第4話


 お初にお目にかかります。あたしは赤城あかぎれい。マサ君――佐伯さえき雅美まさよし君の幼馴染です。




 初めて会った日のことを、覚えている。

 あれはあたしが4歳のころ。

 親の仕事の都合で引越てきた街。幼稚園のお友だちに別れを告げて、新しい生活がスタートした日だ。

 あたしは当時、かなりの人見知りだった。見知らぬ土地で、友だちのひとりもいない。子ども心ながらに、寂しさと不安を抱えていた。

 うちの両親は、引越が終わると、そんなあたしを連れて挨拶回りに繰り出した。

 近所の何軒も回った。インターホンを押して出てくるのは、みんな大人たちばかり。あたしと同い年くらいの子どもは見られなかった。寂しさと不安が、子どもながらに心で幅を利かせていった。

 最後に立ち寄ったお家が、佐伯さん、というところ。我が家とは目と鼻の先の、こじんまりとした家だった。

 インターホンを押してから真っ先に出てきたのは、あたしと同い年くらいの男の子。次いで、苦笑しながら、彼の父親か現れた。

 親同士が挨拶しているなかで、あたしはその男の子から質問攻めにされた。


『名前、なんていうの?』

『どこから来たの?』

『ぼく、菜の花幼稚園に行っているの』

『今度一緒に遊ぼう』

『ごめん、忘れてた。ぼく、まさよし。よろしくね』


 彼は幼い頃、とても活発で、優しい子どもだった。

 知らない土地で困惑するあたしを気遣うように、あえて無理して、自分から話し掛けてくれているようだった。

 最初はおどおどしたけれど、彼の必死さを子どもながらに感じて。ほんの数分の短い挨拶の時間に、あたしとマサ君とは、打ち解けられたのだと思う。


 あたしは結局、まさよし、という子どもと同じ幼稚園に通うようになった。

 土地勘もない初めての幼稚園。知り合いなんていない。人見知りだったあたしは、幼稚園になんて行きたくなかった。お迎えのバスが家の前まで来ても、外に出ていきたくなかった。

 そうすると、きまって、あたしを呼ぶ大きな声が聞こえた。


『れいちゃーん! 早く行って、一緒に遊ぼうよ!』


 その言葉を聞いただけで、現金なあたしは、家を飛び出して幼稚園に向かったものだ。




 小学校でも、マサ君との関係は良好に続いた。

 相変わらずのあたしの性格を、マサ君は責めなかった。逆に、しょうがないな、と言わんばかりに、事ある毎にあたしを助けてくれた。

 澪ちゃんはぼくの友だち。皆で遊ぶなら、澪ちゃんも誘って遊ぼう。なんて、独りになりそうだったあたしを、みんなを巻き込んで、一緒にしてくれた。

 その姿は、頼もしくて――あたしの初恋とは、マサ君だった。

 


