40.試練①
あのあと結局、お歴々の皆さんは右にならえで全員キリル大臣の意見に賛同した。
んで、早ければ早いほうがいいってことで、明日の朝、試練を受けに王都の東にあるなんとかってダンジョンへ出向くことになりましたとさ……。
あるぇ~? おかしいなー。
これで帰れるって話じゃアリマセンデシタ?
「ごめんね、エミカちゃん。まさかこんなことになるなんて」
「パメラの殴りこみもそうだが、穏健派のキリル大臣があそこまで主導権を握ってくるとは想定していなかった。すまない」
会議が終わったあとアンナさんとベルファストさんが謝ってきたけど、別に二人は悪くない。それより、問題は明日のことだ。
「試練って一体何をやらされるんですか、私……」
「その点については心配するな。試練と言っても大昔やっていた儀式のようなものだ。お前はただ、ダンジョンに潜って〝覇者の証〟を取ってくるだけでいい」
「えっと、青き竜のダンジョンでしたっけ? そのアイテムはどこにあるんですか?」
「覇者の証はダンジョンの最終階層に設置される決まりだ」
「……最終階層って地下何階なんですか?」
「三十三階層だ。九十九階層まで下りたお前なら余裕だな」
「無理です。辞退します。今までお世話になりました」
「まー、待て待て……。何もお前一人で潜れと言っているわけじゃない。パメラと一緒にだ。お前をしっかり護衛するよう、あいつには俺から交渉しておく。取り引きが失敗してもギルド会長権限で必ず従わせるから安心しろ」
「いや、あの子と一緒にって、逆に恐いんですけど……途中で、「クックック、二人も
「お前はあいつのことをなんだと思っているんだ。あー見えて、ちゃんと信念を持った冒険者だぞ? そんなことにはならんさ。……たぶんな」
「たぶんって言ったよ、この人!?」
そんなものすごく不安になる返答をもらって、翌日。
憂鬱な朝を迎えた私は、王立騎士団の馬車で青き竜のダンジョンに運ばれた。気分はまるで人柱。神様の怒りを鎮めるため生け贄にされちゃう村娘の気持ちってたぶんこんな感じだ。
ダンジョンの入口前ではベルファストさんを筆頭に、冒険者ギルドの関係者が集まっていた。
「既に理解していると思うが、今日は二人に最終階層にある覇者の証を取ってきてもらう。期限は日没までとし、試練をクリアできれば委員会は両者に受章の認定を与えよう」
ざっくりとルール説明が終わると、さっそく試練ははじまった。
――探索をはじめて、約二十ミニット経過。
「おい、そんな引っつくなっての! 歩きづらいだろうがっ!」
「あ”ぁっー! ま、待ってぇー、置いてかないでぇ~~!!」
んで、今私はパメラにしがみつきながら地下四階層を進んでいた。
ダンジョンとしてはアリスバレーの低層域と同じく、壁に囲まれた通路が続くシンプルな構造。昨日ベルファストさんから聞いた話によると、最終階層まではずっとこんな感じらしい。
さらに途中にある十一階層、二十二階層のゾロ目階層にボスは出現せず、三十三階層のラスボスも五百年前に討伐されて今はいないそうだ。
なので、アリスバレーと比べてもそうだけど、世界的に難易度としてはかなり低いダンジョンに設定されてるみたい。今日みたいな特別な日以外は開放されないらしいけど、完全に
てか、入ってからずっとモンスターも出てこないし、もしかしたらこのまますんなりと最終階層まで行けたりして?
