36.禁魔法<Lv.3>
なんか、レベル上がってた。
五日目の作業の終わり、進捗状況をベルファストさんに伝えるついでにと、また受付でスキルチェックをしてもらったところで判明。もしかして穴を掘ることがレベルアップの条件なのかな? 推測だけど、その可能性は高そうだった。
「ごめんね、ティシャさん。ちょっとだけ公園にも寄りたいんだけど」
「はい、構いません。お供いたします」
とりあえずお城に帰る予定を変更して、能力の追加調査を行なうことに。まずは最大掘削量や、リリース時に出せる限界量が増えてないかを調べてみる。
結果、変化はなかった。
全力のモグラクローで掘れる量は『5×5×5』のままだったし、モグラリリースで一度に出せる限界量も『1×1×1』から変わらず。
横穴を掘ったついでに、地下で短縮される距離についても再調査してみたけど、こちらも変わらず四分の一のままだった。
うー、おかしいな。まるで成長してない……。
基本的な能力はそのまま。ならば技術的というか、もっと細やかな面で能力が向上してるのでは?
そう考えた私は作業初日のことを思い出し、もう一度岩を使った椅子作りに挑戦してみることにした。
「椅子、椅子……椅子よ! 出ろぉ~!!」
――ドンッ!
結果は成功。
次の瞬間、地面の上に出現したのは背もたれつきの椅子だった。
「うーん。たしかに椅子は椅子だけど、なんかまだイメージと違うなぁ……」
ただ、それは椅子と呼ぶにはあまりに簡素な作りで、リリース時のブロックをそのまま〝L字型〟に削ったような代物だった。
「ブロックの一部分を凹ましたり切り取ったり、そういう単純な加工ならできるってこと……?」
そのまま検証を続けた結果、三角形にしたり、階段状にしたり、球体にしたりと、複雑でなければ形に変化をつけてのリリースは可能だと判明した。
大きさの縛りもあるけど、簡単な家具ならこれで作り放題だ。
てか、これって鉄の塊を掘れば(爪の中に取りこめれば)、剣とか盾も作れちゃうんじゃないかな? そしたら家具屋さんだけじゃなく、武器屋さんも開けるね。
ま、きっとクオリティーの低い物ができるだろうし、それで稼ぐのは難しそうだけど。
調査の最後に、このモグラリリースの派生技を〝モグラクリエイト〟と名づけ、その日は城に戻った。
「エミカちゃん、今日から地下内に明かりを設置する予定なんだけど、ちょっと困ったことが……」
「困ったこと?」
翌日の六日目からは照明の設置作業がはじまった。
アンナさんは発注した器具を、そのまま壁や天井に取りつけるつもりだったみたいだけど、モグラの爪で掘った地下道は過言なしでダンジョンの外層と同じぐらいの強度がある。釘も杭も打ちこめないので直接の設置は不可能だった。
「完全に私のミスだわ……」
「あ、いえ、私も前もって言うべきでした」
事実、私はモグラ屋さんのときにも今回のような光源問題にぶち当たっていた。その際は壁に窪みをつけて、そこにランタンを直置きして明かりを確保する方法を取ったけど、今回については馬車同士の事故にも繋がるかもしれない重要な問題だ。もっと先回りして考えておくべきだった。
「ちなみに、どんな照明を発注したんですか?」
「普通の角形のランプよ。実物が見たいのなら中心部にいきましょうか。発注分の一部はもう運んであるわ」
地下に下りて実際に手にしてみると、鉄板とガラスを組み合わせた作りの角灯で、中心に光石を嵌めこむタイプの物だった。
試しに光石を押しこむと、温かい橙色の光が溢れて周囲を照らす。
なるほど、大量に必要な物だし構造は至ってシンプルだね。
「ん、構造……?」
鉄とガラスに、それと、光石――
「あっ」
そこで頭を過ぎったのは、昨日公園で思いついた武器を作る発想だった。もし、鉄や金なんかも掘ることができるなら、モグラの爪は鉱物全般を取りこめるって話になるはず。
ガラスも元は砂(だよね?)だし、光石の詳しい製造方法は知らないけど、光石っていうぐらいだから石のはず。
