第6話
子供を養子にしたタリオンは、その子供に教育を施した。
自分の知っていることをできる限り子供に教え込んだのだ。
薬草の知識やその薬草の煎じ方、そういうものを教え込んだ。いつか自分が殺されてしまっても、子供が生きていけるように。子供は賢く、知識をすぐに吸収した。
●
家に帰るとセンとシシリーは簡単な夕食を作った。
今日はシシリーが勝った魔獣の肉とありあわせの野菜のシチューである。暖炉の火でことことと煮詰めた肉は、それでも柔らかくはならなかった。だが、野性味あふれる味で美味しかった。センも美味しかったらしく、食事中はほぼ無言で食事を食べていた。一日を一緒に過ごして、センは集中すればするほどに無言になる性質だということをしった。
薬草を煎じているときだって、そうだった。
センはシシリーの半分ぐらいの量で、食事を終えた。小食らしいセンは、その量で大変満足している。シシリーは、このままではセンが育たないのではないかと本気で心配した。
「君は、この量で大丈夫なのか?もうちょっと食べないと大きくなれないぞ」
「いきなり年上風を吹かすんじゃねぇよ。俺は頭脳労働だから、頭脳を使ってないときはこの量でいいの」
薬草を探しに行って、その薬草を煎じるという肉体労働をやっていたような気がするが、本人が満足しているなら仕方がない。
「なぁ、シシリー。俺とお前の体格差なら、女と男の再現はできるよな」
センが何か可笑しなことを言い出した。
「ちょっと俺のことを押し倒してみろ」
「……セン、君何を考えているんだ」
シシリーが呆れていると「女が襲われた事件の再現だよ」とセンはいった。
「相手にどれぐらいにダメージを負わせられるかを知りたいんだ」
どうやらセンなりに日中に聞かされた事件について考えたいらしい。
だが、相手を襲うなど経験のないシシリーには分からない。とりあえず、センの背後にたち、彼の両手を拘束した。
センはそこから抜け出そうとするが、まったく抜け出せないでいる。力の差、体格差が圧倒的だからこその敗北にセンは頬を膨らませていた。
「とりあえず、抵抗は難しいことが分かったな。くそ、犯人の顔がぼこぼこだと思ったのに」
そこまでぼこぼこであれば、真犯人など一目で分かるのではないだろうか。
シシリーはそう思った。
「でも、これで女が男に抵抗できなかった可能性があることが分かったな。でもって、男が無傷の可能性もあると」
「いや、そうでもないかもしれない」
シシリーは片手を離した。
「こうやって、押さえつけているだけならともかく……この先をしようとするならば手を一度離す必要がある。その隙に、君ならばどうする?」
センは、自由になった左手でシシリーの顔を殴ろうとした。
シシリーは持ち前の動体視力でそれを受け止めるが、普通の男がしかも現場が暗がりだとしたらシシリーのように防ぐのは難しいだろう。
「ああ、なるほどな」
にやりとセンは笑う。
「顔に傷がある相手なら、日中に会ってるよな。あいつに鎌をかけてみるか」
センのことを犯人だと言ってきた、男。
彼が怪しい、とセンは語る。
「でも、証拠がないな」
「シシリー。こういう犯罪は常習化するもんだぜ」
センは、得意げに笑っていた。
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