第44話 防衛戦争と言う物。

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が過ぎた。


現在、ロシアはウクライナ東部・南部・クリミア半島を占領し、

ウクライナはその奪回に向けて戦闘を継続している。


ウクライナでの惨劇は心を痛める物が有るのだが、

どうしても、他人事と言う感覚が抜けないのは

距離的な隔絶と自分自身の安全が担保されているからだと思う。


だが、これを他山の石として私達の安全保障について考える事は

必須であるだろう。


今回のウクライナ戦争において明らかになった事がいくつもある。


現ロシアが帝政ロシアからソヴィエト連邦を経て今に至るまで

一貫して領土拡大を国是としている事。

戦場に於いては兵器の質量の優越ではなく、兵員の質と情報収集の優劣が

勝敗を分けると言う事。

戦場の無人化が想定以上のスピードで進んでいる事。


そして、防衛戦争は非常に難しい物であると言う事である。


防衛戦争とは何か?と問われれば。


「他国から侵略された際に国民・国土を守るために戦う戦争」

と言う事になるだろうか。


通常、「戦争」と言う物は自国の勝利の為ならば

いかなる手段も正当化される「何でもあり」の戦いである。


二次大戦を見てみると分るはずだ。

東京大空襲も広島・長崎への原爆投下も

「日本に勝つため」と言う大義の下に行われた。


本来であれば戦争は「軍人の物」であり

民間人は保護されるべきものである。


だが、二次大戦で戦争は、

「国力の全てを投入した総力戦」となったのだ。

その為、前線で敵を打ち破る事だけではなく、

後方を攻撃して敵国の「継戦けいせん能力」を奪う事も

重要な戦略として採用される事となった。


継戦能力を奪う。

具体的には軍事施設・港湾・鉄道・軍需工場等をを破壊して

新規に兵器を生産させない、部隊を移動させない

と言う事が想定される。

しかし、もう一つ。「労働力を奪う」(民間人を殺す)事も

戦略として許容されてしまっているのが

「総力戦」の恐ろしい所である。


いくら軍需工場が健在でも、そこで働く労働者が居なければ

新たな兵器は生産できない。

労働者が居ない→兵器が生産できない→戦い続ける事が出来なくなる。

継戦能力の破壊と言う面において、民間人を「減らす」事は

非常に有効な手段と言える。

それがどれだけの悲劇を生むものだとしても…。



さて、ウクライナ戦争に目を向けてみよう。


大前提としてロシア側から見れば「侵略戦争」である。

対してウクライナ側から見れば「防衛戦争」となる。


この差は非常に大きい。


ロシアは従来通り、戦う手段において

制限をほとんど受けないのに対し、

ウクライナは「防衛」と言う大義名分によって

非常に大きな制限を受けるのである。


「防衛戦」における勝利とはどんな物だろうか?