「なー、お前さ」
「ん、何?」
少し楽観的に考えてたら、前をいくパメラが急にこちらを振り返ってきた。
「……得物は? まさかいつもその両手の爪だけで戦ってんのか?」
どうやら私が武器を持ってないのを不思議に思ったみたい。ま、冒険者としては当然の疑問だよね。いつも戦ってないよ、と正直に答えようかとも思ったけど、そんなこと言ったらまた別の質問をされそうだ。うん、やめとこう。
「まー、大体そんな感じかな……」
「あのな、せめて剣くらい持ってこいよ。てか、お前装備も軽装とか、少しは護衛するこっちの身にもなりやがれっての」
「ご、ごめん……」
「まっ、今回はめずらしくベルファストの奴が頼みこんできたから守ってはやるぜ。せいぜい感謝しろよなー」
「うっす……」
むー、このちびっ子め。
正論すぎて何も言い返せないけど、装備に関してはそっちだってすごい軽装じゃんか。おなかも肩も足も出ちゃってるし、武器だって――って、あれ?
そういえばパメラって、冒険者としての職業はなんなんだろ? 太もものベルトにダガーっぽい物は差してるけど、あれが得物かな?
んじゃ、やっぱ見た目どおりの盗賊職?
「ねえ、パメ――」
「きたぞ。団体さんのおでましだ」
私が疑問を口にしてる途中だった。不意にパメラが前方を向く。
「お前は後ろに下がってろ」
「え?」
――ニョロ、ニョロニョロ。
――ニョロニョロ、ニョロニョロ。
――ニョロニョロニョロ、ニョロニョロ。
――ニョロニョロニョロニョロ、ニョロニョロ。
――ニョロニョロニョロニョロニョロ、ニョロニョロ。
「えっ!?」
直後、薄暗い通路の先から大量にウネウネと現れたのは、上半身が人間で下半身が蛇の怪物だった。
何匹いるのかはわからない。
数え切れないほど、ぞろぞろと大群で押し寄せてきている。
「ひぎゃあ”あああぁー! 何あれえ”え”ええぇーー!?」
「うるせー! 耳元で叫ぶな! いいから黙って下がってろ!!」
パメラは怒鳴りながらに一歩踏み出すと、そこで右腕を水平に上げた。
「〝
次の瞬間、ぱっと光が瞬いたかと思えば、その小さな手の先に巨大な塊が出現する。それは彼女の背丈の倍はありそうな、純白に輝く大きな剣だった。
「雑魚に用はねぇ、爆ぜてろっ!」
その細腕のどこにそんな力があるのか。
パメラは軽々と大剣を持ち上げると、初撃にて横一線に蛇人間の大群を薙ぎ倒した。斬撃に一瞬だけ遅れて、グロテスクな臓物を撒き散らしながら無数の胴体が天井高く吹き飛んでいく。
「おらぁ!!」
辺りが蛇人間の濃い緑の血で染まると、パメラは隊列が乱れた場所へと踏みこんでさらに人間業とは思えない剣速で二撃目を加えた。再び鮮血が噴水のようにほとばしる。死骸の山に埋もれ、私の位置からはもうパメラの姿は確認できなくなった。
それでも、すさまじい斬撃と血の噴き上がる音を聞けば、圧倒的な力を持った彼女が蛇人間の大群の中で猛威を振るい続ける姿が手に取るようにわかった。
ザシュ――!
――プッシャ~!!
ザシュ――!
――プッシャ~!!
ザシュ――!
――プッシャ~!!
時間にしてみれば、ほんの短いあいだだったと思う。
「終わったぜ♪」
私が呆気に取られて放心してると、壁も床も天井も緑に染まった通路から鼻歌交じりでパメラが戻ってきた。
信じられないことに、その身体は返り血一つ浴びていない。パメラの背後では、ぐしゃぐしゃに潰れた蛇人間の胴体やら臓物やら頭やら尻尾やらがところどころで山を築いていて、まさに地獄そのものって感じの光景が広がってた。
「パメラ……私、ちょっと……」
「あん? どしたよ?」
その惨状を前にして、私は彼女の力に震えた。
「うぷっ」
「うぷっ?」
そして、私は――
「おえぇー!」
「うわっ、汚ねー!?」
吐いた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます