第2話 誕生



2.誕生



意識が覚醒する。そして自分の身体が温かいものに包まれている事を感じる。時折感じる揺れと母親の心臓の鼓動が心地いい。


ああ、これがお腹の中なんだな。転生できたお陰でこんな産まれる前から意識がはっきりしている。


産まれる前からこんなに意識がはっきりしている理由はよく分からないが、前世では忘れていたか認識できていなかったであろう事だから初めて体験するに等しい感覚だ。


このまま産まれてからもずっと意識がはっきりしていていろんなことを覚えていられるなら早く新しい生活にも馴染めそうだ。


そろそろ身体も動かせるかな?


おっと勢いあまって蹴ってしまった。母さん痛かったらごめん。


少し疲れたから寝よう。


こんな風に覚醒と睡眠を繰り返してき、起きている時間が少し長くなってきた。


身体を動かすにはほどほどにして、ロキから貰ったインターネットへのアクセスをそろそろ試してみようか。


「インターネット」と念じるとブラウザのような画面が脳裏に浮かんでくる。検索枠とその上にブラウザの名前であろう「Goodle」の文字が。


え?G◯ogleのパクリ?神様みたいなものがそんな事していいの?神様だから逆にありなのか?とか、そうとう良い力だからgoodなの?や、神様だったらGodにした方がいいんじゃない?といった疑問は今考えても無駄なので置いておく。


取り敢えず何か調べてみよう。


「胎児 記憶」で検索!


お〜意外と出てくるねー。ママを選んだとかいう話もあるけど俺と同じように転生者なのかな?少し話を聞いてみたい。


そしてTwit◯erやinst◯gramなど色々見ていると俺が元の世界で死んだと思われる日から変わっていない事に気がついた。


ロキは俺が元いた世界のインターネットへ繋げると言っていた。もしかしたら俺がロキと会っていた時は時間が止まっていたかもしれないし、この世界は元の世界より早く時間が進んでいるのかもしれない。


これもおいおい検証していこう。


さて、俺はあとどれくらいで産まれるだろうか。



身体を動かしたり、インターネットで調べたりして過ごしてきたが、俺が成長したのかとても窮屈に感じる。


同じ体勢では辛いのでちょっとずつ動くのを繰り返していたら急に俺を押し出そうとするような圧力がかかってきた。


母親がいきんでいるように、産まれるぞ!と俺も意気込んで産まれやすそうな体勢を探したりしているうちにいつのまにか産まれていたらしい。


いつも包まれていた温かいものではなく少し刺激を感じ、これが寒さかな?、と気付き産まれていた事を知った。


産まれたばかりなのでよく目が見えないが、何となく光が揺れ動いていることを感じる。


俺は少しゴワゴワする毛布のようなものに巻き取られ、産まれる為に意気込んだ疲れがきたのかそのまま眠った。


産まれて分かった事は赤ちゃんは本能が強すぎて自分の身体でも自分の意識で押さえ込めない事。


お腹が減ったら直ぐに泣いてしまうし、ウンチやオシッコをした時はお尻や前から何かが出た感覚に驚いて気づいたら泣いていた。


いくら前世の記憶があるからと言って産まれたばかりの身体はいろんな刺激に敏感で新しい経験があるたびに泣いている。


こんな風に俺の赤ちゃんライフは過ぎていった。


そして今俺には懸念がある。


それはこの世界の文明度だ。


なぜ懸念があるのか。俺は産まれたばかりでまだ目がよく見えない。白黒の世界でボヤ〜っと見えているだけだ。


そこで今俺が外の情報を集められるものは聴覚が主である。


そこから聞こえてくる音がこうだ。



「フォア〜〜ッ ()」


「フォホ(飲む)」


「キャッキャ (行く)」


「キャーー! (来る)」



こんな感じだ。ちなみにロキがつけてくれた翻訳魔法のお陰で耳では意味不明な叫び声にしか聞こえないが、頭の中ではちゃんとどういう意味なのか分かる。不思議だ。


そう。この叫び声みたいなものが翻訳されているという事はこれが今の世界の言葉なのではないだろうか。


きっと異世界では言語が特殊なだけで他は普通かもしれない。


動物園で聞いたあの動物の鳴き声に似てるけど。


そして授乳の時にも毎回俺は嫌な予感を感じている。


毎回母親に抱き上げられ乳房の所まで顔を持っていくが、乳首が毛皮みたいなものに埋まっていてミルクにありつくまでにちょっと疲れるのだ。


うん、授乳の時は毛皮の服じゃなくてもっと授乳しやすいっていうか服脱いだらいいと思う。


毛と皮膚のが境い目の分からないくらい密集して毛が生えているけどこれもきっと上等な毛皮だから分からないだけなんだ。


あと気づいた事は、俺が産まれた時に巻き取られたゴワゴワした毛布のようなもの。その毛布は母親がいる時しか巻かれない。


きっと凄い高級な毛皮だから俺が裸で寝ているよりも、母親がつきっきりで管理しないといけない重要なものなんだ。


毛布自体が熱を発していて温かいというか人肌のようなぬくもりを感じるけど。


というかボヤ〜っと見える視界でも母親や他の人の輪郭はなんだかモコモコしているような気がする。


モコモコが民族衣装とかだといいなー


モコモコに全身覆われていてつなぎ目とか見当たらないけど。


現実逃避をしたいけど冷静に状況を理解しようとしている俺がいる。


はい、分かってます。受け入れるしかありません。


でも目がちゃんと見えるまでは少しくらいいい夢を見たいです。



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