王都編
28.三姉妹王都に着く
「ご覧下さい、御三方。王都が見えてきましたよ」
「うわぁ、でっか~い!」
「あ、ほんとだ。すごいね、あんな大きな壁どうやって作ったのかな?」
「……」
街道を走る馬車の中、王立騎士団のラッセル団長が指差す車窓の先には、王都を囲む巨大な壁があった。
それを見て感嘆の声をあげる我が最愛の妹たち。
アリスバレーから出発して三度目の朝だった。
もう王都は目と鼻の先にまで迫っていた。
「………………」
ドウシテコウナッタ?
いや、そんなん決まってる。なんもかんもサリエルが悪い。あののほほん天使が黒鎧の巨人をお花畑に変えたせいでこんなことに……。
でも、あの場に私がいたってなんでバレたんだろ?
『ダンジョンを攻略すれば
その謎の答えはアラクネ会長が教えてくれた。なんでもダンジョンの最終階層にいるボスが倒されると、王都にある〝観測室〟って場所に知らせがいくようになってるとか。倒したのが冒険者であれば、その名前まではっきりわかる上、その通知は絶対的で決して間違いがないんだそうだ。
『でも私、ラスボスなんて倒してませんよ!?』
全力で否定したけど、サリエルのことを正直に白状するわけにもいかず、ただ知らぬ存ぜぬの姿勢を貫くしかなかった。
結局、「政にも関わることなので王都にきてもらわないと困ります」というラッセル団長の言い分と、「とりあえず観光のつもりでぱぱっと行ってきたら?」というアラクネ会長の適当な落とし所のせいで、私はその日のうちにアリスバレーを出発するハメになった。
それでも、妹二人をこっちに残したまま王都にはいけない。なので姉妹三人での出立を条件にさせてもらい今に至るというわけ。
以上、回想終了。
うん、なんだろうね。
なんか連鎖的に物事がどんどんややこしくなっちゃってる気がするよ。てか、完全に流される感じで王都にきちゃったけど、ほんとに大丈夫なのかな、これ?
なんでも
「おねーちゃん、おねーちゃん! おそとすごいよー!!」
「あ、うん……そーだねぇ……」
とにかく王都に着いたら間違いをきっちり主張して誤解を解かなきゃだった。
ま、いくらなんでも私を見れば、「こんなミニゴブリンも倒せなさそうな小娘に最終階層のボスが倒せるわけないだろ!」ってな感じで、王都の偉い人たちもすぐに間違いに気づくはずだ。
「………………」
気づくよね?
気づいてもらわないと、困るよ?
「エミ姉、大丈夫? なんかさっきから顔色悪いけど……」
「だ、大丈夫! ちょっと馬車に酔っただけだから!」
「なんと、それはいけませんな。まもなく王都の外壁に到着しますので、あともうしばしの辛抱を」
ラッセル団長が言ったとおり、それから少しして馬車は門の前に着いた。さすがは王立騎士団の馬車群だけあって、優先的に門兵さんのチェックを受ける。そのままほぼ待ち時間なく入場が許され、馬車はついに王都に入った。
ラッセル団長の話では、このまま王都の最北に位置するハインケル城に向かうようだ。そんでもって滞在期間中は城内の貴賓室に宿泊していいらしい。
すごい待遇だ。
やっぱ『ダンジョン攻略者』=『英雄』なんだね。
うん、ますます気分が重くなってきた……。
「おねーちゃん! おねーちゃん!!」
「ん?」
ちょうど王都の中心街に差しかかったところだった。何やら興奮気味にリリが車窓の外を指差している。
見ると、その先には動く大きな鉄の塊。馬車の倍はあるであろう大きな物体が街の中を走っていた。
「おおっ、初めて見た! リリ、あれは魔力列車だ!」
「まりょくれっしゃー!?」
王都の一部ではレールが敷かれ、魔力で動く鉄の車両が走ってるというのは有名な話だった。見た感じ馬車に毛が生えた程度のスピードしか出てないけど、やっぱ街の中をあれだけ大きな物が動いてるとすごい目を引かれるね。