つまり、材料を考えるとこの角灯、このまま爪の中に取りこめちゃうのでは……? 道具を
「アンナさん、ちょっと試してみたいことがあります。もしかしたら一個照明ダメにしちゃうかもなんですが、いいですか?」
「ええ、最初から余分に発注してるし、一個くらい問題ないわよ」
実験の了承をもらったので、さっそく実行に移すことにする。角灯を地面に置き、そっと爪の先で触れるようなイメージで掘ってみた。
「モグラクロー……(小声)」
――ヒュン。
ふっと、足元の明かりが消えた。
とりあえず取りこむことには成功したっぽい。でも、肝心なのはここから。中央部の壁の前に移動して、今度は取りこんだ角灯をイメージする。
「モグラリリース!」
瞬間、爪の先から光が溢れた。
眩しさに目を細めながら、壁に照明が設置できたことを確認する。うん。しっかり固定化もされてるし、大丈夫っぽい。
「あ、でもこれ、魔力がなくなって明かりが切れたら……」
照明器具は固定化されてる。たぶん私以外の人間が取り外すことは不可能だ。魔術印と魔力で動く魔道具が、今後も正常に使えるかどうかまでは一切考えてなかった。
「光石の魔力が尽きたら、また真っ暗になっちゃう……」
「いえ、エミカ様。おそらくその心配はないかと」
「え?」
「この光石はすでに外部から魔力供給を受けています」
隣を向くと、ティシャさんが壁に手を当てて何やら調べてた。彼女曰く、壁に内包された魔力が角灯を通じて中の光石に流れてるらしい。
「本当だわ……!」
魔術に疎い私にはさっぱりだったけど、その話にはアンナさんも納得してる様子だった。
「微量だけど、壁の魔力の流れが照明のほうに向かっているわね」
「アルフォート様、裏づけのため一つ光石をお借りしてもよろしいですか」
「いいけど、何か方法があるの?」
要望を受けて、アンナさんが在庫の光石を持ってきて渡す。ティシャさんはそれを軽く握ると、呟くように静かに魔術を唱えた。
「……今、魔術でこの光石に内包されていた魔力をすべて吸い取りました。このとおりこれを角灯に取りつけても明かりはつきません」
ティシャさんは実演すると、その照明器具を地面に置いて続けた。
「エミカ様、これを先ほどのように壁に設置してみてください」
言われたままに光の消えた照明器具をモグラクローで取りこみ、モグラリリースで固定化する。すると、次の瞬間だった。角灯は灯った状態で現れ、周囲一面を明るく照らした。
「おー、これって!? え? すごいことなの……?」
「はい。もはや
「この地下道自体が、巨大な魔力の供給空間になってるってことだものね……。まさか、永久機関ってことはないでしょうけど。ないわよね……?」
「……」
いや、私に訊かれても。
ま、でも早い話、このままどんどん設置しちゃっていいってことだよね。
まずは手はじめに、中心部をぐるっと一周して明かりを灯してみた。広場の真ん中はブロックを縦に細長く積んで、その横面に照明を設置することで光源を確保。それだけやればもう中心部の光源は確保できた。
「よし、次は本道だ!」
「お供いたします」
「それじゃ、私は次の工程の準備を進めておくわね」
大量に角灯をモグラクローで取りこんでから、南門方面に向かう。掘削作業の時と同じように、ティシャさんが台車を押してくれたので移動は楽ちんだった。
「モグラリリース!」
約十フィーメル間隔で取りこんだ角灯を壁に固定化していく。まずは進行方向の右側だけ。その帰りには反対側の壁にも取りつけていく。
「ぐぬぅ……」
やってみてわかったけど、思った以上に手間のかかる作業だった。
取りこんだ分を使い切ってしまって本道の途中で引き返さないといけなかったり、まれに不良品が混ざっていたりと、トラブルも多くて掘削作業よりも時間がかかってしまった。
「ぐあー! やっと終わったぁ~~!!」
結局、計画から少し遅れ、すべての明かりを灯すまでに八日を費やした。
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