第23話 「前公爵 クラウス・オストレーベは暗躍を楽しむ」5

オストレーベ騎士団こと『義勇軍』400名。


ノルデン軍は貴重な打撃力を手に入れた。

しかし、まだ戦力としては不足である。


総勢1万3千500。

これに精鋭『義勇軍』400。

全軍が獅子奮迅の働きを見せたとしても相手にできるのは

3万人程度だろう。


バクラ王国軍は兵を機動させる事に長けている。

たとえノルデン軍が兵数の少ない箇所を食い破っても

すぐさま増援が駆け付けて押し包まれてしまう。

何とかして奴らの足を止めなければ勝機はない。


それについてクラウスは

「もう一工夫必要じゃな。それも準備しておるがのぉ。」

まだ何か策を用意しているようだ。


バクラ王国軍の特徴として

「騎兵突撃があまり効かない」と言うものがある。

常識としては歩兵部隊は騎兵突撃に対して脆いのであるが。

バクラ王国軍独自の歩兵戦術「鉄楔アイアン・カイル」は効果的に

騎兵の足を鈍らせ突撃の衝撃力を減衰させてしまうのだ。


鉄楔は歩兵が三角形の集団を作り全員が槍を装備する。

その槍を前方に構えつつ突進して敵の戦列を粉砕するという

騎兵突撃を歩兵で行うような戦術を使う。


それに対して騎兵突撃を掛けるとどうなるか?


真正面から槍衾に突っ込んでいくのだから

馬も騎士も無傷ではいられない。


それに馬は本来、臆病な生き物である。

敵に向かって走っていても何かが突然目の前に現れたりすれば

急停止したりすることもある。


そして馬は賢い動物である。

自分の身に危険が及ぶと判断すれば行き足を鈍らせてしまう。


鉄楔は槍を前に掲げている。

その穂先は日を受けて煌めいている。

それを見た馬たちは本能的に危険を感じて

騎士達の叱咤にもかかわらず足を止めてしまうのだ。


「そこでじゃ、新兵器を用意したぞい。」


クラウスはエドワードに武器を手渡した。


「クロスボウ、ですか?」


クロスボウはこの世界でも一般的な武器として使用されている。

ただ通常の弓に比べて威力はあるものの

射程が短い、連射が効かないといった面があり

今回のような野戦で使用されることはまれであるのだ。

基本的に待ち伏せ攻撃、あるいは都市に籠城しての防衛戦では

有効な兵器として認識されている。


「婿殿。クロスボウの弱点は何かな?」


「射程の短さと連射が効かないことですよね。」


「射程についてはこちらから近づいてやれば問題なかろう。

では、連射が出来たならどうなるかな?」


エドワードは目を見張った。

「これは連射ができるクロスボウなのですか?」


クラウスは得たりと頷いた。


「ここを見よ。本体の右側に小さいレバーがついておるだろう?

これを指で引くと弦が射撃位置へ巻き上がる仕組みなのだ。」


エドワードはレバーを引いてみた。

軽い感触を感じて引ききると弦が射撃位置へ固定される。

クロスボウ用の短い矢をセットすると

20mほど先にある立ち木に向かって発射した。

すぐさまレバー引き次弾をセットする。

発射。

もう一度レバーを引いて矢をセット。発射。

ここまでに掛かった時間はおよそ20秒だ。


「これは凄いですね!それほど力のない私でも十分使える!」


エドワードは新たな武器の感触にうっとりとした感覚を覚えた。


「して、婿殿。その他に何か気付かないのかの?」


エドワードは両手で新型クロスボウを抱えて

じっくりと観察してみる。


特に変わった所はないようだが…。


(あれ?このクロスボウ、めちゃくちゃ手に馴染んでる…。)


エドワードは14歳。

当然、大人よりも体格は小さい。

通常、武器は成人男性用に作られるため、

エドワードには大きすぎる物もある。


しかしこれは…。


「通常のクロスボウより小さめに作ってあるのですか!」


「そうじゃ!通常の大きさの5分の4と言った所じゃ。

サイズを小さくしても威力が変わらないようにするには

なかなか大変じゃった…と聞いておる。」


並みの貴族当主なら自分の手柄として誇るところだが

クラウスはそうではない。

開発した臣下・平民の技術者の功績を認めてエドワードに話している。


やはり、有能な当主であったのだと

エドワードは尊敬の念を新たにしたのだった。
















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