第25話

 シシリーの言葉に、センは驚いた。


「学校の臨時講師の仕事?そんなの俺にできるわけないだろ」


 センはそう言ったが、シシリーはセンの手をぎゅっと握った。


「センだったらできる。絶対にできるから」


 シシリーの言葉に、センは息を飲んだ。


 彼は真剣に、センを説得しようとしていた。


「センは魔術が使えるけど、薬草にも詳しい。そういう一面を知ってもらえれば、変に怖がる人も減るんだと思うんだ」


 シシリーの言葉に、センは黙り込む。


「一度だけだからな」


 そういって、センは了承した。

 



 当日、センは学校に行って子供たちに薬草のことを教えにいった。毒があり取り扱いを注意しなければならない薬草の話をしただけであった。授業はそれなりに成功と言えた。センは精一杯やっていたが、授業中寝ている子も何人かいた。センは、そういう子どもを注意できずに授業を終えた。


 授業を終えた後のセンは、少しばかり疲れているようだった。


「疲れた。教師なんて柄じゃないのに」


「結構うまくできてたぞ」


 シシリーは微笑む。


 センの授業をシシリーは教室の端っこで聞いていた。緊張するセンを見るのは楽しかったし、薬草に詳しくないシシリーには授業はためになった。


 そんな会話をしていると「魔獣がやってきたぞ!」という叫び声が聞こえてきた。その叫び声は聞いたセンとシシリーは学校を飛び出す。するとそこにはホーンラビットの群れがやってきてきた。一角獣の角のようなものを生やした兎は群れで村を襲う。


「シシリー」


 センが叫ぶと、シロが巨大化していた。


 巨大化したシロにセンは「ファイヤボール!」と叫ぶ。シロは炎を吐き出し、ホーンラビットの群れを焼く。その炎をものともしないものが数匹いた。その兎をシシリーは、叩き潰す。だが、ホーンラビットはシシリーの剣を振り払う。


「このホーンラビット強いな」


 シシリーは、にやりと笑った。


「だが、叩き潰す」


 シシリーは剣を持ち直し。ホーンラビットを叩き伏せる。ホーンラビットは絶命し、シシリーは剣を鞘に納めた。子供たちがおずおずとシシリーに近寄ってくる。


「ホーンラビットを倒したの?」


 その質問にシシリーは「ああ」と答えた。あっという間に、シシリーは子供たちに囲まれてしまった。


「すごーい」


「剣を見せて、剣を」


「どんな修行をしてるの?」


 シシリーはセンも戦ったのだと言いたかったが、魔術に怖い印象をつくのも恐れた。それで言いよどんでいるうちに、またシシリーだけが褒めたたえられてしまう。


「今日の授業を聞いてたかい?聞いてれば、センみたいに物知りになれるからな」


 せめてシシリーは、そう言って子供たちが今度は居眠りをしないようにいう。すると大人たちからは「教育にも熱心だとはさすがだ」と言われてしまった。


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