第16話
優しい技術、と子供は魔術を称した。
誰も傷つけることができない技術では身を守ることはできない、とタリオンは言った。
誰も守ることもできない、とタリオンは言った。
それでいいのだ、と子供は言った。
●
商人たちは新たな商品を仕入れてきた。
それは奴隷だった。
獣人を表す獣の耳や尻尾を付けた人型の魔獣。それが獣人である。センは、鎖で繋がれた獣人を不思議そうに見ていた。
「セン、獣人を初めて見たのかい?」
シシリーが尋ねるとセンは頷いた。
「ああ、田舎では見ないからな」
センの言葉に、シシリーは納得する。
奴隷は比較的高価であるので、田舎で使役するような人間はあまりいない。都会であれば下働きで働いている姿を見ることもあるが、それもたまにである。多くの奴隷は金持ちの家に変われ、そこで家事などの仕事をするのが普通である。
金持ちにとって奴隷をどれだけ侍らせているのがステータスであるから、外部の仕事をさせるのは珍しい。そのため奴隷という商品はあっても、表にはなかなかでないものでもあるのだ。
センは、獣人の容姿をしげしげとみていた。
彼が興味を示したのは、小さな女の子の獣人である。おそらくは親から無理やり離されたのであろう。檻のなかで、ずっと泣いていた。
「くそっ。こんなにめそめそした奴隷なんて売れるのか」
商人たちが、泣いている少女にいら立つ。
その苛立ちに少女が怯える。
そんな悪循環の中で、センは奴隷の檻に手を入れた。檻の扉を開けたのではなく、檻の隙間から手を差し入れて彼女の頭をなでたのだ。シシリーは噛まれたりでもしたら、どうするのだろうかとハラハラしながら見守っていた。奴隷の獣人はしつけが不十分な際には、相手を噛むことも珍しくないのだ。
少女は、センの手にすら怯えていた。
そして、シシリーが予想舌通りに彼の手に噛みついた。
「いてっ」
「セン!危ないことは止めろ!!」
すぐに手を引っ込めるように、シシリーは彼に言った。だが、センは手を引っ込めることはせずに、そのまま奴隷の女の子の頭をなでた。
「シシリー、こいつは怯えてるだけだ」
センは、そう言った。
「お前は、俺によくこうするだろ」
女の子の頭をなでながら、センは言う。
それは親愛の情を表しているのだとシシリーは思ったが、センも同じなのだと気が付いた。センも女の子の頭をなでて、親愛の情を表しているのだ。
「いい子だ……いい子」
センは、歌い始めた。
それは聞いたことがなかったが、子守歌のようだった。優しいリズムの曲に、奴隷の目じりが徐々に下がっていく。奴隷が泣き止むと、やはりシシリーはセンはすごいのだと思った。
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