47.脱獄
「………………」
借り物のドレスが汚れるといけないので、牢屋の隅っこに立って、ぼーっとしてた。
なんかさっきから考えれば考えるほど、お先真っ暗って感じ。だから、今はもうできるだけ無心を心がけてる。
「てか、いつになったら出してくれるのかな……」
まだ大して時間は経ってないだろうけど、何もすることがないと長く感じる。それにこんな状況じゃ、不安が募る一方だ。
せめて話し相手がいれば、少しはマシなんだけど。んー、もう思い切って見張りの人に話しかけてみようかな? もしかしたら何か教えてくれるかもしれないし。
「あの、すみま――」
「ぐふっ」
「ふぇ?」
――ドサッ。
突然、見張りの騎士様が鉄格子の前で倒れる。
「………………」
なんか白目剥いて泡吹いてるけど、私は誓って何もしてないよ。ただ話しかけただけだもん。あ、でも腰のところに鍵の束が!? こ、これって、もしかして脱走のチャンス……!?
「よー、エミカ」
「ひえっ!」
キーリングにそっと手を忍ばせたところで名前を呼ばれ、私は思わず飛び上がった。
慌てて鉄格子の内側から声のしたほうを見ると、そこには不敵な笑みを浮かべるパメラが立っていた。
「助けにきてやったぞ。今出してやるからちょっと待っ――ん? って、こいつエミカじゃねーじゃん」
「へ?」
「悪りぃな、人違いだった。邪魔したな。たくっ……ここじゃねーならあいつどこにいんだよ。手間かけさせやがって……」
「ちょ、待って待って! どこいくの!?」
「あ?」
「人違いじゃないよ、私だよ!? ほらほら、エミカだよ!!」
「げっ! その爪、マジでエミカか!? てか、なんて格好してんだよ。仮装行列にでも参加するつもりか?」
「ううっ、私だって好きでこんな姿になったわけじゃないよぉ~!」
――ガチャ。
――ガラ、ガラガラガラガラ!
着飾ってるせいで赤の他人だと思われちゃったけど、パメラに鍵を開けてもらってなんとか牢屋から出ることができた。
「ありがと、助かったよ! でも、どうしてパメラがここに? ダンジョンに篭ってるって聞いてたけど」
「ああ、特訓は今朝方に切り上げた。んで、王都に戻って宿で爆睡しようかと思ったら、お前らがピンチだって……その、とある人から聞いてな」
「とある人?」
「まーそれは置いといて、これからどうする? てか、お前の妹たちが見当たらねーけど、どこにいんだよ?」
「あ、そうだった!!」
シホルとリリ……疑いを晴らすにしても、早く合流しておいたほうがいいね。ほんとに最悪の最悪の最悪の場合、逃げるにしたって一人じゃ逃げられない。三人一緒じゃないと絶対にダメだ。
「もし先に女王様に会えるなら、なんで私を捕まえたのか聞いてみたいけど……」
「女王命令でこんなことになってたのか。お前、国家元首怒らせるとか一体何したんだよ?」
「し、知らないよ! 清廉潔白すぎて、まったく身に覚えが……ない、し……」
「そんな冷や汗ダラダラ流して言うなよ」
結局、先にシホルとリリを捜すことになった。心強いことにパメラも手伝ってくれるそうだ。とりあえず二人と引き離されたさっきの場所に戻るため、私たちは牢獄を出た。
「城の中心部にいくならこっちのが近道だぞ」
「道がわかるの?」
「昔よく家の手伝いできてたからな」
家? あ、そうか。パメラも名家のお嬢様だったね。
コロナさんも王都の研究院に勤めてるわけだし、城にくる用事があっても不思議じゃないか。
「でもさ、これ見つかったらまた捕まっちゃうよね、私?」
「そんときはそんときだろ。王立騎士団なんざオレが蹴散らしてやる」
「えっ!? ダ、ダメだよ! そんなことしたらさらに罪が重くなっちゃう!!」
「安心しろ、脱獄してる時点でもう十分アウトだ」
「うっ! やっぱ牢屋に戻ろうかなぁ……」
「今さら遅ぇー。それにあそこを曲がればもう城の中心部だ」
嘆きながらも妹たちと引き離された場所の近くまで戻ってこれた。
パメラと一緒に曲がり角からこっそり覗く。その先は横幅の広い廊下になっていて、先ほど私たちを取り囲んだ騎士の人たちが何やら慌ただしく動いてた。
「やけに騒がしいな……」
「もしかして、私が脱獄したのがもうバレたとか?」
「いや、それにしたってちょっと様子がおかしいぜ。あいつがあそこにいるのも妙だしな」
パメラが指差した先を見ると、そこにはベルファストさんとラッセル団長が何やら真剣な面持ちで話し合ってる姿があった。
「何を話してるんだろ?」
「やっぱ何かあったみたいだな。いくぞ、エミカ」
「え? で、でも……」
「ここに隠れてても埒が明かないだろ」
「ちょっ! まだ心の準備が~!?」
抵抗してはみたけど、パメラに腕を引っ張られて私は廊下に連れ出されてしまう。ベルファストさんがすぐにこちらに気づいて声を荒らげた。
「お前たち!!」
「ひっ!?」
ヤバい。これはガチで怒られるヤツだ。
そう直感した私は慌ててパメラを盾にするようにして隠れた。
「ち、ちちち違うんです! ほんとは脱獄する気なんてなかったんです! でも、パメラが嫌がる私を無理やり!!」
「あ、てめぇー! せっかく助けてやったのに裏切んのか!? 上等だ、このままふん縛って女王の前に転がしてやる!!」
「きゃああっ、やめてー! またそうやって私を無理やり~!!」
「くっ、大体お前な! オレが見張り倒したとき鍵に手伸ばしてたじゃねーか、脱獄する気満々だったろ!?」
「止めろ、お前たち! 今は遊んでる場合じゃないぞ!!」
パメラと取っ組み合ってると、ベルファストさんがあいだに入ってきて私たちを引き離した。そして、王都のギルド会長はその場で耳を疑うようなことを口にした。
「今、ちょうどラッセル団長とも摺り合わせていた。いきなりだが、結論を言うぞ。エミカ、お前の妹たちが危険だ」
「はい?」
予想してなかった言葉に、一瞬で頭が真っ白になった。
「妹たちが危ないって……そ、それどういうことですか!?」
「理由まではまだわからん。だが、お前を騎士団に捕縛させたのもなんらかの計略があってのことだろう」
「エミカ様、申しわけありません。私が命令を鵜呑みにしたばかり、こんな事態に……」
「騎士たちの話では、二人は女王陛下の使いの者によって連れていかれたようだ。おそらく場所は王座の間だろう」
「……え、えっ?」
ダメだ、まるで話が見えてこない。
私を捕まえるように命令を出したのは女王様だよね? なら女王様の狙いは私じゃなくて、シホルとリリだったってこと? でも、どうして二人が……?
「クソ、説明している時間が惜しい。事情は走りながら話す、今はとにかく俺について来い!」
「は、はいっ!」
そうしてベルファストさんを先頭に私たちは王座の間へと向かった。
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