第69話 復命書



         復命書



               2088年10月6日



時間整備局時間整備部時間整備課時間改善四係

            補佐兼係長 芥子 花蘭  印

               主任 是田 芽太  印

               主事 雄世 比古志 印



1. 徳川綱吉暗殺計画に対する時間管理部との共同確認について

2. 時間跳躍日  2088年10月5日

3. 帰還日    2088年10月6日

4. 確認の実行時 1686年10月25日(貞享3年9月9日)

5. 報告内容

 ①本出張に至る経緯

 かねてからの報告済みの懸案課題である、生宝真正氏の「時間改変申請書」が提出された。

 時間改善四係係員、是田主任、雄世主事両名による書類確認及び面接がなされたが、それでも生宝氏の行為を止めることはできなかったため、本出張が必要となった。


 ②背景

 生宝氏はかねてから吉良上野介に対する個人的思い入れが強く、赤穂事件への介入を望んでいた。

 しかしその一方で、赤穂事件は後世への影響が大きいことから、人道的時間改変の許可に至ることが難しい事件でもある。

 そのために、生宝氏はこのような挙に及んだものと思われる。

 ただし、動機の詳細については現在警察にて取調べ中であり、これ以上の憶測を記すのは控えたい。詳細判明後、別途報告を行う。


 ③渡時後の詳細

 目的時に到着の後、芥子補佐兼係長と時間管理部による密接な連携のもと、生宝真正氏の観察を続けた。

 是田主任、雄世主事両名は、生宝氏と共に渡時した2人の同行者の観察を担当した。しかし、その観察が逆に察知されたために、その2人は是田主任、雄世主事両名を牽制しようとし、生宝氏から独立した行動をとった。

 時間管理部の協力で、この2人の行動は未遂に終わり、是田主任、雄世主事両名に危害が及ぶことはなかった。

 この件については、一方的な牽制に対処しただけであり、過剰な対応もないことから、法的に問題はないということは、時間管理部および警察と協議済み。

 結果として、補助の2人を失った生宝氏は、江戸城大奥に閉じ込められる結果となり、当初の目的を果たし得ず、結果的に自らの時間跳躍機で本来の時間に戻ることとなった。


 ④結果

 将軍徳川綱吉の身に危険は及ばず、時系列に変更は生じなかった。


6. 所感

 特になし。


7. 添付資料、他

 資金前渡による10両相当の一分金については、総務に返却済み。





 僕、係長の顔を見上げる。

 この復命書、なに一つ嘘は書いていない。

 無味乾燥に、僕たちの出張で綱吉の身が守れたことのみが簡潔に書かれている。

 てか、簡潔すぎて、実態をなにも反映していないじゃんかっ!?

 これでいいんかよっ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る