第11話

タリオンは人間と魔族をいがみ合わせて、人間を滅ぼそうとした。徒党を組んだ魔族たちは、人間を簡単に超越する力を発することができた。魔族たちは、かつての隣人であった人間たちを倒し始めた。さらに人間と魔族の見た目の区別が難しいことも戦いが泥沼化した原因だった。



 シシリーは、とりあえずメーリスをセンの家に泊めることにした。今度どのように動きかを決めるためにも、まずは時間が必要だったからである。最初は、センとメーリスの家に休んでもらおうとした。だが、メーリスがシシリー以外の人間とは共に寝ないと言い出したために、セントシシリーは二人で家の外に寝ることになった。家主なのに家を追い出されるのはかわいそうだが、相手が王族ではいたしかたがない。


「家の外はさすがに寒い」


 毛布をかぶったセンは、身震いをした。


 火を起こして二人で側によっていたが、それでも夜の闇は冷たいものがある。センは震えながらも、火に木をくべる。


「色々とごめん……。まさかメーリス様がいらっしゃるとは思わなくて」


 シシリーの言葉に、センは首を振った。


「お前が悪いわけじゃないだろ」


「そういってもらえると助かる」


 シシリーは、センに近くに寄るように話した。


「野営のときは仲間と背中合わせに座る。それで背中をくっつけると温かいんだ」

 シシリーの言う通りにすると、たしかに背中がぽかぽかとして温かかった。長年旅をしてきた知恵だな、とセンは感心する。


「実は、こんなふうに仲間と夜を過ごしたことはなかったんだ」


 シシリーの言葉に、センは驚いた。


「ずっと一人で旅をしていたのか?」

「ああ。こういうふうにすると良いというのも聞いた話でしかなくて。……暖かくてよかった」


 その言葉が、センには意外だった。伝説の勇者は、てっきりたくさんの仲間と共にタリオンを倒すものだと思っていたのに。


「孤独だったんだな……」


 センは、シシリーの手をまさぐる。


 シシリーの手は堅く、何年も剣を振るっていた手だった。一方でセンの手は、薬草で荒れていてガサガサだった。そんな二つの手が合わさるとき、ほのかに体温が混ざり合っているから温かい。その温かさに、センは束の間の安らぎを感じた。


「今は孤独じゃない」


 シシリーはそう言った。


「俺もそうだった」


 センは、シシリーの手を握り返す。


「俺も魔術を学んでからはずっと一人だった。魔術は同族には効かない優しい技術なのに、それがぜんぜん他の奴には通じなかった。魔族が使っているから、怖い技術だって思われ続けた。魔術をこんなに怖がらないで受け入れてくれた人は初めてだ」


 皮肉だよな、とセンは呟く。


「魔族最大の破壊者が、魔術最高の理解者になるんだなんて」


 シシリーは、これからどうするとセンに尋ねる。


「私は、メーリス姫を王都までつれていかなければならない。義務ではないが、王には恩義もあるからな」


 シシリーの言葉に、センは答える。

「俺は……できればお前についていきたい。魔術を理解してくれた人間が、お前が初めてだしな」


 そういって、センは笑った。

 


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