でも、なんでだろ。想像してたのとは少し違うような気も。
「うーん……」
たぶんそれは魔力列車自体がというよりは、景観のほうに原因があるんだと思う。
王都ってもっと華やかで美しい場所だと勝手に想像を膨らましてたけど、馬車がとんでもない台数走って混雑してる上、道幅も狭くて入り組んでるし、なんかさっきからずっとごちゃごちゃした景色が延々と続いてる。これなら規模は半分のさらに半分以下ぐらいだけど、アリスバレーの街並みのほうが断然に綺麗だった。
ま、都会に夢や理想を見るもんじゃないんだろうね、きっと。
「もうじきハインケル城に到着いたします」
中心街を抜けると、やがて私たちを乗せた馬車は目的地へ到着した。
城というぐらいだから絵本に出てくるようなお姫様のお城を想像してたけど、そこは見た感じ敵の侵入を阻む重厚な砦って印象だった。
「これから先は別の者が御三方をご案内いたします故、我々は一度失礼させて頂きます」
ラッセル団長ら騎士団一行は、これから馬車を停めにいくらしい。しばらく休憩を挟んだあとで再度合流することを約束し、団長たちとは城門を入った先で別れた。
「本日より皆様のお世話をさせて頂くティシャーナと申します」
城内に入ると、メイド服を着こんだ黒髪の若い女性が私たちを出迎えてくれた。
「どうか気軽にティシャとお呼び下さい」
「わぁ、ひらひらー!」
レースのついたメイド服が気に入ったのか、いきなりティシャさんの周りをぐるぐる回ってはしゃぐ我が家の三女だった。
コロナさんとかサリエルとか、あと今回の旅で騎士団の人たちとか、色んな人と交流できて人見知りがほぼ直りかけてるのはいいことだけど、テンションがだいぶ上がっちゃってるみたい。ここはちょっと注意しておいたほうがよさそうだね。
「こらこら、ティシャさん困ってるでしょ。静かにしなさい」
「えー!」
「えー、じゃないでしょー?」
「いえ、エミカ様。私は構いませんので」
ティシャさんはその場で優しくほほ笑むと、リリの頭を撫でたあとで私たちを貴賓室まで案内してくれた。
「必要な物があればなんでもすぐにご用意いたします。なんなりとお申しつけ下さい」
「ひっっろ~~~い!」
「うわぁ、この部屋だけでウチよりも広いね」
「だ、だねぇ……」
通された場所は姉妹三人だけで使うには大きすぎる部屋だった。たぶん我が家の三倍以上の面積はあるっぽい。
ある意味覚悟はしてたけど、やっぱとんでもない待遇だよ、これ……。
「ねえ、エミ姉。今日はこれからどうするの?」
「んーっと、私は今日中に王都のギルド会長と会わないとだから、シホルとリリはゆっくり王都観光でもしておいで。騎士団の人たちも外出するなら護衛してくれるってさっき言ってたし」
「でも、エミ姉は仕事なのに、私たちだけ遊んでるのは……」
「せっかくの王都だし、私のことは気にせず楽しんできなよ。でもその代わり、今日はリリのことお願いね」
「エミ姉……うんっ、わかった」
それからティシャさんが淹れてくれた紅茶を飲んで小休止したあと、私は約束どおり部屋を訪ねてきたラッセル団長と合流して王都の冒険者ギルドに向かった。
「ギルドは城から南東側にあります。そこまで距離はありませんのでこのまま向かいましょう。道が混雑していますと馬車のほうが時間がかかる場合もありますので」
というわけで徒歩での移動になった。街中を歩いてる最中、「コロナさんとばったり会ったりしないかな?」なんて思ったりしたけど、さすがにそんな都合のいい偶然はこの広い王都では起こらなかった。
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