 まあ、いつも遊びに行くときに一緒についてくる、マサ君のお姉さんなんて邪魔者もいたけど。

 それはあんまり気にしなかった。

 お姉さんは特にあたしたちの遊びに口出しすることはなかったし、危ない遊びをしてしまったときには助けてくれた。

 別れ際に、マサ君は『お姉ちゃん!』なんて言いながら帰っていった。あたしは胸の中の、得体の知れないもやもや・・・・を抱えながら、家路についた。

 きっと、嫉妬、なんていう感情だったのだろう。



 中学に入ったばかりのときも、やっぱり頼りになるのはマサ君だった。

 人見知りが治らないあたしを、みんなの人気者に仕立て上げてくれたのは、マサ君だった。

 マサ君は特別にクラスの人気者、というわけではなかった。

 どこにでも普通にいる、ちょっと元気な男の子だった。


 あたしは、折角みんなの友だちの輪に入ったのだから、年相応にお洒落をしようと思った。

 あるときに美容室で、思いきって髪を染めた。少しだけ背伸びした、大人ぽい、けれど先生に怒られない程度に加減した茶髪。

 次の日の朝に、マサ君は少し驚いた風だったけど。すぐに頬を緩めて、


『可愛いじゃん』


 と褒めてくれた。

 あたしはそれが嬉しくて、より一層、お洒落に力を入れていった。だって、あたしが綺麗に、可愛くなる度に、マサ君は褒めてくれたから。


 でも。そんなあたしとマサ君の、幼馴染ていう関係を、周囲は疑問視し始めた。


『あんなチビと幼馴染なの?』

『あんなのより、隣のクラスの村田くんのが、絶対に格好良いよ!』

『佐伯? あいつを誘うの? へーえ、澪てば、あんなのが好みなわけ?』


 中学1年の終わり頃には、背伸びしてお洒落をしたお陰で、たくさんの友だちに囲まれるようになった。

 事ある毎に遊びに誘われて、最初は、マサ君も一緒に、なんて言って誘っていたけど。

 それを嫌がる連中が現れ始めた。


 マサ君は成長が遅いのか、まだ成長期が来ていないのか。

 気づけばクラスの男子の中でも一番背の低い位置にいた。

 本人は気にしない風だったけど。あたしを取り巻く周りは、気にし始めていた。

 その声を受けて。少しばかりちやほやされたあたしは、調子に乗っていったのだろう。

 マサ君と絡む時間は徐々に減っていった。

 クラスの男友だちと馬鹿騒ぎをしながら帰る後ろ姿を、何度も無言で見送っていた。




 そんななか。

 中学2年のときに、事件はあった。


 その日は、たまたまみんなに用事があって――久しぶりに独りで帰宅することになった。

 ちょっと後ろにマサ君が歩いているのは知っていたけど。下手に声を掛けて、またクラスのみんなにからかわれるのは嫌だったから、振り返らずに歩いていた。なんの連絡もない携帯電話を弄っているふりをして、歩いていたときだ。

