

 そこで活躍する英雄を呼び寄せる事のできる代物ということだ。

 

 ミクニ家がこの来るべき神奪戦争の日の為に大切に保管してきたものだ。

 呼び出された戦士のマスターとしてこの戦争へと参加する。

 その大切な家宝を奪い逃げてきた。


 「……大丈夫、召喚のやり方は覚えている」

 また、誰かに言い聞かせるように少年は呟く。


 魔方陣を描くとその中心へ宝石を置く。

 だが、魔方陣へ送る魔力を少年は持ち合わせていない。


 魔力を秘めた魔道具と呼ばれるものを、媒体とするため、

 少年が持ち言った魔道具を魔方陣の周辺へと配置していく。

 同時に魔力を秘めたナイフで自分の手のひらを少し切り、

 血を魔方陣へと生血を注ぐ。

 

 魔方陣が光輝くのを確認すると、

 少年は覚えた契約の言葉を丁寧に言い放つ。


 カッという鋭い光が部屋に広がると強い衝撃で少年の身体は魔方陣の外へと弾き飛ばされ、尻餅をつくような形で魔方陣の中に目を向けた。

 光が少しずつ収まる。


 「えっ?」

 少年は驚いたように声をあげる。

 正直、失敗かとも思ってしまう。



 「ふむ……これはまた、奇妙な場所に出たの」

 魔方陣の中の人物はキョロキョロと周りを見渡しながらも、

 少し困ったような顔をしながら、すぐに状況を受け止めたかのように、

 真っ直ぐな目線で少年を見た。


 「少年、我をここへ呼んだのは貴様か?」

 言葉遣いの割にはそこまで年配という訳でもないだろう……

 20代前半というところだろうか……

 褐色の随分と薄着の女性が立っている。


 紫色の長い髪をポニーテール上にまとめており、

 シャツ一枚しか来ていない薄着のわりに首には自分の髪と同じ色のマフラーを巻いている。


 「どうした?少年……褐色の女性がそんなに珍しいのか?」

 驚くだけの少年に褐色の女性はそう尋ねる。


 「えっ、お前が……えいゆう、なのか?」

 戸惑う少年がやっと口を開く。


 少しだけ冷たい目で……

 「我では不服だと言うのか?」

 何故、自分がここに呼ばれたかも解らないだろう褐色の女性はそう言い放つ。


 「まぁ……だいたいは、ここに我が呼ばれた理由は想像はつく……ここが別の世界だろうとしても、世界構成は早々に変わらぬだろうからな」

 全てを見透かしているかのように女は少年を睨みつけ、


 「貴様は我を使い、この戦争を勝ち抜いてまで……神に何を願う」

 当然、彼女にそれを問う権利はある。

 召喚され強制的に神奪戦争に参加をさせられる事となるとは故、

 自分が戦う理由が少年にあるのだから。

 それに担うだけのものが無ければ従う理由すら無いのだ。


 「……わからない」

 これには、さすがに予想外だったように、

 褐色の女は困惑と怒りの半分づつの表情で少年を見る。


 「そもそも、この神奪戦争で勝利者になろうという考えまでは無かった」

 この戦争への参加が、取り敢えずの彼の目標であった。


 「これまた、珍妙の答えがでたものだの……」

 怒りすら含んでいるかのような笑みで、褐色の女は答えた。


 「僕には魔力が無い……僕の産まれた家系は魔力に優れた家計だ……なのに僕は魔力を持たない、家系に留まらないこの国切っての落ちこぼれだ……」

 怖い……こんな理由で呼び出されたと知れば、僕は殺されるだろうか?


 「誰からも必要とされず……誰からも見ようとされず、この世界に僕という存在は無かった事にされているんだ」

 こんな事、言ってどうなるんだ?


 「僕は……存在している、僕は……この時を、この今も存在しているんだっ僕が生きて来た証を、生きた証拠を、生きた歴史をこの神奪戦争という場所に刻んでやるんだっ!」

 震える声を絞り出す。



 「自分の力でもない、誰かの力にすがってか?」

 冷たい口調……褐色の女がそう告げる。


 「少年、それは貴様の言う歴史にお前と言う存在を刻んだと言えるのか?」

 その通りだ……結局僕自身は何もできない……だけど。


 「笑いたければ笑えっ……これから僕の言う事を……価値が無いと思うなら殺せばいい……僕は覚悟して今、ここに居る」

 震える膝を奮い立たせる。


 「……僕はこの神奪戦争に置いて、生涯尊敬する英雄を召喚し時を共にすることになる、今、この時に儀式を得て現れる相手こそ、僕という存在を捧げる相手になる、共に命を駆ける相手になる……僕はその背に憧れ、その背を追い求め、僕もそんな英雄になりたいと願い、僕はその英雄が刻む歴史をこの目でだれよりも側で共に歩むことになるんだっ、そんな贅沢がこの今の僕で買えると言うなら安い買い物だっ……逆に問う、お前はそんな僕の理想を叶えられる英雄なのかッ!!」

