35.王都の地下に潜るモグラ娘

 王都を囲む楕円型の巨大な壁には、等間隔に門が設置されてる。

 時計回りに『北東門・東門・南東門・南門・南西門・西門・北西門』の合計七ヵ所だ。真北に当たる部分にはハインケル城があって北門は存在しない。ちなみに、一昨日に私が通ったのは南西門になる。


「それぞれの門から伸びる道は中心部で交わって、王都の流通を支える本道となっているわ。王都の中心街から見れば、外側に向かって四方八方に道が伸びている形ね」


 アンナさんの建設計画は、地上と同じように、まずはそんな放射状の本道を造るところからはじめるらしい。


「中心街に行政機関が持て余している土地があったから、そこを地上の拠点として確保しといたわ」


 というわけで、中心街の空き地から十五フィーメルほど地下に下りて、私は王都のド真ん中に向かって横穴を掘り進めた。


「うん、位置もぴったりね。この場所を本道が交差する地下の中心にしましょう。エミカちゃん、少し周囲を広げて見晴らしを良くしてくれる?」


 地下に本道を掘る前に、交通網の中心部を広場にしておくことになった。

 モグラクロー(強)で掘り進めて、横幅と奥行き、それぞれ二十五フィーメルほどの空間を造り上げる。一番交通量が多くなる場所なので、もうちょっと広げる必要はあるかもだけど、その辺りの調整は後回し。


「それじゃ、さっそく本道を掘り進めていきましょう。まずは南門方面に向かって一直線にお願いね」

「アンナさん、道幅と高さはどのぐらいにすればいいですか?」

「んー、そうね。高さはこの中心部と同じでいいけど、道幅は最低でもここの一辺の三分の一はほしいわね。それだけあれば大型馬車が二台すれ違っても問題は起こらないでしょうし」


 この広場の三分の一となると、八フィーメルぐらいか。『5×5×5』のモグラクロー(強)で掘り進めるつもりだったけど、それだと横幅が足りないね。

 それなら、行きと帰りで二列にして掘ればいいかな? いや、でもそれだと、面倒だし時間もかかっちゃうか。


「うーん……」


 悩んだ末、ぶっつけ本番で試すことにした。

 掘る横幅のイメージを少し大きくした上で、私はモグラクロー(強)を放つ。

 ――ボッゴオオオォォン!!

 結果は、あっさりと成功。

 横幅八フィーメル、高さは従来のまま五フィーメルという狙いどおりの穴が掘れた。

 それでも、通常のモグラクロー百二十五発分という掘削能力が上がったわけではないらしい。その証拠に、穴の奥行きは従来の五フィーメルから約三フィーメルほどまでに目減りしてた。

 ふむふむ。

 どうやら一度に掘れる量の限界を増やすには、禁魔法ドグラ・モグラのレベルを今以上に上げないとダメっぽい。

 でもこれって、『1×1×125』みたいなヘンテコな横穴もイメージ次第では掘れちゃうってことかな……? ま、そんな極端な穴を掘る機会はこの先ないだろうけど。


「モグラクロー!!」


 また一つモグラの爪の能力に詳しくなったところで、本格的に本道を掘り進める作業に移る。


 ①穴のイメージを固める。

 ②モグラクロー(強)を放つ。

 ③掘った穴の中を進んで壁の前へ。


 たまに地図スコープを覗いて方向に狂いがないかを確認する。それ以外は上記単純作業を延々と繰り返していく。

 そして、モグラクロー(強)を数百発ほど打ったところでだった。私たちは最初の目標地点である南門付近に到達した。


「よし、到着!」

「すごいわ、エミカちゃん! まさか二、三アワ程度で掘ってしまうなんて……」


 どうやら、アンナさんはもっと時間がかかると予想してたみたい。彼女は水晶でできた板(私の地図スコープと同じような魔道具らしい)を、信じられないといった表情で見ていた。


「次はどうすればいいですか?」

「一旦、地上に戻りましょうか。そろそろお昼だし、お腹も減ったわよね」


 掘ってきた横穴を通って空き地に戻ると、運輸局の職員さんたちが拠点にテントを張っていた。完成する前に第三者が勝手に立ち入らないよう、これから見張りをしてくれるらしい。どうやら私の知らないところでも着々と計画が進んでるみたいだ。