 交差点に足を踏み入れた瞬間。

 あたしの身体は強い衝撃を受けて、前のめりに転んでいた。

 続くは車の急ブレーキの音。

 何事があったか分からず見上げた先には、ちょっとだけ怖い顔をしたマサ君の姿があった。


『――ちょっとあなた! いきなり女の子を突き飛ばすなんて、なに考えているのよ!』


 すぐに車から若そうな女の人が降りてきて、マサ君にそんなことを言った。

 マサ君はしどろもどろといった風で、何事か言い訳をしていた。

 ――よく考えれば良かった。マサ君が意味もなくあたしを突き飛ばすような人間でないなんてて、すぐに解るはずだ。

 でも、あたしの口から出たのは、

『乱暴者のマサ君なんて、大嫌い!』

 ていう言葉だった。

 たぶんその瞬間が、あたしとマサ君との別れ道ターニングポイントだったのだ。


 あたしは女性に連れられて、その車に乗って、病院に行った。

 彼女は車の中で、

『こんな可愛い子に乱暴しようとするなんて』とか。

『あいつと知り合いなの?』とか。

『許してはダメ。可愛い女の子を襲おうとしたんだから、報いを与えなきゃ』とか。

 ずっと言われた。

 今よりも幼い思考をしていたあたしは、簡単にその話を信じた。

 この女性ひとは、襲われそうになったあたしを助けてくれた恩人だと、錯覚してしまった。


 怪我は大したことはなかった。膝を少し、擦りむいた程度である。

 警察沙汰にはしなかった。軽傷だったし――なんだか怖かったから。

 でも、お父さんとお母さんには、はっきりと、『佐伯さんちのマサ君に襲われそうになった』と伝えた。

 お父さんは憤慨して、マサ君のお父さんに文句を言った。すぐにマサ君を含めて、お父さんとお母さんが謝りに来た。お姉さんはいなかった。

 平謝りを繰り返す、マサ君のお父さんとお母さん。けど、マサ君だけは、言い訳ばかりして謝ろうとしなかった。

 ――それは男らしくない。あたしは感じた。


 それからは酷いものだった。

 あたしは怪我をして、ろくに謝罪もされなかった被害者として、報い・・を与えた。

 クラスメイトを巻き込んで、マサ君は乱暴者だと吹聴した。

 噂は噂を呼び、あたしの意志を無視して、酷い虐めが始まった。

 こちらが頼んでもいないのに、むかつくあいつをぶん殴ってきた、とほこらしげに言う男子。

 あいつの鞄なんて、いらないよねえ? なんて言いながら、ゴミ箱にマサ君の鞄を捨てる女子。

 直接間接問わず、マサ君はおよそ中学生が考え付くだけの虐めを受けた。

 あたしは止めて、とついに言い出せなかった。

 下手を打てば。この陰湿で凄惨な行為が、自分にも降りかかってくるのでは、と思うと、怖くて何も言えなかった。


 日に日に憔悴していくマサ君。

 我慢しきれなくなったあたしは、みんなに言った。

『もう関わるのはやめましょう』と。

 それで虐めは収まるかと思った。

 でも、あたしの言葉を受けたみんなは、どうしてか意味を曲解して、次はひたすらに無視をし続けた。

 マサ君はクラスにいないものとして、声を掛けられても無視。

 課外授業で班を組むときは、ひとりだけ班に入れない。

 クラスで席替えをする度に、マサ君の隣のひとは学校を休む。

 そんな、度を超した陰湿な虐めがあって。

 マサ君は学校に来なくなった。

 

 佐伯さんのおうちとも交友がなくなり、マサ君ともお姉さんとも顔を合わせなくなった。

 相変わらず学校では、少しばかり可愛いからってちやほやされていたけど。可愛くなったあたしを、本当に見てもらいたかった相手は、もういなかった。




 中学3年の後半に、お父さんの転勤が決まった。

 以前に話は聞いていたけど、かなりの出世をしたらしい。いまの借家を引き払って、春には新築の一軒家を建てて、そこにみんなで引っ越す。お父さんの提案だった。

 母はもちろん賛成した。引っ越すとはいえ、そう遠いところではない。車で1~2時間あれば着くような場所だ。夢のマイホームを思えば、そんな距離は大したことがなかった。

 両親の懸念はあたしだった。

 そんな場所に引っ越すとなれば、またあたしにとって顔見知りのいない土地になる。あたしの人見知りを重々理解していたふたりは、新しい土地であたしが上手くやれるか、心配だったのだろう。

 あたしは笑って答えた。大丈夫だ、と。中学で上手くやれたのだから、高校でも上手くいく、と。

 本心では不安だった。

 なにせ、今度はマサ君がいないのだ。

 幼稚園でも、小学校でも、中学校でも。初めはマサ君が引き立ててくれたから、上手くいっていた。今度は、それが期待できない。

 でも。家族の幸せのためだ。マサ君がいなくても、きっと上手くいく。

 あたしはそう思って、引越に賛成した。



 テストの成績は大して良くなかったけど、日頃のクラスの影響力が強かったあたしは、内申点も良くて、推薦入学を果たした。

 それまでの土地ではほとんど知られていない、でも新天地ではそこそこ名の知れた進学校。そこが新しい学舎になる。

 中学で仲の良かった女子、男子にそのことを告げると。

『私もそこ受けてみるよ!』

『俺もだ。澪ちゃんは俺が守ってみせる!』

 なんて言ってくれた。


 ――なんだ。マサ君がいなくたって、あたしは大丈夫じゃない。


 頼もしいみんなの言葉を鵜呑みにして、あたしはそんなことを、勝手に考えていた。


 ふたを開けてみれぱ、中学のクラスメイトで、同じ高校に行く生徒はひとりもいなかった。

 そこそこ入試のレベルが高いのもある。電車で2時間て距離もある。

 それらとあたしを天秤に掛けて、どちらが重いか考えたときに。あたしの方が軽かった。それだけだ。

 結局のところ、あたしを本気で想ってくれる友だちは、ひとりもいなかったのだ。



 

