第2話 望むものは4

「ヨシノ、カグノ!」


 部屋にトウカの声が響く。すこしの間があいて、――どこからともなく煙が立った。煙の中から二つの声がする。


「なあに? トウカ」

「呼んだ? トウカ」


 瑠璃色の髪をした二人の幼い少女が姿を現した。下駄を脱ぎ散らかしてトウカのもとに駆けより、ヨシノは無表情に、カグノは笑みを浮かべてトウカを見上げる。


 ――来てくれた。


 トウカはすがるように二人の肩を掴んだ。


「ヨシノ、カグノ。お願いがあるの」


 二人は同じ向きに首を傾げる。


「この枷を、二つにしてほしい。あなたたちならできるでしょう」


 トウカの言葉に二人は不思議そうにして、鏡写しのような顔を見合わせる。お願い、とトウカは二人を見つめた。

 トウカは彼女たちが夜の庭で見せてくれた光景を思い浮かべた。二つに別れてしまっていた石を一つにした彼女たち。たしかあのとき、言っていたはずなのだ――。

 ヨシノとカグノはトウカを見ると、にこりと微笑んだ。


「いいよ。私たちは二人で一つのあやかし」

「一つのものを分けることも、二つのものを一つにすることも、得意なの」


 そう言って、トウカに抱きついた。そんな彼女たちを抱きとめて、トウカは瞳を閉じる。ありがとう、と声を絞り出した。

 自分のために、みんなが協力してくれるのだ。それがとても嬉しかった。

 しばらく二人を抱きしめたあとで、顔を上げる。


「これで枷は二つにできる。私とタンゲツ、どっちも生きられるよね」

「おやおや」


 シラバミはぽかんとトウカを見つめた。そして、ふふっと笑い声をもらす。

 一度吹き出すと、その笑いは大きくなり、ついには腹を抱えて笑いだした。ケラケラ笑って、目には涙まで浮かんでいる。シラバミは細い指でそれをぬぐうと、


「すごいね、トウカちゃん。いつの間にやらお友だちをたくさん作っていたようで。いやはや、あっぱれだ。最初はあやかしが嫌いだとか言って怯えていたのにねえ――。いいんじゃないかい、やってみなよ。君たちを見届けてあげよう」


 トウカは笑みを浮かべた。あのシラバミの虚をつけたことは、こんなときだが気分がいい。微笑むトウカに、アサヒたちも笑った。

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