第8話

 どうして、魔族と人は憎み合うのか。


 子供がタリオンにそう尋ねた。


 それは、どうしてタリオンが人間と魔族をいがみ合わせるかを教えてくれという問いかけだった。その問いかけに、タリオンはすぐには答えられなかった。


 だが、隠していてもいつかは賢い子供は答えに行きつくような気がして、タリオンは答えることになった。




 家に帰ったシシリーは、センの傷の手当てをした。ひとまず殴られた痕を水で浸した布で冷やす。跡が残りそうな傷ではなく、それだけはよかったとシシリーは思った。


 シシリーは、てきぱきと傷の手当てをする。


 旅をしていた時も、城で世話になっていたときも、傷の手当てはよくやった。自分のものだったらり、他人のものだったりと、手当の相手は様々だったが。


 擦り切れた頬にセンが作った薬塗ってやると、シシリーはほっとした。これで手当ては終了である。


「さすがに手慣れてるな」


「戦っていると怪我は友達みたいなものだからね。君が軽傷でよかったよ」


 シシリーは、センを抱きしめる。


「君はとても賢いし、勇気もある。どうして、村の人々はそれがわかってくれないんだろうか」


「しかたないだろう。村の人間は、魔術が苦手だ」


 センは、シシリーの胸を押し返す。


 抱きしめられるのは苦手らしい。


「決めた」


 シシリーは、語った。


「君を他の人に認めさせる。それを私の目標にする」


 シシリーの決意に「まぁ、無理だろうな」とセンは答えた。

 

 翌日、シシリーが暴行犯を捕まえたことがあっというまに村の噂として広がった。その噂は、王都までたどり着き「そこにいらっしゃったのですね、シシリーさま」一人の女性の心を朗々と燃え上がらせていた。


 だが、とうの本人はそんなことをつゆ知らず、どうすればセンの功績が村人に認めてもらえるのかと考えるばかりだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る