第22話

ラムは、むっとしていた。


 シシリーが、メーリスの許嫁に相応しくないと思った方である。メーリスは、ラムにとっては初恋の人だった。メーリスは物事の意見をはっきり言う人で、いつも自身に満ち溢れている。そんなメーリスにラムはほれ込んでいた。


 けれどもそんなメーリスに惚れたところで、ラムがメーリスの許嫁になれる可能性は低かった。メーリスとラムとでは身分は釣り合うが年齢が釣り合わないからだ。それよりもずっとシシリーとの結婚のほうがありえると父に言われて、思わずラムはシシリーに会いに来てしまった。


シシリーは泉のなかから出てきた。


どうしてそんなところから出てきたのかも分からなかったし、なにをやっているのかもわからなかった。だが、腹立たしいことにシシリーはラムを子ども扱いして、どうして泉のなかにいるのかも教えてくれなかった。


「メーリス様のことが嫌いなのか?」


 ラムは、シシリーに尋ねた。


 シシリーは非常に困ったような顔で、センの方を見た。センは首を振るばかりだった。


「好き嫌いでいえば、好ましい性格の方だと思いますよ。ですが、私は姫と一緒になるわけにはいきません」


 きっぱりとシシリーは言った。


「どうして、それを王に言わないんだ」


 ラムの言葉に、シシリーはうっと言葉に詰まった。


 実のところシシリーはずっとメーリスとの結婚話をのらりくらりと躱していたのだ。


「……もしも、王に直接命令されたら私は臣民としてそれに答えなければならいません。それを恐れているんです」


 その言葉に、ラムは眼を丸くした。


「命令されることが怖いの。魔王を倒したのに」


 ラムの言葉に、シシリーは笑う。


「私が恐れているのは、魔王より王ですよ」


 その言葉に、ラムは王というのはすごいのかと改めて感じた。


「ラム様。ここには誰かに言ってきたの?」


 センの言葉に、ラムは首を振った。


「なら、心配されるかもしれないから帰ろう。あっ、そうだ。お腹はすいたか?」


 これをどうぞ、とセンはラムに食べ物を差し出す。


 それはサンドイッチだった。


 ラムは、そのサンドイッチにかぶりつく。


「美味い!この白いソースはなんだ?」


「それはマヨネーズっていう異国のソースだ。サンドイッチに会うと思ってかけてみたんだ。お弁当用に持ってきたものですけど、よかったら全部どうぞ」


 センの言葉に、ラムは首を振る。


「いい。お前たちが食べる分がなくなってしまうではないか」


「そういう気遣いで出来るなら、シシリーよりおまえのほうがいい男になるぞ」


 センの言葉に、ラムはきょとんとする顔をする。


「シシリーはマヨネーズに気づかないし、ああ見えて細かい気遣いができないし。だから、おまえがメーリスさまを奪ってやれ」


 センにそう言われたラムは、笑顔になって頷いた。


「ああ、私はシシリーからメーリスさまを奪うぞ」


 そう言ってラムは、メーリスを睨んで帰っていった。


 シシリーは、センの脇をつつく。


「気が利かなくて悪かったね」


「あれは嘘も方便だって。でも、マヨネーズに気が付かない味音痴だっていうのは本当だろう。毎回、頑張って作っているのに」


 センは頬を膨らませていた。

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