 お昼ごはんは、串焼きとお芋が入ったスープを中心街の屋台で買って食べることになった。ちなみにお代は全部アンナさん持ち。気前よくおごってくれた。


「立ったまま食べるしかないわね」


 屋台で購入した食べ物を持って空き地に戻ってくると、落ち着ける場所がないことに気づいた。


「あ、それなら……」


 ふと閃いた私は、片手を空けながら先ほど地下で掘削した岩盤をイメージ。

 すると、次の瞬間だった。ブロック状の四角い岩が地面にどっかりと出現した。


「できた! アンナさん、ここに座って食べましょう!」


 これが土なら崩れてしまうけど、予想どおり物質自体に強度があれば固定化できなくてもブロックの形は保つみたいだ。


「穴を掘る以外にも色々できるなんて便利ね」

「でも、掘るときみたいに、出すときは形や大きさを自由に変えられないんですよね。ほんとなら背もたれとかつけて、もっと椅子っぽい感じにして出せればもっと……」


 私のイメージが貧困なせいか、それともレベルの問題なのかは不明。この点は今度も調査が必要になりそうだ。


「さて、午後の作業に入りましょうか」


 岩のブロックに腰かけて屋台の昼ごはんを堪能したあと、私は地下に戻って掘削を続けた。結果、真北の本道をハインケル城の地下手前まで伸ばして、初日の作業は終了となった。


「本日からは私もお手伝いさせていただきます」


 二日目の朝からはティシャさんがサポートについてくれたので、お昼ごはんの心配をする必要はなくなった。


「今日は、東門と西門までの本道をお願いね」


 アンナさんはそれだけ指示すると、中心部の広場に運びこんだ机で書類仕事をはじめた。本道が完成するまでのあいだに雑事を終わらせておきたいのだそうだ。なので、二日目以降はティシャさんと二人での作業になった。


「よし、東門の本道はこれで完成!」

「お疲れ様です、エミカ様」

「いやー、距離が短縮されても、やっぱ王都は広いなぁ……」


 ティシャさんに回復魔術をかけてもらいながら、ちょっぴり泣き言を口にする。王都の形が横に長い楕円なので、東西の距離が長く、昨日よりも明らかに作業量が増していた。

 モグラモドキブーツのおかげで負担が軽減されてるとはいえ、さすがに二日連続で歩きっぱなしはつらかった。


「それなら私にいい考えがございます」


 そう言うと、ティシャさんは地上から車輪のついた手押し車を運んできた。


「さあ、どうぞ」

「ふぇ?」

「お運びいたします」


 どうやら「乗れ」という意味らしい。

 台車に乗ると、一切歩かずに作業を進めることができて思った以上に楽ちんだった。


「でも、これティシャさんがきつくないですか?」

「ご心配なく、体力には自信がありますので。さ、エミカ様、次の本道建設へ参りましょう」


 猛スピードでティシャさんが台車を押してくれたおかげで、二日目は東門と西門にプラスして、北東門側の本道も掘ることができた。

 その調子で三日目には残りの南東門・南西門・北西門の掘削を終える。

 これで【北⇔南】【東⇔西】【北東⇔南西】【北西⇔南東】の四路線から成る本道が完成し、それぞれが中心部で交差する形となった。


「それじゃ、今日からはを掘っていきましょう」


 四日目の朝。アンナさんの指示の下、最初に掘った『南門本道の中間地点』までやってきた。


「ここから『南西本道の中間地点』を目指して掘り進めて。南西本道に繋がったら、その次は『西門本道の中間地点』を目指していくわよ」


 要約すると、隣り合った本道の真ん中同士を結んで、ぐるっと一周するように掘ればいいみたい。地図上から見れば、王都の壁と中心街の狭間に八角形を描きながら進む感じかな。

 間道を掘るのは本道を掘るよりも簡単だった。


「よっし、ぐるっと開通ー!」

「やりましたね、エミカ様」


 特にトラブルもなく、間道の掘削は四~五日目の二日間をかけて完了した。

 これで王都地下交通網の大本が完成。あとは照明の設置や出入口の確保など、細かい工程を残すだけとなった。

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