第23話

 泉から出てきた、シシリー。


 センが乾かしてくれたが、それでも匂いが気になった。そのため風呂屋へ向かうことにした。田舎では沐浴ぐらいしかできなかったが、都会には湯を沸かした風呂屋がある。都会にいたころは、風呂屋に通うことがシシリーの楽しみだった。


「風呂屋?」


 だが、センは風呂屋を知らなかった。


「暖かい湯で体を洗うところだけど、行けば分かるさ」


 シシリーは、センを引っ張って街の風呂屋へと向かった。風呂屋では男湯と女湯が分かれていて、脱衣所で衣類を脱いだ。


 そして、タオルでおおわれた浴室へと向かう。浴室には湯気が充満しており、センは驚いていた。センが驚いたのは、それだけではない。


「お湯がはってる!」


 浴室のなかには、お湯がたっぷりと入った浴槽があった。


 センは、それに驚く。


「こんなの田舎にはなかった……」


 茫然とするセンに、シシリーは手ぬぐいと石鹸を渡す。


「風呂に入る前に、体を洗うんだぞ。ほら」


 センがお湯で石鹸を泡立てると、今まで見たことがないぐらいに石鹸が泡立った。それで体を洗うと今までにないほどに体がさっぱりする。


 そうして湯につかると体が暖かくて、その心地よさにセンはうっとりとした。


「すごい。お風呂ってすごい……」


 温かいお風呂に感動するセンに、シシリーは笑った。


 実は、シシリーも最初に風呂に入った時には同じような感動を味わったのだ。


「これが王都にいるときの醍醐味だよね」


 シシリーがセンに同意を求めていると、じっとセンはシシリーを見つめていた。


「どうしたの?」


「筋肉……すごいなぁって」


 センは目を輝かせてシシリーの腕に触る。


「こんなに山みたいに盛り上がって、俺と全然違うだろ」


 衣類を身に着けていないシシリーの体は、かなり細かった。シシリーはセンは自分より年下だろうと思っていたが、それは服を脱いだことで確信に変わった。センの肉体は、いたるところが細くて未発達だ。


「鍛えていたからね」


「今だって鍛えてるだろ。朝とかに色々やってるの知っているんだぞ」


 センの言葉に、シシリーはバレていたかと舌をだした。別に秘密にしていたわけではないが、ある程度体を動かさないと気持ちが悪くて仕方がなくなるのだ。


「俺も鍛えたら、そうなるか?……いや、無理だな」


 センは自分で言って自分で諦めていた。


「鍛えたら、君だって筋肉がはずだ」


 シシリーの言葉に、センは首を振る。


「俺はお前みたいな筋肉だるまになる気はないって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る