 そう叫ぶ。


 「ふはっはっはーーッ」

 褐色の女は遠慮なく大笑いする。


 「元の世界でも我の力にすがる者は誰も下らぬ事をくちにしたが……くくくっ」

 実に楽しそうに。

 「その中でも群を抜いて、くだらなく、愉快な話であった」

 くくくと腹を抱えながら笑っている。


 「少年……偽りは無いか?この先に後悔はないか?」

 いつの間にか鋭い目で褐色の女は少年へ問う。


 「よかろう……少年、貴様が生涯誇れる歴史に我が人肌脱いでやろう、貴様がどれだけ素晴らしい英雄とこの戦争を渡り歩いたかを生涯に語り継がせてやろう」

 少年は確信する……目の前の女性がそれに相応しい人物であることを。

 自分の理想、それ以上の人物であることを。


 「ナヒト、それが僕の名前だ」

 そう少年は告げる。


 「我はフーカ、貴様の語る歴史でもっとも偉大な英雄の名だ」

 揺るがない彼女の自信と笑みに、ようやくナヒトは表情を緩めた。




△△△



 また、別の国……世界の中心から少し東に向かった、ミストガルと呼ばれる国。

 そこでも、1人の女性が、神奪戦争の戦士の1人に選ばれていた。

 その女性を迎えに、次の国の候補である王子の1人が、その女性を迎えに馬車を走らせ、彼女と数名の名の有る傭兵を雇い城に帰る途中であった。


 黒髪の15歳にも満たなそうな、まだ若すぎる年齢でありながらも、

 時期党首になるべく、この神奪戦争と言う舞台は彼にとっては名を上げる場に置いてこの上ない舞台であった。

 そして、誰よりも先に選ばれた戦士を見つけ出し、自分をマスターとして受け入れられる必要があった。


 「先ほども自己紹介したけど、僕の名はセン、レフィ……と言ったよね?僕との契約を承諾してくれた事を改めて感謝する、共にこの戦争を勝ち抜こう!」

 掴み取った権利をセンと名乗る王子は、嬉しそうに選ばれた戦士である、レフィと言う女性に話しかける。

 ピンク色の短い髪……服装も身動きの取りやすそうな服装で、身が守れそうな鎧的な装備は一切ない。

 手には大事そうに一切手放さないように鞘に納まった剣を持っている。

 ただ、センが見慣れている鞘の形とは違い、鞘の左右の長さが対称では無かった。


 「さっきも言ったけど、興味は無い……貴方にもこの国の行く末にも……」

 レフィは本当に興味が無さそうに、その言葉を発することも面倒くさいかのように目もあわせず呟いた。


 「……そんな、でも、どうして僕と契約を……」

 実際、レフィに契約を持ちかけたのはセンが一番乗りだった訳ではない。

 やはり、同様にこの舞台を糧に時期王の座を狙った者は他にも居て、

 センより手際よくレフィの元へと訪れるものは居た。

 だが、レフィはその全てを断った。

 そして、センの契約の時も乗り気では無かった。

 だが、断らなかった。


 「……貴方なら相応しいと思ったから」

 言葉足らずでレフィがそう呟く。


 「……え?僕がこの国の王に?」

 ……自分でも理由は解らないが、会話の流れからそう解釈をしてしまう。


 「……違う」

 呆気なく否定をする。

 フフっと少しだけ鼻で笑い、

 「……私のこの呪いを引き継いでくれる相手に」

 


 「え?」

 全く理解できなかったが、その言葉の不気味さは伝わる。


 「安心して、貴方が契約の時に私の出した条件さえ守れば、契約を破ることは無い……」

 そう言うと、座り込んでいた姿勢から立ち膝に体制を変える。



 その途端、レフィとは別に数名雇った傭兵の中1人のフードを被った男性が突如立ち上がろうとしたが、立ち上がることも許さない速さで、鞘から刃物を抜かぬ状態で鞘の先端が男の喉仏の数ミリ前に向いている。


