幕間 ~次女は見た~
もう頭がはち切れそうでした。
「リリが、失踪した王女様の娘……?」
自らを女王だと名乗った女の人は、いきなりとんでもないことを言いはじめました。
「すぐには信じられないと思うけれど、この子には王族の血が流れている。先々代国王の孫で、その長女の娘。私との関係は姪と叔母になるわ」
「めいとおばー?」
「……」
リリはよくわかってないみたいで、キョトンと首をかしげます。それもそうです。私だってこの状況がよくわかりませんし、まだ半分は夢じゃないかなって思ってるぐらいです。
というか、女王様とお会いすることになった時点ですでにいっぱいいっぱいだったのに、エミ姉が連れていかれて、コロナさんが現れて、リリが八年前に行方不明になった王女様の子供だって言われて、もう何が何やら……。
ここ数ヵ月、エミ姉が無茶したり、エミ姉がモグラっぽくなったり、エミ姉がお金持ちになったり、エミ姉が怪しかったり、エミ姉がギルドで働き出したり、ようやく生活が落ち着いてきたと思った矢先エミ姉が王都に呼ばれたり、けっこう色々とありました。
それでも、今日は間違いなく飛び抜けておかしな日です。異常です。果たして無事、私たちは帰れるのでしょうか。
不安でなりません。
「で、でも、どうしてそんなことが……?」
「それについては私が答えよう」
神様の技術を使って調べたこと。検査に必要だったリリの髪は、先日私たちがファンダイン家に泊まった際に入手したこと。
コロナさんは秘密裏に調査を行ったことを謝りながらに説明してくれました。
「間違いであったのならばそれで済む話だった。しかし結果は、両者の親子関係を証明するものとなった」
「そんな! それじゃあ、リリは本当に王女様の……」
「ええ、私の姉であるエリザの子であることに間違いはないわ。だから、この国の女王として、そして叔母として、この子を育ててくれたあなたたちと、これからのことを話し合わなければならないと思ったのだけど……ねえ、コロナ、ちょっといいかしら」
「はっ、如何なされましたか」
そこで辺りをキョロキョロと見渡したあと、女王様はコロナさんのほうを向いて不思議そうにたずねました。
「
「陛下、申しわけありませんが質問の意味を図りかねます」
「私は三人とも呼んでくるように言ったはずよ」
「いえ、たしかに陛下はそう仰られていましたが……その、陛下のご命令だったのではないのですか?」
「命令? コロナ、一体なんの話を――」
二人ともなんか変です。
会話がかみ合ってません。
でも、コロナさんの戸惑いはよくわかります。ラッセルさんはたしかに女王様の命令だといってエミ姉を連れていきましたから。
リリの血筋の話を聞いて、てっきり誘拐の濡れ衣で捕まったのではと心配してましたが、やはり何かの手違いだったのでしょうか。
それならそれでいいです。
だけども、何やらザワザワと胸騒ぎがします。
そして同時に、なんだか嫌な視線も感じました。
「な、なんだろう、これ……」
「しーちゃんしーちゃん、おはなしおわったー? おねーちゃんはー!?」
そこで不意に、リリが私の服の袖をつかんで揺すってきました。エミ姉と引き離されてやっぱり不安だったみたいで、今にもグズり出しそうな気配です。
「リリ……」
「しーちゃん?」
姉として落ち着かせてあげないといけませんでしたが、視線の正体に気づいた私は得体の知れない恐怖で身動きが取れなくなりました。今ならヘビに睨まれたカエルの気持ちがよくわかります。
「嗚呼、素晴らしい。やはり、本物だ……
その声の主は、人とは思えない真っ赤な瞳でこちらを見据えたまま、ゆっくりと近づいてきました。
「きゃ!」
「陛下っ!?」
途中、進路上にいた女王様を押し退けて激しく転倒させても、まったく気にかける様子はありません。最初からこの広間にいた人ですが、そんなに偉い人なのでしょうか。
見た目は背の小さなおじいさんで、頭は茹でた卵のようにツルツルです。
しかし相手が女性とはいえ、どこにそんな腕力があったのでしょうか。女王様はまだ立ち上がれません。かなり強く、床に身体を打ちつけたようです。
「キリル大臣、いきなり何を!? 乱心されたかっ!?」
女王様に駆け寄ったコロナさんが問いかけますが、キリル大臣と呼ばれたおじいさんは一切構うことなく、そのまま私たちの前に立ちふさがります。
そして、次の瞬間でした。大臣の手がリリにまっすぐ伸びてきたのが見えたので、私はとっさに動きました。
「あ――」
何がどうなったのかはよくわかりません。
だけども、強く突き飛ばされて、宙を飛ぶ感覚がありました。
リリ、逃げて!
大声で叫んだつもりでしたが、実際ちゃんと声に出せたかどうかはわかりません。直後、突然目の前が真っ暗になって、このまま意識を失うんだと察しました。
神様、願わくば……次に目を開けたとき、私が見る光景は――
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