第26話

「シシリーさまいつまで私を待たせる気ですの!」


 村にメーリスがやってきた。


 メーリスは仁王立ちになり、シシリーに命じる。


「メーリスさま……私などではなくメーリスさまにはもっとふさわしい方がいらっしゃると」


「選定の剣を引き抜いたのに、まだそんなことをおっしゃるんですか?」


 シシリーはそういうが、選定の剣を本当に引き抜いたのはセンである。だが、センはそのことを証明してくれない。面倒だからだ。


「私はこんなにもシシリー様を愛しているのに、どうして重いが伝わらないんですの」

 メーリスはそういうが、シシリーとしては王族の話をはっきりと断るわけにはいかないので困っているのである。王のほうもシシリーの気持ちが分かっているのか、メーリスとの縁談話ははっきりとさせていない。きっと本人たちの気持ちを考えてと思っているのだろう。


「私の思いに答えられないのは、セン。あなたが邪魔をしているからですか」


 いきなり水を向けられたセンは、首を振った。


「俺は関係ないだろう」


「いいえ。あなたがシシリー様と一緒に暮らしているから、シシリー様は『まだ結婚はいいや』的な気持ちになってしまっているのです。あなたがシシリー様から離れれば、シシリー様はきっと結婚に心動かされます」


 無茶苦茶な話ではあるが、一利あるかもしれないとセンは思った。だが、勝手に押しかけてきたのはシシリーなので、出ていくのならばシシリーであろう。そして、シシリーがでていかないことは目に見えている。


「……そうだ。メーリスさま。シシリーは田舎で暮らしたいっていってるんだけど、あんたに田舎の暮らしができるのかよ。特に料理なんかは都会より面倒だぞ」


 王族の姫君が料理などできるはずがない、センはそう思っていた。


 だが、メーリスはめげることはなかった。


「料理勝負ですね。乗りましたわ」


 その言葉は、センの想定外の言葉であった。


 メーリスは予想以上に料理ができた。そういえば彼女はかつて冒険者になりたいと言っていたような気がする。そんなことをセンは思い出していた。


「私、料理の腕には自信がありますわ」


 メーリスの言う通り、彼女の手際は見事だった。


 一方でセンの料理は可もなく不可もなくの家庭料理である。


 二人が料理勝負をしていると、魚のなかにデビルフィッシュが混ざっていた。デビルフィッシュは足のある魚であり、センはそれを避けた。シシリーはそれをみて、毒のある魚なのだなとなんとなく察した。だが、メーリスがその魚に触れようとする。


「危ない!」


 シシリーはメーリスを庇った。


「セン、この魚は?」


「ああ、とげに毒がある。普通に触ると危ないぞ。ちなみに、身は美味い」


「私も知っていますが、シシリーさまは私を守ってくれたんですね。なんてお優しい」


 メーリスはうっとりしていた。 


 シシリーとしては、助けられそうだから助けたに過ぎないのだが。


「これで最後の仕上げです」


「こっちもできたぞ」


 メーリスとセンは、二人とも料理を終えた。


 作ったのは、二人ともシチューであった。


 味は、双方ともに普通だった。


「セン、次は負けないですからね」


 メーリスはそう言ったが、センとしては次もあるのかと思うと沈んだ気持ちになった。


「この大量のシチューはどうするんだよ」


 シチューは大なべ料理である。


 二人ともそれを作ったから、大量に余ってしまっている。


「しばらくはシチュー続きだぞ」


 あーあ、とセンは肩を落とした。

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