 高校の入学初日。

 緊張でがちがちで、少し早く登校してしまったあたし。

 『赤城澪』と名前の書かれた席に座り、新しいクラスメイトが来るのを待つ。

 もちろん知った顔などひとつもない。

 男子の一部からは、きちんとお洒落を決めてきたあたしの様子を伺う視線も感じられたけど。

 積極的に話しかけてくる生徒はいなかった。

 あたしも、誰に話し掛けるわけでなく、ただぼうと、ホームルームが始まるのを待っていた。



 そんなときだ。

 見知った顔が、教室に現れた。

 最初は他人の空似でないかと思った。

 まさかこんなところにいるはずがない。

 彼は不登校だったし、家は遠く離れている。

 でも。見間違えたりなんてしない。

 教室に入ってきた彼は――佐伯雅美君だった。


 しぱらく見ないうちに身長が高くなって。

 体つきもがっしりしている。

 でも、きょろきょろと自分の席を探している姿は、なんだか可愛いらしかった。


 やがて目が合う。

 あたしは嬉しかった。

 過去にいろいろあったけど、それを知る人間はこの教室にはいない。

 また1からやり直して、仲直りして、楽しい高校生活を楽しめる。

 後にして考えれぱ、なんて自分勝手な考え。なんて利己主義な思想。結局、マサ君をだし・・に使って、みんなに取り入ろうなんて、愚かな思いであった。



 程なく、マサ君はあたしの姿を認める。なにやら驚いた表情だ。

 あたしは彼がこちらに気付いてくれた喜びで、思わず笑みを浮かべてしまう。

 ――けど。マサ君は驚きの表情の次に、はっきりと、怯えの顔をした。血の気が失せたような、真っ青な顔色になった。

 そして、教室から出ていってしまった。

 初めてのホームルームのときも現れなかった。

 入学式にも姿がなかった。

 ――マサ君は、あたしの姿を見かけた途端に、学校からいなくなった。



 遂に誰とも話すことなく、高校初日を終えたあたし。

 帰る間際に、変な話を聴いた。廊下で、上級生が話している噂である。


『うちの生徒が、駅前のビルから落ちたってよ』

『まじ? なにそれ』

『さっき携帯のニュースで流れてた』

『無事なのそいつ?』

『ニュースだと、命に別状はないってよ』


 そんな噂話に、あたしは食い付いた。初対面の上級生に、いきなり話し掛けてしまった。


『その生徒は誰か分かりますか? あと、どの病院にいますか?』


 先輩たちは目を丸くしていたが。すぐに情報を教えてくれた。そんなの自分で調べろよ、なんてことも言われなかった。結構いいひとたちみたいだった。


『生徒の名前は判らんけど。入学式に欠席していたやつなんているのかな? みんな来てるんじゃないの、授業もないこんな日くらいは』


 ――ところがどっこい、新入生で欠席した生徒に、心当たりがあるのです。


『確実じゃないけど、ニュースの画像だと近くの労災病院じゃないかな? 必ずしもそこに運ばれたわけじゃないと思うけど』

『ところできみ、新入生? 可愛いね、俺たちが学校の案内してあげようか?』


 先輩たちの言葉に、あたしは即座『ありがとうございます!』と報いて駆け出していた。


 マサ君に違いない。確信めいた予感が、あたしにはあった。

 もしかしたら、また、変な事件を起こしたのではないか。

 もしかしたら、また、変な事件に巻き込まれたのではないか。

 そう思うと、居ても立ってもいられない。

 携帯で調べれば、件の労災病院とやらは、高校から歩いて20分ほどだ。

 走っていけば、すぐに着く。


 嫌な予感がする。とても嫌な予感だ。

 なんの根拠もないのに、頭がぐらぐらと煮たっているよう。そして、なんにも悲しくないはずなのに、涙が勝手に溢れてくるのだ。

 ――とても、嫌な予感がした。


 病院に行く途中。

 小さなお花屋さんがあった。

 一刻も早く病院に向かいたかったけど、足を止める。

 店先には、美しい真っ赤なバラが活けてあった。




 病院の受付で、佐伯雅美、の名前を出すと、すぐに案内された。5階の角の部屋だ。

 まさか本当に、マサ君がここにいるなんて、と。あたしは緊張しながら案内を受けた病室に向かう。

 一応、涙のあとは拭いておいた。マサ君に、泣き腫らした顔なんて見られたくはない。


 501号室の扉には、【佐伯雅美】と書かれてあった。どうやらここで、本当に間違いはないらしい。

 あたしはひとつの深呼吸のあと、扉をノックする。

 ――すぐに返事はない。

 やや遅れて扉を開けたのは。マサ君のお姉さんだった。


 しばらくぶりに対面するお姉さんは、とても綺麗になっていた。

 前から思っていたけと、お姉さんは身長が高い。平均値くらいのあたしが、10センチは見上げるくらいの身長だ。

 加えて、長く延びた真っ直ぐな黒髪。しやんとした、凛々しい姿勢。化粧気はないけど、日本人らしい淑やかさが見え隠れする、整った顔立ち。

 そんなお姉さんが出てきて。あたしはやや戸惑うところだけど。


『お見舞いに来ました』


 負けじと、お姉さんの目を見つめながら、あたしは花束を見せた。


 するとお姉さんは――激怒した。

 こんなに感情をあらわにして、激しく取り乱して、あたしを怒るお姉さん。見たことがない。


『いまさらどの面下げて会いに来たの!?』


『花なんて持ってきても、雅美は喜ばない!』


『大体、優しい雅美が、訳もなくあんたに乱暴するはずないじゃない!?』


『あんたのせいで、雅美は――雅美は――っ!』


 早口に大声で捲し立てるお姉さんの様子から、マサ君が酷い状態になっていると、なんとなく察した。

 ニュースでは、あくまで命に関わる怪我でないと言っていたから。きっと大したことなくて、マサ君は元気で、病室で大人しく寝ているだけ。

 そんな風に、勝手に思っていた。

 でも現実は違ったらしい。


 せめて一目会って、挨拶だけでも。というあたしのささやかな願いも、聞き入れられなかった。

 マサ君はただ寝ているのでなくて、意識がないのだと教えられた。

 あたしは、顔から――いや、全身から血の気が引くような感覚に襲われた。


『じゃ、じゃあ。このお花、だけでも――』

『いまになって薔薇の花? 意識が戻って、もしあんたの名前のついた花を見たときに、雅美はどう思うか。考えてもみなさいよ!』


 結局。あたしの名前の書かれた札だけ外して。

 誰からのものか判らなくなった状態で、花束を受け取ってくれた。

 あたしの想いは、届くことはなさそうだ。


 ――でもしようがない。

 マサ君の辛い気持ちは、自殺したいなんて願う心は、あたしには伝わらなかったのだ。

 あたしだけが今さら気持ちを届けようだなんて。そんな都合の良い話はない。




 あたしは泣きながら、独りぼっちで帰宅した。

 幸いなことに、病院から家までは大した距離でなかった。高校の制服を着た女子が、泣きながら歩いているなんて姿は、ほとんど誰の目にも付かなかった。

 家に着いてからは、猛烈な吐き気に襲われた。

 昼に食べたものを、全部吐き出した。全部吐いても、まだ嘔吐感は治まらなかった。

 それが辛くて、また泣いた。悲しくて、涙が止まらなかった。


 でも。死にたいとは思わなかった。

 自らの死を願うほどの苦痛がどれほどのものか、想像できなかった。



 

 こうしてあたしは、記念すべき、喜ぶべき高校生活の最初の一日で。幼馴染のマサ君をうしなってしまったのだ。

 

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