第18話
誰も守れなくていい。
誰も傷つけなくていい。
それが子供が――少年が選んだ道だった。
●
シシリーがプレゼントしたキングスライムの首飾りをセンは気に入ってくれたらしい。最近はいつもそれをしている。金運のお守りだからかセンは嬉しそうにしていたし、それをみているシシリーも同じように嬉しそうだった。
行商の人々とセンの住処に帰る途中に、何者かに追われている女の子を見つけた。その子は、行商の人々に助けてほしいと訴えた。
「おねがいします。盗賊に追われているんです」
なんでも彼女が乗ってきた場所が盗賊に追われて、ちりじりになってしまったらしい。彼女を追ってきた盗賊の姿が前方に見えていた。
シシリーは剣を持って、盗賊のほうを向いた。
センの魔術は人には効かない。そのため、シシリーが剣を振るう。
「シシリー!」
センが叫んだ。
シシリーの後ろにも一人盗賊がおり、彼の背後に回っていた。
シシリーは、振り向きざまに盗賊を一刺しする。
全ての敵を屠ると、シシリーは一息ついた。
「怪我はないか?」
センの言葉に、シシリーは頷く。
「ああ、大丈夫だ。それより彼女は?」
シシリーは、盗賊に追われた女性に声をかけた。
「ありがとうございます……私はシチリアといいます」
シチリアと名乗った亜麻色の髪の少女は、滅茶苦茶になった積み荷を見て落胆のため息をついた。
「ああ、積み荷が……」
商人にとって積み荷には命と同等の価値がある。
商売の有無にかかわってくるからだ。
その積み荷が滅茶苦茶になってしまったのだから、シチリアの落胆は予想以上であった。
「なんの積み荷を運んでいたんだ?」
センはシチリアに尋ねる。
シチリアは「食べ物です」と答える。
馬車の周囲には、ばらばらになった積み荷が落ちていた。たしかに、そのすべてがフルーツなどの食べ物である。食べ物は傷がつくと価値が半減してしまう。おそらくは、王都に運んだとしても値段はほとんどつかないだろう。
「どうしましょう」
途方に暮れるシチリアに、センは言った。
「果物に傷がついたら、薬みたいに加工ができないかな。そうすれば元の果実に傷がついていたかどうかなんて関係がないだろうし」
センの言葉に、シチリアは途方に暮れる。
「でも、どうやって加工すればいいんでしょうか」
「ジャムとかにすればいいじゃないのか。俺の家がここから近いし。そうだ、アイスの具にするっていう手もあるな」
センの家でジャムの加工をすることになった。
センは家に着くと一番大きな鍋を取り出して、傷ついた果実をそこにいれていく。そこからは砂糖を入れて、コトコトと煮詰めるだけである。それだけでジャムが出来上がるはずである。
さらにセンは、アイスクリーム作りも始めた。牛乳に砂糖を加えて、それを湯煎にかけるように塩と氷を入れたボールに当てながらかき混ぜるのだ。この作業は根気というよりは力がいる作業なので、シシリーがおこなった。シシリーが根気強くかき混ぜると、とうとうアイスクリームができた。そのアイスクリームに皮をむいた果実をたっぷりと混ぜる。一口食べてみると果実が甘酸っぱくて、美味しかった。シシリーは、一口で幸せな気持ちになった。
「傷ついた果実をジャムやアイスクリームにするなんて、いいアイデアです」
シチリアは、そういってシシリーを褒めた。
シシリーは野盗を倒しただけなのに、どうしてそこまで褒められるのかがわからない。
「じゃあ、これを王都まで売りに行こう」
シチリアと共にシシリーたちは王都へと行くことになった。
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