第10話

 人間を滅ぼす。


 その願いを抱いたタリオンは、修行を重ねた。


 修行を重ねて、重ねて、他の魔族の追随を許さないような実力者となった。


 そして、魔族に人間を恨ませた。


 二つの種族が、いがみ合って一つの種族が消え去るようにと願いながら――タリオンは魔族に人間を恨ませた。




 センの言葉に、王女の護衛たちが頭を下げる。だが、密集していた敵にワイバーンは眼をつけて、その上から滑空した。護衛たちがその風の威力でちりじりになり、次々とワイバーンの餌食になっていく。


「たすけてくれ!」


 兵士の一人が、ワイバーンに掴まれて上空に飛び立っていく。その姿を見たシシリーは、剣を構えた。


「王女様、とりあえず頭を下げて。手で頭を守って!」


 センは叫び、杖を構える。


「魔獣相手ならば、お茶の子さいさいだよ。なんていったって、魔術が効くからね」


 センの言葉に応じて、使い魔のシロが飛び出る。白の体は大きく変化し、その巨大なあごはワイバーンの軌道を追いかけた。そして、シロは兵士を捕まえていたワイバーンを噛み殺した。


「吐け炎を。ファイヤーボール」


 センの言葉に反応し、シロの口から炎が吐き出される。その炎は、ワイバーンを焼き尽くす。その炎は兵士たちや姫の上にも降り注ぐ。兵士たちは必死に姫を守っていたが、シシリーはワイバーンに向かって剣を振るう。


「ファイヤーボールは低級な魔術だと思っていたが!」


 シシリーは、目の前の光景に驚いていた。


 ずっと魔術使いとは戦っていたが、ファイヤボールは低級の魔術のはずである。少なくともワイバーンを一撃で仕留めるような威力はないはずだ。


「えへへ、使い魔に魔術をかけることによって威力を高めることに成功したのだ!俺のオリジナルだ。単純なように見えて、これ結構難しいんだからな」


 センは胸を張る。

 

そんなセンの後ろに、一匹のワイバーンの影が見えた。


 シシリーは、伏せろと叫ぶ。


 センが伏せ、シシリーの刃が回転しながら上を通った。その刃はワイバーンの喉元へと刺さる。


 ――ぎゃぁぁぁ!!


ワイバーンの悲鳴が木霊し、センは思わず耳をふさいだ。一拍置いて、センがきょろきょろとあたりを見渡す。


「倒した……のか」


 センの疑問に、シシリーは答える。


「倒した」


 センは口笛を吹く。


「さっすがー。一撃かよ」


 君も一撃でワイバーンを倒していただろう、とシシリーは言った。


「タリオン討伐のときに……セン、君の腕が欲しかった」


 それは、シシリーの心からの言葉だった。


 シシリーの言葉に、センは苦笑いする。


「俺はしがない魔術使いさ。勇者様の腕前にはまけるぜ」


 シシリーとしては、本心からセンのことを欲しいと思ったのだ。腕が経ち、信用が足る人物など人生で多くは見つからないものだからだ。


「シシリー様?」


 メーリスは顔を上げて、周囲を見渡した。


 彼女の目には、倒された二匹のワイバーンの死骸があった。


「二匹ともシシリー様が倒されたのですか?やっぱりすごいわ」


 メーリスの言葉に、シシリーは首を振る。


「いいえ、一匹はセンが倒しました。彼は優秀な魔術使いです」


 シシリーの言葉を聞いた途端に、メーリスの目の色が変わった。


「魔術使い!そんな恐ろしい存在が近くにいただなんて……」


 メーリスは、シシリーの影に隠れる。


「シシリー様、魔術使いをたおしてください!」


 シシリーはワイバーンから剣を引き抜き、鞘にしまう。そして、メーリスの目の前でセンの頭をなでた。


「センは友人です。それに魔術使いといっても人間ですから」


「本当に人間なんですの?」


 メーリスは、センに疑いの眼差しを向ける。


「魔物は、人間の姿に非常に近いものもいると聞いたことがありますわ。彼も、それなんじゃないですか」


 メーリスの視線から、シシリーはセンを守る。


「やめてください、メーリス様。彼は、私の命の恩人です」


 シシリーの言葉に、メーリスはむっとする。


「そうね。さすがに高名な勇者であるシシリー様を助ける魔族なんていないでしょうね」


 メーリスも、センが人間であると信用したようであった。


「それよりも、王女の護衛の手当をしないと」


 メーリスの護衛たちはワイバーンにやられて手ひどく負傷していた。センがその負傷の具合をみているが、命に別状はないものや軽症のものがほとんどだった。だが、王女の護衛を続けられるかどうかは怪しい怪我であった。


「かなり手ひどくやられてるね。戦うのはしばらく無理だよ」


 センの言葉に、メーリスは顔をほころばせた。


 自分を守っていた部隊が全滅したというのにである。


「シシリーさま。私の護衛をお願いいたします。一緒に王都に帰りましょう!」



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