第13話

目の前の少年は、魔族と人間の血を引いていた。


 二つの血を引く子供は、片方が片方を滅ぼすための話を聞いていた。


 そして、子供は魔術を学びたいと望んだ。


 魔術は、自分の同胞には効かないものである。


 魔族と人間の血を引いている子では、誰にも効かないものになる。


 子供は「それでいいのだ」と笑った。



 シシリーとセンは、選定の剣があるという洞窟にやってきた。選定の剣はこの奥の間にあるというが、本当にあるかどうかは眉唾物であった。なにせ、数千年のあいだ選定の剣は抜かれていないのである。おそらくは伝説上の産物であろうとシシリーは思っていた。センもそれは同じらしく、今回の王の命令に懐疑的である。


「どうして、そんなことを命令するんだ」


「きっと、私と姫を結婚させたくないんですよ」


 シシリーは、そう答えておいた。


 だが、実際のところは逆であろうとシシリーは思う。おそらくは選定の剣はあるが、誰にでも引き抜くことができる代物なのだ。本来はそこに王子が行って、王位継承の儀式などをおこなっていたのだろう。だが、その儀式はすたれ、剣と伝説だけがのこったのだろうとシシリーは踏んでいる。


 シシリーが剣を持ち帰れば、晴れて姫とシシリーの婚約が叶う。なにせ、シシリーは王位につくような器量がありながら、継承者ではないのだ。だが、メーリスと結婚すればそれも叶う。


 シシリーとセンは、洞窟に入る。


 なかは暗かったが、センの魔術で洞窟のなかは明るくなった。


「特に変わったところはなさそうな洞窟だな」


 念のために、センは隣にシロを仕えさせていた。


 シロは小さな炎を吐きながら、シシリーたちの行く道を照らす。


「奥で人影が……!」


「ちがう。ゴブリンだ」


 シシリーが、そういうとセンはシロに魔術をかける。


 シロは巨大化し、センはシロの代わりの灯りとなるように杖に炎を灯した。


 巨大化したシロが、ゴブリンに齧りつく。その一瞬でゴブリンは絶命するが、他のゴブリンがシロに襲い掛かる。それを見かねたシシリーは、刀を振りってシロからゴブリンを引き離した。


「シシリー、ここではファイヤボールみたいな技は使いずらい。新しいので行くから!ウォタークロー!!」


 シロの爪が、さらに鋭く伸びる。


 それは水で出来た爪であった。その爪で、シロはゴブリンを蹴散らした。


「助かる」


 シシリーは、城が蹴散らした後の敵にとどめを刺した。


 ほとんどの敵をシロが倒してしまうと、シシリーは最後に残ったゴブリンの動体と頭を二つに切断した。


「このゴブリンたちは何を狙っていたんだ?」


 センが、道の先にあるものを光で照らす。


 そこにあるのは剣だった。


 ゴブリンたちは剣を取り出そうとしていたらしく、剣が刺さっている岩の表皮を削っていた。


「これが選定の剣?」


 シシリーは、試しに剣に触れていた。


 だが、剣は岩に深く突き刺さっており、抜ける気配がなかった。


「なるほど、抜けない剣ならば継承の儀式には使えないな」


 きっと剣が抜けなくなったから、儀式に使われなくなったのだろう。シシリーは、そう考えた。


「そんなに抜けないの?」


「ああ、ゴブリンたちも周囲の岩を削っていたぐらいだしな……」


 シシリーがそう言うと、興味を示したセンが剣に触れた。


「あれ?」


 剣はぐらりと揺れて、いとも簡単に岩から抜けた。


「……どうして」


 センは、茫然としていた。


 なにせ、選定の剣が抜けてしまったのである。


「も……もしかしたら、ゴブリンが岩を削っていたせいで抜きやすくなっていたのかも」


 だが、その前にシシリーが触れた時にはしっかりと刺さっていたのだ。センが少し力をいれたぐらいで抜けるとは思えないぐらいに。


「センが、次の王位に相応しい者なのか……」


「そんなわけないだろ。はい、これはなし」


 そういって、センは剣を岩に刺しなおそうとする。


 だが、剣はまっすぐに刺さらずに岩にはじかれてしまった。剣の扱い方が悪いせいなのかと思いシシリーが手伝ったが、それでも岩に刺さらなかった。


「このまま剣って、置いていっていいのかな?」


 センはそう言った。


「いや、一応は王家の宝でもあるし……」


 いくら洞窟で放っておかれたといっても、ゴブリンの一件もある。このまま放っておいて持ち去られたら目も当てられない。しかたなく、剣は持ち帰ることにした。


 剣を持ち帰ったシシリーは、王に大層驚かれた。


「ああ、やはりお前が王に相応しいとでたか!」


 王は大喜びで、メーリスとの縁談を進めようとしていた。


 ちなみに、剣を抜いた張本人であるセンは「他人のふり」をしていた。ひどいと思ったが、シシリーがセンの立場だったら同じことをしていたと思う。


「王、剣を抜いたのはセンです。この魔術使いの!」


 シシリーは、センを王の眼前に連れてくる。


 だが、王はセンを目にも入れない。


「魔術使いが選定の剣を抜けるわけではいだろうが」


 王の思い込みであやうく姫と結婚させられそうになったシシリーであったが、なんとか婚約ということで落ち着いた。



 姫との結婚騒ぎ(婚約騒ぎともいう)を終えて、シシリーたちは岐路についた。とりあえず、センの家に帰ることにしたのだ。


「よかったな……その婚約ですんで」


 シシリーは、センの言葉にそっぽを向いた。


「剣については悪かったって。ただ、俺が抜いたって言っても誰も信じないだろう」


 センの言葉に、シシリーはそれだと思った。


 シシリーの言葉を誰も信じなかった。


 剣を引き抜いたのはセンだというのに。


「決めましたよ。私の目標は、あなたが立派な人だと証明することにします。そして、剣を抜いたのもセンだと証明して見せますからね」


それで、婚約も解消です。

 

とシシリーは清々しく語った。


 センは、そんな日は来ないだろうなと思った。


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