第12話

 タリオンは語った。


 どうして魔族の人間をいがみ合わせたかを。


 そしてタリオンは思った、目の前の子供のことを。


 彼は、人間と魔族の両方の血を引いていることをようやく思い出した。




 ●

 シシリーとセンは、二人でメーリスの護衛につくことになった。


 メーリスが乗ってきた場所は壊れてしまっており、仕方がなく三人は村から馬を借りての旅をすることになった。旅と言っても、馬であれば王都まで数日もあればつく距離である。


 だが、数日の間が問題になる。


 なにせ、メーリスに野宿をさせるわけにはいかない。


 そのため、ある程度のルートを考えながら歩かなければならなかった。メーリスが馬に乗れるかどうかが心配であったが、メーリスが意外なほどに馬の扱いかたがうまかった。


「昔は、私自体が冒険者になりたかったんですよ」


 メーリスは、胸を張った。


「でも、私は王女だから冒険者になれない。だから、私の夫は私が納得できるような強い人間であってほしいと」


 メーリスの言葉に、センはなるほどと理解した。


 彼女がシシリーに執着するのは、そこらへんが原因なのだろう。その原因そのものが、センには可愛らしいものに思えた。もっとも、シシリーにはその思いは伝わっていないようだが。


「メーリス様。馬を走らせることはできますか」


「できるわよ」


 メーリスは馬を走らせる。


「あれ、止まらせるってどうすればいいんだっけ!」


 メーリスは、馬を走らせてながら叫んだ。


 その様子を見ていた、センは馬に魔術を仕掛けた。


 シロが巨大になりメーリスの馬の前に立ちふさがる。それに驚いたメーリスの馬が、急に動きを止めた。シシリーは馬から落ちそうになっていたメーリスを拾い上げる。


「シシリー様!」


 メーリスは眼を輝かせるが、センの魔術は見てくれていない。


「メーリス様。馬を止めたのは、センですよ」


「私を助けてくれたのはシシリー様ですわ。やはり、あなたが私の夫にふさわしいのです」


 メーリスは、そう呟いてうっとりとシシリーを見つめた。


 そのように道のりを進み、三人は王都につくことができた。


 王都に出てきたことがないセンはその賑やかさに、目を輝かせていた。石畳で整備された道も、活気ある商売人も、田舎にはいないものばかりだ。


「たしかに王都は刺激的だな」


 センの言葉に、メーリスは勝ち誇ったような顔をしていた。


「ほうら、みなさい。王都の方が刺激的で楽しいでしょう」


「……うう」


 センが言いよどんでいると、シシリーが「田舎にもいいところはありますよ」と助け船をだした。


「城に行きましょう。メーリス姫を送り届けないといけませんし」


 シシリーの言葉に、メーリスは首を振った。


「嫌ですわ。シシリーさまと一緒がいいです」


 メーリスの言葉に、シシリーは首を振る。


「姫。お願いですから、城に帰ってください。私は、田舎に戻りますから」


 シシリーがそういうが、姫はいうことを聞いてくれない。


 しかたがなく、シシリーは姫を担ぎ上げて城にはいった。不敬であっただろうか、と考えて途中から姫抱きになる。予期せぬお姫様だっこにメーリスは「きゃ」とうれしい悲鳴をあげた。


「部外者の俺は、待ってるか」


 センが城に入場することを渋ったためにメーリスは笑顔で「当然です」というが、シシリーは一緒に城に行くことを願った。


「ここまでメーリスを護衛してきたのは、センも同じです。センもどうか王様に謁見してください」


 俺田舎者だしな、とセンは気が進まなそうであった。


 だが、シシリーとしては一緒に来てもらえると助かる。センと一緒でなければ、王はまた王都で暮らすことをシシリーに命じるかもしれない。それが、嫌だったのだ。


「シシリー様、こちらですわ」


 姫の案内で、シシリーとセンは王に謁見することになった。


 謁見に使用される部屋は真っ赤な絨毯が敷き詰められており、きらびやかな調度品に囲まれていた。センはその風景に驚きながら、心細くなったのかシシリーの後ろを歩く。シシリーは、その様子にここに最初に来た頃の自分を思い出した。


 シシリーは膝を折る。


 センもそれに続いた。


「王、私の村まできてくださった姫をおつれしました。護衛のものたちはワイバーンに襲われ、村で療養をしています」


 王に報告をし、姫を引き渡す。


 だが、姫は「シシリー様と婚約いたしますわ」と騒ぎ立てる。


 これに困ったのは、側近たちであろう。


「シシリー様は、国を……世界を救った英雄です。姫と婚約を認めたらいかがでしょうか?」

 側近たちから、そんな話までがでてくる。


「いいえ。私は、命の恩人と田舎で過ごす予定です。姫様が王都を離れるのは酷でしょう」


 もっともらしい理由を並べてはいるが、姫と結婚したくないという気持ちが透けて見えている言い訳であった。


「ふむ。では、シシリーには選定の剣を引き抜いてきてもらうのはどうだろうか?」


「王、それではシシリー殿を次の王座にふさわしいか試すことになります!」


 側近たちは慌てていた。


 選定の剣とは、最初の国母が抜いて王妃になったという伝説を持つ剣である。以来、それを引き抜いた者が王位を継ぐにふさわしいものであると言われていた。


「メーリスとシシリーが結婚すれば、王位をどうするかという話にもなってくる。ならば、今のうちにシシリーにもその資格があるかどうかを調べてみるべきだろう」


 王の言葉に、シシリーは「はっ」と了承の返事をする。


 そのように答えるしかなかったのだ。


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