37.完遂
「完成が見えてきたわね」
「ですねー!」
「エミカちゃん、体調は大丈夫? 連日の作業で疲れていない?」
「んー。正直、さすがにちょっと身体は重いですが……でも、あともう一息です! ラストスパートでがんばりますよ!」
「エミカちゃん……そうよね、あと少しだものね! がんばりましょう!」
照明の取りつけも終わったので、次はいよいよ地下道への出入口を作ることになった。
まずは馬車で地上の北東門に移動。現場に到着すると、すでに予定地は決まってるらしく、門から伸びる道のほとりに赤い線で印がつけてあった。
さて、がんばると意気込んだものの、どうしたものか。
光源の問題に続けて、出入口を作る上でも一つ問題があった。ずばり、階段掘りだと馬車が通れない。これにはかなり早い段階に気づいてたけど、いい解決策が思いつかなかった。
限りなく小さな段差にすればいいかな? とも思ったけど、それだと出入口の距離がものすごく長くなってしまいそうだ。モグラクリエイトで作った三角形のブロックを積んでいく。なーんて方法も考えたけど、複雑で時間もかかりそうなのでできればやりたくなかった。
そんな感じで腕を組んで唸ってると、アンナさんも加わって一緒に悩んでくれた。
「贅沢を言えば、馬にも負担のかからない緩やかな傾斜がベストなんだけどね」
「そういう風に掘れなかった場合はどうしましょ?」
「坂が作れないなら土木業者に頼んで階段の段差を埋めてもらうって方法になるかしら」
「それだとお金と時間、両方かかっちゃいそうですね……」
やっぱ、斜めに掘れればそれに越したことはないね。
よし、やってみよう。またまたぶっつけ本番だけど、何事も挑戦は大事だし。
赤い印の前に立って、私は緩やかな坂道を思い浮かべる。足元の先からゆっくりと、地面が沈んでいくようなイメージだ。
「ていっ!」
頭の中の景色が完成したところで、私は地面を殴りつけた。
――ズズ、ズズ! ズザザッ!!
「お、できた!?」
まだ距離としては短いけど、緩やかなスロープが出現。そのまま坂の行き止まりまで下りて、同じ作業を繰り返す。
慣れてないせいか、普通の階段を掘る時よりも集中力が必要だった。休み休み、斜め斜めのイメージを強く持ち、私は地面を掘り下げていく。
「ふー、そろそろかな……」
試しに覗き穴を通す感じで壁に穴を開けてみると、ボコッという音とともに光が漏れて地下の本道へと貫通した。
そのまま高さを微調整。スロープを本道に繋げる。ついでに合流部分は事故防止のため見晴らしもよくしておいた。
仕上げに、スロープ部分にも照明を設置。仕事を一つ終えた私はルンルン気分で地上に戻った。
「オッケーよ。かなりゆるやかな入口になったわね」
アンナさんにチェックしてもらい、続いて道の反対側にもまったく同じ作業を行なう(こっちは出口らしい)。二回目なので最初よりも手早く終わった。
「北東門の出入口はこれで完了ね」
地上に戻ってくるとさっき掘った入口側では、職人さんらしき人たちが木材を運んでいた。これから雨対策に囲いと屋根を作るらしい。
「先に東門に移動して、こっちはこっちで作業を進めちゃいましょう」
そんな感じで何日かにわけて、時計回りに王都の壁を一周。
真北の城門付近を含めて八ヵ所。それにプラスして、本道と間道が交差する地上部分に八ヵ所。さらに、中心部の地上部分には四ヵ所。合計して二十ヵ所の出入口を作った。
掘ったスロープの数で言えば、その倍の四十本。作業は六日を要した。
ちなみに最後の中心街での作業は、人通りや交通量を考えて深夜に行なった。そのおかげで丸一日ほぼぶっ通しで明け方まで働くことになったけど、照明の設置で遅れてた分の日程をそこで取り戻すこともできた。
残りの作業としては、立て看板の設置や馬糞対策用の〝浄化土〟の敷き詰めなどが残ってる。でも、それはすでに専門の業者さんが進めてるそうだ。
なので、これで私はお役御免。なんか本来の目的を忘れてるような気もするけど、今はしばらくこの達成感に浸っていよう。
うん、私はやり遂げた!
「てか、こんなにがんばったの、生まれてはじめてだよ……」
朝日がまぶしく感じるのは、きっとそのせいに違いない。
中心街の本拠で朝焼けを眺めてウトウトしてると、アンナさんがやってきて労いの言葉をかけてくれた。
「本当に、お疲れ様。ここまで大規模な計画をこんな短期間で達成できたのは他ならぬエミカちゃんのおかげよ。運輸局の責任者として、そして王都に住む一人の市民として心からの謝意を。ありがとう、エミカちゃん」
「え? あ、いえいえ! 私もお役に立てて何よりですよ、えへへ……」
「あとは私が残って作業を見守るわ。エミカちゃんはメイドさんと一緒にお城に戻って、今日はもうゆっくり休んで頂戴。あ、そうそう、認定会議には私も推薦人として参加することになったから、そのときはまたよろしくね」
アンナさんと別れてハインケル城に戻ると、私は徹夜明けの疲れと仕事を終えた解放感からすぐに泥のように眠った。
――おねーちゃん、おきてー!
――あ、こらリリ!
――おでかけしよー!!
――起こしちゃダメだってば!!
まどろみの中、最愛の妹たちの声を聞いたような気がしたけど、私の意識はまた深い穴底へと瞬く間に落ちていった。
ごめんね、二人とも。でも、あともう少しで、家に帰れるから……。
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