基本的には、侵略開始時点の国境を回復し、

国家の独立を維持しつつ、戦闘を終結させる事だろう。


戦闘の終結。

これが大国相手の場合、非常に困難なのである。


通常の戦争ならば、敵国内へ進撃し、

最終的には首都を占領して「城下の盟」を結ばせる事で

戦争の終結が成立する。


だが、「防衛」と言う大義名分によって、

敵国への進軍が出来ないのだ。


つまり、この戦闘は国土を回復する事が目的であり

敵国を打倒することは「防衛」の範囲から逸脱すると

考えられる。

だから、ウクライナは侵攻前の国境線を超えて

ロシア国内へ進軍することはできないのだ。


もし進撃すれば、ウクライナが「侵略国家」と認定されかねない。


現在のNATO各国からの支援はあくまでウクライナが

「防衛戦争」を戦っているからこそ継続されている。


もし、ウクライナが「侵略」を始めたとしたら

NATO諸国は支援を縮小、あるいは停止するだろう。

そうなれば国力差数倍のロシアに対して勝利することは不可能だ。

故に、ウクライナとしては「防衛に徹する」しか方法が無いのである。


これが何を意味するかと言えば。


「ロシアがウクライナを諦めない限り戦闘は続く」


と言う事である。


戦争の手段として「継戦能力を奪う」事を前記したが、

ウクライナは「防衛戦争」と言う大義名分によって、

この戦略は使えない。


つまり、極論として、

「ロシアは国内の損耗を考慮することなく

ウクライナ戦争を継続できる」のだ。

(軍の兵員の損耗はロシア指導部にとって重要ではない。

彼らにしてみれば戦略目標を達成する事が出来るのであれば

どれ程の損耗を受けたとしても許容出来てしまう。

兵の生存率が1%だとしても。おぞましい限りではあるが…。)


継戦能力を奪えないウクライナは

前線で敵軍を撃破し続けなければならない。

故にNATO諸国に戦車など、兵器の支援を要請しているのである。


ロシアがウクライナを諦めるとすれば、前線の戦力比において

1対10位の劣勢に追い込まれた時ぐらいだろうか?


どれだけ攻めても絶対に勝利できないくらいに

戦力を消耗してしまったらロシアはウクライナを諦めるかも知れない。

そこに至るまでに何十万の兵員が失われるかも知れないが。


記述してきた事をまとめると

・ウクライナは「防衛戦争」と言う大義により

ロシア国内への攻撃を行えない。

・ロシアの継戦能力を奪えないためウクライナは

前線での勝利を重ねるしか手段が無い。

・ロシアは自国内の損耗・疲弊を度外視して

侵攻を続ける強固な意思を持っている。


となれば、ウクライナでの戦闘は「終息しない」のである。


一年前の投稿で私は

「10年単位で戦闘が続くかもしれない。」と書いた。

現状の戦闘を見る限り、そうなる可能性が大きくなっていると

感じている。


ロシアは(プーチンは)ウクライナを諦めない。

ロシアにとってのウクライナの価値は

かつて侵攻し、撤退したアフガニスタンとは

比べ物にならないくらい高いのだ。


軍港(セバストポリ)に穀倉地帯、レアアースを含む鉱物資源。

そして、安全保障上の「緩衝地帯」。

ロシアはウクライナを手に入れれば世界的な影響力を

飛躍的に増大させる事が出来る。

だからこそ、プーチンはウクライナを諦める事は出来ないのだ。

(特にウクライナで生産される小麦は輸出が止まるだけで

世界各地の食糧事情に大きな影響を与える。

国連や色んな国際機関がウクライナの小麦輸出を継続させようと

努力している姿は、ウクライナの小麦がどれほど重要かを示している)


この戦争が終結する時。

それはロシアがウクライナを諦めた時だ。

具体的に言うと、プーチンが失脚、あるいは死亡した時だろう。

その後継者がどう判断するか?

それによって、この戦争が続くか終結するかが決まるだろう。


私としては、今すぐにプーチンが退場して欲しいと

祈る事しかできないのだが…。


さて、ここからは我が日本の安全保障について考察する。


隣接地域に領土拡大を狙う大国が存在し、

その実現のための行動をしている、と言う状況は

ウクライナとよく似ている。


つまり、隣国がいきなり武力侵攻をしてきてもおかしくない。

そんな状況なのだ。


もしそうなった時、現状の日本が出来るのは、

ウクライナと同じ「防衛戦争」しかない。


だが、防衛戦争は侵攻側が諦めない限り続くのである。


敵国の継戦能力を奪えない以上、

敵国の攻撃を跳ね返す事しかできない。

なにしろ、我が国が誇る「憲法第九条」によって

他国領土への攻撃は事実上、禁じられているのだから。


条文には書かれてはいないが、

「日本の軍事組織が戦闘を行うのは自国領土を防衛するためだけに限られる」

と言うのが基本的な認識である。

(ペルシャ湾、ジブチ沖、東ティモールなどで行った自衛隊派遣は

あくまで『国際協力』の観点から行われた。

日本国政府が主体的に軍(自衛隊)を派遣した訳ではないので

憲法的にはセーフ…と言う事になっている。

限りなくアウトに近いのだが。)


しかし、現状のままでは一方的に攻撃されるままで

有効な反撃も出来ないのである。


ロシアがウクライナを攻め続けていられる一つの理由が

「ロシア国内へウクライナから反撃を受けることは無い」

と言う認識だ。


相手を殴っても殴り返されることは無い。

であるなら殴る続けることを止めるはずが無いのだ。


今、日本では「敵基地に対する反撃能力の獲得」について

議論されている。

これは殴られたら殴り返すと言う、

実に当たり前の行動を可能にしようと言う物である。


しかし、現状の「第九条」の解釈からすると認められない。

政府はこの解釈を変更しようとしている訳なのだ。


私としては、この変更は正しいと思う。

なぜなら確実に「抑止力」になるから。


殴り返されないのなら好きなだけ殴ることが出来る。

だが、殴り返される事が確実ならばどうだろうか?


人間でも自分が痛い目を見るのは嫌だ。

だとすれば、相手を殴る事を躊躇するだろう。

ましてや命中率90%以上を誇る自衛隊のミサイルに狙われたなら…。


※ちなみに一例を挙げるなら、

陸上自衛隊がアメリカで地対空ミサイルの実射訓練を行った際、

標的の巡航ミサイルを全て迎撃(撃墜)して見せたそうである。

アメリカは取り得る全ての欺瞞行動や回避起動を行ったにも拘らずだ。


もう一例を挙げると。

航空自衛隊の対艦ミサイル射撃訓練がアメリカで行われた時。

タグボートで引かれたはしけにとりつけられた標的

(1m×1mの鉄板)のド真ん中へ命中させた。

通常その訓練では標的の左右50mの範囲をミサイルが通過すれば

命中と判定されるのだが…。

使われたのは炸薬入りの実弾であるから標的は木端微塵!

その日は以降の訓練は中止されたそうである。※


攻撃すれば、自軍の損害も確実に出る。

相手国を攻撃するのを躊躇ちゅうちょさせるだけの

反撃能力を獲得すれば、それは「抑止力」になるのだ。


※1970ー1990年代の米ソ冷戦。

両国が核ミサイルを突き付けあって「平和」が維持されていた。

それは、「相互確実破壊」による国家滅亡が確実視されていたからである。

たとえ、先にICBM を打ったとしても目標到達までに1時間以上は掛かる。

その間に、ICBM を打ち返されてしまえば先制した側も核を浴びる事となる。

お互いが相手国を確実に破壊する能力を持つが故に

「打つことが出来ない」。

これが核抑止力の本質だったのだ。※


では、通常兵器における抑止力とは何か?

相手国が侵攻して来ても相当以上の損害を与える事が出来て

侵攻で得られる利益よりも損失の方が大きくなると判断させる事だ。


その損失とは、国内情勢の不穏化とか、

国際的地位や信用の失墜とかも含めて

その国の国益が損なわれることを指す。


ロシアを見ればわかる。

ウクライナ侵攻前はそれなりに大国として

国際的な影響力を維持してきたが、

現状は旧ソ連のアゼルバイジャンやカザフスタンも

ロシアを見限り始めている。

ヨーロッパ圏内で明確にロシアを支持しているのは

ベラルーシだけだ。


ロシアは世界から総スカンを喰らって孤立しつつある。

かの国の未来は明るくはないだろう。


それでもロシアはウクライナを諦めない。


世界の小麦生産量の3分の一をにな

ウクライナを手にすれば、食糧供給と言う武器を手に入れて

ロシアの影響力を取り戻すことが出来るだろうから。


長々と書いてきたが、まとめると以下のようになる。


・大国に侵略戦争を仕掛けられた時。

防衛戦争は大国が侵略を諦めない限り継続される。

・大国に侵略されないためには

相応の「抑止力」を持つことが必須である。

・日本の現状からすると「基地反撃能力」と言う

抑止力を手に入れる事は急務である。


ここに書いたことは、あくまで私個人の意見である事を

改めて表明しておく。




今回はここまで。






























































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