第5話 第一歩
5. 第一歩
あれ?もう外にいる。
昨日は母親より先に俺が起きていたが、今日は起きた時には既に家の外にいて昨日と同じ村の中心部にある焚き火跡の近くにいた。
俺は母親の膝の中で眠っていたようだ。
もう他の家の女の人達も来ていて、みんなでツタと草を編んでいる。
昨日は周りを見るのに忙しくて気にしていなかったが、女衆は大人の女が母親を含めて8人いて、大人というには若い女の子が3人いた。
もぞもぞ動いて母親の乳房を叩き、腹が減っているアピールをする。
授乳してもらい辺りをキョロキョロ見渡していたら、昨日ちょっとだけ遊んだ1歳くらいの女の子が来た。
母親も子供同士で遊ばせたいのか俺を膝から降ろしてくれた。
「フォフォ!」(起!)
俺が起きるのを待っていたのだろうか嬉しそうだ。
昨日と同じように俺の頬っぺたをつついたり手のひらを触ってきたりしている。
今日は昨日と違って魔法の練習をして疲れてないし、初めて外に出て興奮してる訳でもないからたくさん遊べるはず!
そして昨日家に帰ってから考えていた事を実行しようと思う。
「あっああ〜、あー、い〜い〜いーいー、う〜〜う、う、ええ〜?え!、お〜〜〜、お?お」
俺は女の子が弄ってくる合間のタイミングを見計らって声を出した。
女の子はこの変なリズムの俺の声を聞いてキョトンとしていた。
そう!俺が考えていたのは発生練習だ。
前世の記憶がある事を活かして今の内からちゃんと話せるように練習する。
どうせこんな超原始時代でちゃんとした言語もないなら日本語を広めた方が楽じゃない?と思ったからだ。
そしてこの女の子の側でやる事によってあわよくば興味を持ってもらいこの村で日本語を使うようになる第一歩にしたい。
そんな考えから俺は変なリズムで声を出す事によって興味を引けないか試してみた。
「あっああ〜、あー、い〜い〜いーいー、う〜〜う、う、ええ〜?え!、お〜〜〜、お?お」
「あっああ〜、あー、い〜い〜いーいー、う〜〜う、う、ええ〜?え!、お〜〜〜、お?お」
「ア〝ッア〝ア〝〜、ア〝ー、イ〜イ〜イーイー、ヴ〜〜ヴ、ヴ、ヴェ〜?ヴェ!ヴォ〜〜〜、ヴォ?ヴォ」
変なリズムで発生練習をしていたら女の子も気に入ったのかのってきてくれた。
しかし、余り普段使わない発生のようでなんだかぎこちない感じがする。
まあ俺が大きくなった時までにちゃんとできていればいいからゆっくり進もう。
こんな風に発生練習をしながら遊んでいたら東の森から子供が10人出てきた。
その中には兄達の姿もある。
兄達は見た感じ大体6歳くらいと10歳くらいで、一緒にいる子供達も大体同じような年代の様だ。
それぞれ何かの果実を腕いっぱいに抱えている。
どうやら少し大きい子供達は森で食べ物を採取するのが仕事のようだ。
何才くらいから森へ行けるのだろうか。
魔法の練習をするためにも早く人目につかない森の中へ入れるようになりたいものだ。
「フォホ キャッキャ」(飲む 行く)
子供達は母親達が集まっているところへ行き果物を置いた後、今度は俺の家がある南の方へ駆けて行った。
「飲む」って行っているし恐らく南の方に川があるのだろう。
こんな原始時代でも子供達は楽しそうだった。
俺はまだ何もできないしひたすら女の子と発生練習を続ける。
しかし子供の気に入った事をひたすら繰り返す習性には驚く。
俺は既にちょっと飽きてきて休憩しようとしたら女の子が俺をつついて催促してくる。
疲れたフリをして催促を躱し、母親達が何をしているかを見る。
母親達は子供達が採ってきた果実の皮を剥いたり、潰したりしている。
みんなで採取してみんなでご飯の準備をしているのだろう。
そんな作業の様子を見ていたら東の森から今度は大人の男衆が8人出てきた。
そして狩をしてきたらしく、30cmくらいある大きなネズミみたいな物を10匹持っている。
家でも見たことあるけど全然食欲が湧かない。
男衆は獲物を女衆に渡した後、また東の森へ戻って行った。
「ダフォ グェル」(多 食べる)
「リャア フォッブフォ」(量 久し)
母親達がこんな会話をしている。
ネズミ10匹で多いだと?
女衆は11人、森へ行った子供は10人、男衆は8人で29人だぞ?それでネズミ10匹で多いってタンパク質足りてるのか?
果物もあるからそれなりに腹は膨れると思うけどやはり食生活は厳しいようだ。
それから母親達は少し尖った石を使ってネズミの解体を始めた。一応内臓を取ったりする事は経験からか知っているようで安心した。
それにしても俺が生まれてから余り季節が変わったような気配は無いけどこの世界でも冬とかあるのだろうか。
こんな生活のまま冬越しなんてしたら確実に死者がでてしまう。
俺はそんな予想をしてしまい、とても恐ろしくなった。
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