 「えっ?」

 センは何が起きたかわからず、その男の様子を見ると、

 手には刃物が握られており、恐らくその先の標的は自分であったと推測される。


 レフィは鞘を男の衣服に絡めると、そのまま男を軽々しく馬車の外に追い出した。

 隣に座っていた別の女の傭兵がただただ、唖然と様子を見ている。


 「外に沢山の仲間を集めている、ここで襲撃するつもりだったのかと思う」

 見知らぬ女の傭兵にレフィは言う。


 「えっと……私も……」

 女の傭兵が自分も戦うべきだろうと共に向かおうとするが


 「私、1人でいい……貴方達はそこの王子様を守ってくれればそれでいい」

 そう言ってレフィは1人外へ飛び出す。



 ざっと見て、敵の数は20名程度。

 恐らく、王座をめぐっての他の眷属からの差し向けだろう。

 もしも、センが上手い事、マスターの座を得た場合、

 その権利そのものをここで奪い取るつもりだったのだろう。

 くだらぬ、権力争い。

 私には興味は無い。

 

 だが、舞台は整った。

 それは私も同じ事。


 鞘から刃物を抜き取る。



 「えっあれは!?」

 馬車から外を見ていたセンが驚く。

 変な形をしていた鞘から取り出された刃物は、

 センが知る剣とは違い、片方にしか刃がついていない。


 「刀……?」

 女の傭兵がそうぼそりと呟く。

 「実際見るのは初めて……」

 ここより、さらに東に位置する国、今では地図から消えようとしている国

 サンフレアと呼ばれる国の代物。

 「それにあんな色の刀……見たこと無い」

 赤……紅色……というべきか、通常の銀色ではなく、刀身は紅色に染まっている。

 

 「……私が最強だ」

 ぼそりとレフィが言う。

 証明しなければならないのだ……

 理由など知らない、それが私にかけられている呪い。


 雇われた野盗の1人がレフィに飛び掛る。

 一瞬目をその野盗に向けるが、すぐに目を反らす。

 少ない動作でそれを避けると、野盗は勢い余って数歩レフィの横切って行く。

 レフィはその男を気にも留めず、前だけを向いている。


 「てめぇーーっ!」

 野盗は振り返り、再度襲い掛かろうと剣を手にした右腕を振りかざそうとしてその異変に気づく。

 「……れ?」

 自分の目の前に刃先が見えるくらいに手を振り上げたつもりが、見えない。

 それどころか……


 「ぎゃーーーっ!」

 ようやく、それに気がついた野盗がその痛みに声をあげる。

 振り上げようとした右腕がいつの間にかすでに切り落とされ、

 遥か上空の空から落下してきた。


 「凄い……」

 センは素直に驚いていた。

 普通なら目を背けたくなるような残酷な場面……

 なのに、センはその彼女の動きに魅入られていた。

 美しいとさえ思ってしまった。


 残りの野盗共が一斉に動き出す。

 身体をその場に固定し一切顔も動かさず、目の瞳孔だけを一瞬周囲を素早く見渡す。

 そして、何事も無かったかのように、やはり全ての敵から目を反らす。

 まるで、全て理解した。

 全ての敵の未来の動きを予期したかのように。


 まるで、全てが仕組まれている演劇でも見ているかのようだ。

 女の傭兵は思った。

 全てを無効化にするような防御的な特殊能力、

 または鋼のような肉体……

 はたまた、瞬間移動のような特殊回避、そんな能力者は数多く見てきた。

 だが……目の前のこの女は。


 一歩足を下げるだけ……

 顔を少しずらすだけ……

 常体を少し反らすだけ……

 全て紙一重とも言える様な、僅かなズレで全ての攻撃を回避している。

 全く計りしれない。

 

 気がつけば、血の海と……死体の山が出来上がっていた。

 無論、彼女は傷一つ受けていない。


 丁度天辺に差し掛かった、太陽の光はその栄光を称えるように、

 彼女だけを眩しく照らし、

 刀をその場で一振りし、付着した血を弾き飛ばすと、刀を鞘に納める。



 「……舞台は整った、だからもう私を解き放て」

 最強になる。

 最強にならなければならない。

 理由なんて知らない。

 それが、私にかけられている呪いであるから。


 世界の強者が集まるこの戦争で。

 勝ち残る者こそが最強だ。

 そんな舞台を用意した神と言う者に感謝しよう。

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