第19話
少年は、誰も傷つけなくてい、誰も守らなくていい技術を学んだ。
そして、少年とタリオンが分かれるときは刻一刻と近づいていた。
人間たちの間で、勇者と呼ばれるような一際力の強い者が現れたのだ。
●
その途中で湖に立ち寄ると、また女神に出会った。
「セン、この人が女神だ。この方に私は加護をもらった」
「へぇ、どんな加護?」
「溺れなくなる加護」
女神は相変わらず不機嫌そうで、シチリアには見えなかった。
だが、センには見えたのでシシリーは満足であった。
「ほら、泉の女神様。やっぱりセンには見えただろう」
シシリーは、センの背中を叩く。
センは、目を白黒していた。突如現れた存在が女神だとは信じられないようである。無理もないだろう、とシシリーは思う。
シシリーは出会う女神が二人目だから信じられた。一人目の時は、タリオンを倒しに行く途中の旅でのことだった。雷の女神と出会って、シシリーは雷に打たれないという加護をもらったのだ。
「女神は、心が清い強者にしか見えないと言われているけれども」
センは、相変わらず女神の存在を信じていないようだった。
シシリーは、胸を張った。
「センも心が清い強者だからな。見えて当たり前なんだ」
女神は、そんな問答にため息をついた。
そして、不機嫌そうに話を切り出す。
「ちょっと異世界でヤバめなできごとが起こったから来てくれる?」
女神の言葉に、シシリーは驚く。
「ヤバめな出来事?」
「そう。あっちの世界にもこっちのタリオンと同じぐらいの悪人が生まれたのに、あっちの世界の住民だけじゃ対処できそうにないの。だから、あなたに来てほしいのよ」
女神の言葉に、シシリーは「はあ」と生返事を帰した。
異世界と言われてもうまく想像できなかったからである。
「俺たちとは別の世界って、どんな世界なんだ」
センの質問に、泉の女神は「剣と魔法の世界よ」と言った。
シシリーとセンは顔を見合わせる。
「剣と魔法の世界」と言われても、どのような世界なのか想像がつかなかったからである。
「ここと同じような世界よ。科学があんまり発展してなくて、魔法が発展している世界ね」
「科学というのは、錬金術と同じようなものか?」
センの言葉に、泉の女神は「そのようなものだ」と答えた。
シシリーは、やはりセンはすごいと舌を巻いた。
シシリーは科学という聞いたことない言葉に翻弄されて、それがこの世界のどの学問に近いのかなんて考えようともしなかった。けれども、センは冷静にそこを考えていた。
「やっぱり、センはすごい」
「どこかすごいんだよ」
センは、納得がいかない顔をしていた。
「話をまとめるとここと似たような世界が、魔王に侵略されてピンチなんだな。それで、シシリーの力が必要っと……」
センは、シシリーを見た。
どうするのか、という問いかけを含んだ視線だった。
その視線に、シシリーは頷きで答える。
「助けを求める人がいるならば、行きたい。センは?」
「俺も行ってもいいけど……」
センは、泉の女神の方を見る。
「移動できるのは一人だけよ」
その言葉を聞いたシシリーは、センには残るように言った。
「行くのは、私だけだ」
「ああ、さすがに俺だって魔王クラスの敵を一人で倒せるとは思ってないさ」
センは何かを思い出したように、自分の首飾りを手に取る。キングスライムの首飾りを両手に包み込み。センはそれに何かをささやく。魔力を注いでいるのだ、とシシリーは思った。
「これを持って行ってくれ。爆発の魔術を込めたから、あっちの魔族には効くと思う」
シシリーは、センから首飾りを受け取る。
「ありがとう」
「キングスライムの首飾りなんてレアなものがあったからできたことなんだから、礼はいらないさ」
センは、そう言った。
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