第17話
それでいいのだ、と少年は笑った。
●
「このあたりには珍しい薬草やモンスターが多いから、ちょっと金を稼いでいこうぜ」
センは、シシリーにそう言った。
センが言うに、珍しい薬草や珍しいモンスターの死骸は行商人が買い取ってくれるらしい。ほぼ自給自足の生活を送っているセンにとっては、それらは貴重な収入となる。シシリーは二つ返事で了承し、狩りを始めた。
センは薬草を探し、シシリーはモンスターを狩ることにした。
森を歩いても、なかなかモンスターとは出会えなかった。
センは、それをモンスターのほうがシシリーを恐れているのではないかと分析した。そして、シシリーの匂いを消す香料を作って彼に持たせてみた。
するとモンスターたちがやってきて、シシリーはモンスターを狩ることができた。ここらへんはスライムの密集地らしく、シシリーはスライムを山ほど討伐する。スライムは、金を稼ぐ討伐には一番向いているモンスターである。弱そうに見えるが相手の顔に張り付くと窒息させることができ、意外と厄介だ。
そして群衆で生活する性質を持っているために、一匹みつけると三十匹は近くにいる。ただ珍しいと言われるほどのモンスターでもないために、スライムばかりを狩ったシシリーはどうしようかと途方にくれた。すると行商人の一人が、スライムならばギルドにいって買い取ってもらえばいいと教えてくれた。
ギルドは街には一つある、荒くれ者たちの寄り合いのようなものだ。もっとも、そこを仕切っているのは周辺の村や町で、厄介なモンスターや珍しい薬草に賞金を懸けて荒くれ者たちに採取や討伐をさせているのである。シシリーはギルドに所属したことがなかったので、すっかりそのことが頭から抜けていた。
だが、ギルドにスライムを買い取ってもらうのはいい案かもしれない。
スライムの特性として、倒すとスライムは極端に小型化するというものがある。スライムは倒すと小さな結晶となり、それは宝石などに使われるほどの美しさなのだ。シシリーは自分が倒したスライムの結晶を集め、それをギルドに持っていった。ギルドには荒くれ者たちが集まっていたが、シシリーがギルドに入ってくると彼らはぎょっとしていた。タリオン殺しのシシリーの名ではここでも知れ渡っているようだ。
ギルドの受付嬢は、シシリーに親切に対応してくれた。
「本日は、どうされましたか?」
「スライムの買い取りをお願いしたいのですが」
シシリーは水色のスライムの死体結晶を掌一杯に受付嬢に見せた。そのなかに一つ黄金色に輝く、結晶を見つけた。それはあまりに綺麗だったので売らずに、センに渡そうかと考えた。普段世話になっている礼のつもりだった。
「それは、キングスライムの結晶ですよ!」
受付嬢は驚いていた。
「キングスライムって、たまーに見る黄色いスライムのこと?」
普通のスライムよりはいくらか強いことは知っていたが、そこまで珍しいものだとはシシリーは思っていなかった。少なくとも魔王討伐前には何匹も倒している。
「珍しいだけではなくて、美しさからも高額の値段が付きます。さらにキングスライム事態も強いので、討伐はなかなか難しいんですよ」
普通のスライムと間違って新人が餌食になることがあります、と受付嬢はいった。そういえば少しは歯ごたえがあるような敵だったな、とシシリーは思った。もっとも以前戦ったワイバーンのほうがずっと強かったけれども。
それを受付嬢に伝えあると、彼女は眼を見開く。
「ワイバーンなんて、ここしばらく見ていませんよ」
もしも遺骸があれば高額で引き取ってくれたらしい。
もったいないことをした、とシシリーは思った。以前倒したワイバーンが死臭がひどくなりそうだったので、センの家の近くに埋めてしまったのだった。ゴブリンも選定の剣の洞窟に放置していた。今考えるともったいないが、センの家の近くにギルドの集会場がないので売りにもういけなかったことを思い出す。
「そのキングスライムは売らないのですか?」
受付嬢の言葉に、シシリーは頷く。
「うん。人にあげようかと思って」
「良いと思いますよ。キングスライムの結晶は色から金運のお守りともされますから。魔力を込めれば、魔道具にもなりますし」
金に縁がないセンにはぴったりなお守りかもしれない、とシシリーは思ってしまった。
シシリーはスライムを売ったお金で、銀の鎖をかってそれにキングスライムの結晶を付けた。
「おい」
シシリーに呼びかける声があった。
それは近隣の破落戸たちであった。どうやら彼らは、シシリーが魔王殺しだとは分かっていないようであった。
「そのキングスライムの結晶、俺たちに譲ってくれないか?」
拳を鳴らす、破落戸たち。
シシリーはキングスライムの結晶を握り締めた。
「これは私が取ったものだ。欲しいのならば、他を当たってくれ」
破落戸たちは、シシリーに殴りかかる。
シシリーはそれをあっという間にのしてしまった。
「さすがは、魔王殺し……」
受付嬢はぽかんと呟いた。
センと合流すると、彼に作ったキングスライムのペンダントを渡す。
それにセンは驚いたし、今日一日でシシリーがどれだけ稼いだかにも驚いた。
「すごいな。俺はその半分が精々だよ」
だが、それでもセンはそれを薬にして売っていた。
その作業をこの短時間でこなせるセンこそがすごいのだと、シシリーはやはり思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます