第6話 夕飯
6. 夕飯
将来への不安は赤ちゃんの今考えても仕方ないので置いておく。
女衆は男衆が持ってきた獲物の大きなネズミを捌いて内臓を取った後、そこに先程子供達が森から採ってきた果物を詰めていた。
え?内臓とったのは良いけど皮はそのまま?普通に毛モサモサなんですけど、と思った所で気づいた。
そういえば捌いていた時に使ってたものって少し尖ったただの石だったという事に。
むしろあんな石でちゃんと捌けた事の方が凄い。
というか今やってる作業って肉を焼く準備だと思うけど火ってどうするんだろう?
異世界に転生したんだし折角だから魔法で火をつけて欲しい。なんて考えていたら東の森へ向かった男衆が木の枝や葉っぱを抱えて戻ってきた。
そしてそれを焚き火跡の所に設置する。
どうやって燃やすのかを見ていると、男衆の中から1人だけ焚き火跡から離れているのが見えたためそれを目で追った。
離れた男は西の方にある家に入り、しばらくすると中から1人の初老の男性を連れてきた。
初老の男性は木の枝が積まれている焚き火跡に1m程の所まで近づき、足を肩幅に開き目を閉じて木の枝に向かって両手を向ける。
他の作業をしていた人も手を止めて静かに老人を見つめている。
そして静寂な時間が流れ5分程経った時、男性が叫んだ。
「フォア〜ッ!」(火!)
積まれた木の枝の中心から10cmほどの炎が立ち上る。
長っがいし炎小っっっっっさ!!
あんなに集中して5分も時間使って掌くらいの火しか出ないの!?
初老の男性が火を点けるのを見ていた周りの人達は「ウォオオオ!」と盛り上がっている。
え?これが凄いの?もしかしてこの人しか魔法使えないの?
そういえば家の中にいる時に家族も昨日と今日広場で見た女衆も魔法を使っているのを見た事がない。
森に入っていた男衆や子供達は知らないが、なんとなく使えなさそうな気がする。
俺はまだ魔法で石を動かすくらいしかした事ないが火をつけるのはかなり難しいのだろうか。
もう少し石を動かすのに慣れたら魔法で火を付けるのを試してみよう。
火を付けた跡初老の男性はすぐ近くの地面に座り込んだ。
かなり疲労が凄そうだ。
その様子を見ると魔法を使うのが怖くなるが、特に顔色が変わったりしているわけではないのでただ集中するのに疲れただけのようだ。
女衆は最初についた火に葉っぱや小さい木の枝を入れて火を大きくし、火の中へ先程下ごしらえしたネズミ肉を入れた。
串に刺したわけでもなく何か葉っぱでくるんだりしたわけでもなくそのまま火に中へ投入したのだ。
豪快な調理法に驚いたが、皮が未処理だったことを思い出しむしろその方が毛も焼けるし良いかもしれないと納得する。
どうせ赤ちゃんの俺はあの肉を食わないし。
肉を火に投入した後女衆は子供達が向かった南の川があると思われる方へ向かった。
俺と女の子は残ったままだ。
あ、そういえばさっき疲れたからって女の子がちょっかいかけてくるのを無視してたや。
女の子の方に顔を向けると少し泣きそうになっていた。
慌てて女の子のところへ近づき俺から絡んでご機嫌を取る。
何とか女の子が機嫌を直してくれたのでまた一緒に発生練習をする。
「あっああ〜、あー、い〜い〜いーいー、う〜〜う、う、ええ〜?え!、お〜〜〜、お?お」
「アッア〝ア〝〜、アー、イ〜イ〜イーイー、ヴ〜〜ヴ、ウ、ヴェ〜?ヴェ!ヴォ〜〜〜、オ〝?オ〝」
お?女の子の発音が少しだけ良くなっている。
この調子で慣れていけば日本語を教える事も出来そうだと嬉しくなる。
こんな調子で練習していたら子供達と女衆が一緒に戻ってきた。
みんな毛が濡れているので南の方に川があるのは間違いない。
そして俺の母親と恐らく女の子の母親は幅の広い葉っぱで編まれた容器を持っていてそれを俺たちに飲ませようとする。
ずっと外で遊んでいたから水を持って来てくれたのだろう。
川の水をそのまま飲むのは怖いけどみんな飲んでるみたいだしこの猿人の身体なら大丈夫だと信じて飲んでみる。
意外と美味い!!
山に近いからか水は軟水に近いようだ。前世の水道水よりか遥かに美味い。
まだ人間が少ないから自然が綺麗なままなのか。その点だけは転生して嬉しかった事かもしれない。
こうして住民が焚き火の周りに集まってきた。
ここみんなで夕飯を食べるようだ。家族でまとまって座っている。俺の家族と女の子の家族は近めの場所だ。
女の子の家族は母親と女衆にいた若めの女の子とうちの下の兄より少し大きい男の子、そしてあの魔法を使った初老の男性と初老の男性を呼びに行った男性らしい。
女の子と仲良くなれば初老の男性から魔法について何か教えて貰えるかもしれない。
女の子に優しくしておこうと決めた。
「グェル! グェル!」(食べる!食べる!)
そして肉が焼けたらしく女衆の1人が知らせる。
そしてそれぞれの家から女衆が集まって家族の分を取り戻っていく。
女の子もまだ肉は食えないようで潰された果実を食べさせてもらっていた。
俺は戻ってきた母親から授乳してもらいみんなが焦げた肉をそのまま齧っているのを見ていたら眠くなってきたので暖かい母親の膝へ登り眠った。
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