プロローグのエピローグ
突然だけど、しあわせってなんだろ?
お金持ちになって、豪邸に住んで毎日おなかいっぱい美味しい物を食べること? それとも、すごいことを成し遂げてみんなからちやほやされること?
んー。それも悪くないけど、私はね、一番のしあわせって帰る場所があることだと思う。
だって、それだけで辛いことや悲しいことがあっても耐えられるし、嬉しいことや楽しいことは家族とわかち合えば何倍にもふくらませられる。
だから、それを最初から持ってた私は生まれながらのしあわせ者だって話。
ただ、それに気づけたはごく最近のような気もするけど。
「そんなの昔からわかってたはずなんだけどなぁ……」
なんて、街外れにある我が家の小さくも偉大な扉の前で一人呟きながら、私は目の前のノブに手を伸ばす。
――ガチャ。
「ただいまー」
「あ、おねーちゃん!!」
背後は一切振り返らず急いで後ろ手で扉を閉めると、居間でお絵かきをしてたリリがいつもどおり私に飛びついてきた。熱烈な歓迎を受け入れ、下の妹を宙ぶらりんに抱っこしたままノシノシと室内を進む。
「エミ姉、おかえり」
リリのはしゃぐ声で気づいたシホルもすぐに台所から居間のほうにやってきて、私を迎え入れてくれた。
「今日は早いんだね」
「あ、うん。ちょっと、いろいろあって」
さて、なんと説明したらいいものか。もう無茶はしないって約束した手前、話を切り出し難いってレベルじゃなかった。
てか、正直に話したら怒るかなシホル?
やだなー、怒ると怖いんだよなぁ、シホル……。
「ごはんまでまだ時間あるけど、おなかは?」
「いや、今はちょっとそれどころじゃないというか」
「え?」
「あ、いや……んじゃ、のど渇いたからなんか飲み物もらえる?」
「わかった。お茶淹れるね」
「リリもてつだうー!」
くっついてた私の身体からぱっと飛び下り、リリもシホルの後をついて台所へとダッシュしていく。
そんな姉妹の背中を見送りつつ、私は玄関側にこっそりと視線を戻した。
「………………」
その扉と壁に挟まれた向こう側では、現在進行形で重厚な鎧を身にまとった兵士一団がズラリと姿勢正しく整列中。まず家族にきっちり説明させてほしいという私の意向を汲んでもらった結果、王立騎士団の皆さんには静かに待機してもらっている状態だった。
「おまたせ」
「おまたせー!」
温かい紅茶はすぐに運ばれてきた。
「ありがとう」
まずは一口飲んで香りを楽しみつつ、小休止。
うん、美味しいね。
やっぱ最愛の妹たちが淹れてくれるお茶は最高だ。
問題を先送りにするタイプらしく、とりあえず今はこのささやかなしあわせを噛み締めていよう。待たせちゃってる王立騎士団の皆さんには悪いけど、私は完全にゆるみ切った顔で「ぷはぁ~」と心穏やかに息を吐いた。
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