第30話 金儲け自体は合法
是田は話し続ける。
「ま、話の筋が違うかもな。
紀伊国屋文左衛門のように儲けて、それを公共事業に使って、そのまま帰ってくるなら何も問題ないって……、つまり、そういうことじゃねぇか!」
「時間を越えない、そこがミソですね。
まして今回、僕たちは
僕、目からうろこってヤツを実感しているよ。
時間を跳んで、行った先で手に入れた金銭は、なにか不浄なもののように考えていた。得てはならないものって、強固な思い込みがあったんだ。
これには理由もある。
跳んだ先で得た金銭は、結果的に自分が使うものになってしまう。だって、僕たちにとって時間跳躍は業務で行くのだし、申請者が余計なことをしていないか見届けに行くわけだ。
なのに、そこで稼ぎに頑張りだしたら、職務専念義務違反どころの騒ぎじゃない。
ましてや、時間貿易がダメだからって、それを使って豪遊して使い果たすなんて論外だ。かと言って寄付の先となる組織もないし、どこかの組織に押し付けるにしても、無断申請で歴史を変えるのに等しい。
でも考えてみたら、今回は例外的にこの辺りすべてクリアになっているじゃねーか。
だいたい昨日、お握り売ったのもすでにこの一環だし。儲けが出て当然の商売したんだもんな。
お握りはまだ食品加工という手間が掛かった。でも、たとえば実際にミカンだったら?
それこそこれは、省力化した上でボロ儲けだ。「はずれ屋」の営業はそのままに、売り子だけ数人用意すればいい。そしてミカンと限らず、日替わりで日本各地の産物を空間転移で運べばいい。
それこそ紀伊国屋文左衛門のミカンの話が後世の作り話だけど、僕たちがそれを規模を拡大した上で実行したっていいんだ。
ただ、まぁ、あまり派手にならない品目がいいのはわかりきっていることだけど。それこそ後世で、「あれは『はずれ屋』のミカン船」なんて謳われちゃ問題だからね。
係長にしても、沢井氏(仮)にしても、逆に「なんで是田と雄世は気が付かないんだろう?」って思っていたかもしれない。
でも、それをひょいひょい行えちゃう職員が部下だったら、係長、アンタ、二度と枕を高くして寝られませんぜ。
ともかくこれで、資金繰り問題はマジにクリアじゃないかな。
しかも時間も掛からない。
仕入れは1時間で済む。まぁ、問題があるとすれば、
あとの時間は、今までどおりに「はずれ屋」店主として振る舞えばいい。これが案外重要だと僕は思っている。身元がはっきりしているからこそ、信用に繋がる。土木工事の発起人の役割もできる。
無宿人に自分から堕ちることはないんだ。
それだって、儲けはものすごいだろう。
あの長屋の佳苗ちゃんの6畳一間に、千両箱が積み上げられるさまを想像すると、こう、なんというか、ほら、ほら……。
「雄世、俺と同じこと考えているだろ?」
「はい、濡れ手に粟」
僕の顔、嬉しさを隠そうとして、変なふうに歪んでいるに違いない。
うん、目の前の是田の顔がそうだから、間違いない。
あー、往来を歩いているんでなかったら、「いひひひひ」とか「うひょひょひょ」とか思いっきり笑いたい。
余剰金ができたら、江戸でできる贅沢はし尽くすぞ。
「ところで、
是田のこの変になった顔のままの問いは、質問と言うより、議題の確認だろう。
なんと言ったって、是田と僕は同じだけの知識がある。すでに具体的方法だって、いくつかは頭の中に浮かんでいるはずだ。
「川底のトンネルがいいかもしれませんね。
水底からそう深くないところであれば、鉄パイプの埋め込み設置もできるんじゃないでしょうか。
これなら、水道橋と違って、水を持ち上げる必要もありません」
「隅田川の浚渫の歴史は?」
と、是田が重ねて聞いてくる。
僕、この質問を予期していた。
鉄パイプを川底に這わせて水を運ぶ場合、川底が侵食していってしまったら鉄パイプは川の流れの中にむき出しになって、最後には押し流されてしまう。
でも、川底に泥や砂が溜まっていく場所だったら深く深く埋められていって、より安全ということになる。
僕はまた、端末の画面を指で叩く。
「なるほど、です。
明治の中頃に、土砂が隅田川の川底にたまりすぎて船が通れなくなったそうです。なので、隅田川の河口を浚渫して、その土砂で造られたのが月島みたいですよ」
「じゃ、水道管を川底に埋設しても安全だな」
「はい。
後世から見ても、当時の技術力はという話になりにくいです。当時は水深が浅くて、作業が楽だったって取ってもらえますからね。
ただ、問題は『察知回避義務』です。
どう内緒で済ませるかは、別問題ですからね」
僕、そう言って笑ったんだ。
金がある余裕っていいなぁ。
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