第11話 美少女と女子会
「明日お休みだねー」
ひかるに励まされてからしばらくして、私もひかるも何食わぬ顔で後片付けの手伝いに戻ってきていた。
今日は文化祭後日の文化祭片付け日。明日は文化祭の振り替え休日だ。
「みんな何するの?」
ゆずと渚に興味本意で聞いてみる。
「はいはーい。私心春ちゃんの家に行ってみたい!」
「ええっ?」
そんな突然に……
「あっ、分かる。私も行きたい」
「ちょっ、渚まで?」
「ねっ、いいでしょ? おねがーい」
ゆずが私のことを上目遣いで見てきた。それはずるいと思う。
「うぅ……うぅ……」
こんな目で見られたら断れるはずがない。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでオーケーしちゃったのね?」
「だって仕方ないじゃん! あんな可愛い上目遣いを使って頼まれたら誰だって断れないよ!」
心春もたまに無意識なんだろうけどやってるよ、上目遣い。それに何度俺が死にかけたことか……
「それで俺はどうすれば?」
「出来れば家にいないで欲しい」
「おいおい、いきなり随分なお願いだなぁ?」
「おねがいします!」
「いや、そんな頭下げるなくても。別に大丈夫だからさ」
俺はスマホを取り出し、メッセージを入力する。
「凌平と颯心誘ってどこか遊びにでも行くよ」
「ありがとう、助かる」
※ ※ ※ ※ ※ ※
「おっ邪魔しまーす!」
「お邪魔しまーす」
「ど、どうぞ」
学校の友達が私の家にいるのはなんだか不思議な気分だ。日常とは違う感覚がする。非日常感だ。そしてそれと同時にものすごい緊張感を抱いていた。
「心春なんか緊張してる?」
「友達呼ぶのは初めてだから……」
正確にはひかるが来たことがあるけど、その事はもちろん秘密。
「心春ちゃんの初めてもらっちゃったー!」
「その言い方止めて」
私はゆずと渚を自分の部屋に案内した。
「とりあえず飲み物とお菓子持ってくるから適当に座ってて」
下の階に下りて、三人分のコップとジュースのボトル、お菓子をトレイに載せてゆっくりと階段を上って、部屋に戻る。
ん!?
部屋に戻ってみると、ゆずと渚が部屋の中を何やら漁っていた。
「ちょっと二人とも何してるの!?」
「エロ本をどこに隠してんのかなって」
「そんなもの持ってないよ! それ男子がよくやってるやつでしょ!」
私物を見られたくないという恥ずかしさ以上に、部屋を漁られればひかると繋がる物証が出てきてしまうかもしれないという焦りがあった。
「というのは冗談で中学校の頃の卒アルを探してます。ここかなー」
「ちょっと勝手に開けないでよね」
卒アルはまずい……私とひかるは小学校も中学校も同じだ。当然卒業アルバムにはひかるだっている。それが見つかればどうしてその話をしてくれなかったのかという話になる。嫌いと言ってる相手なら尚更だ。
「絶対中学校の頃の心春も可愛いよね」
「だね……ここで一目拝んでおかなくては」
「ちょっと、二人とも!!」
私の注意に一向に耳を傾けてくれない二人。
「あった、あった!!」
ゆずがアルバムを手にした。
もうアルバムを見られることは諦めよう。ひかるが見つかりさえしなきゃいい。ひかると私は写真を撮られたとき違うクラスだった。だから同じページにはいないはずだ。大丈夫。
「どれどれ」
渚がアルバムを覗き込んで、ゆずがページをパラパラとめくる。
「いた! いた!」
「ホントだ」
「ええー、これが中学校の頃の心春ちゃん!? やっぱり可愛いなー」
中学校の頃の自分の写真を見られるのって思ったより恥ずかしい。
「誰か心春と同じ中学校でうちの高校に進学した人いないの?」
渚の質問に、誰か知っている人いないかなという具合にゆずがページをめくって他のクラス写真を見始める。
「い、いないよ!」
「一人も? 珍しいね」
正確には一人だけいる。ひかるだ。
「もうこれはおしまい」
ゆずがひかるの写真を見つけるのも時間の問題なので、ゆずの手から強制的にアルバムを奪い取る。
「あぁ~」
ゆずがオモチャを取られた子供みたいな声を上げた。
「ちょいちょい、なぎちゃん! 見て見て、この写真!! 小学生の頃の心春ちゃんだよ」
私が卒業アルバムを片付けている間に、ゆずがまた別の写真を引っ張り出していた。
「わぁ、可愛い」
ってちょっと待って! その写真は……
「あれ、このとなりに写ってる男の子は誰?」
その写真には、私と、そのとなりでピースをしている少年が写っていた。
「し、親戚の子だよ」
それは間違いなく小学生の頃のひかるの姿だ。
「この子どこかで見たことがあるような……」
「そんなわけないでしょ!!」
私は急いでその写真を引ったくった。これ以上は危ない、本当にバレちゃう。
「もしかして今の子って、心春の初恋の子?」
渚の突然の問いかけに少し動揺してしまう。
初恋……?
恋っていうのがどういう気持ちなのか、まだはっきりと分かってはいない。けど、もしこの気持ちを恋と呼ぶなら、初めてこの気持ちを抱いたのは間違いなく…………
自分の顔がカアァァと赤くなっていくのを感じた。
「心春ちゃん、初恋なんだね!?」
ブンブンと必死に首を横に振るけれど、自分の顔の熱さからその否定が全く意味をなしていないことに気づいていた。
「え~、心春ちゃん可愛い! 心春ちゃんから恋の話が聞けるなんてレアだよっ!」
「確かに心春から初恋の話が聞けるなんて思わなかった」
「……黙秘します!」
二人が興奮し始める一方で、私はどんどん恥ずかしくなっていった。
「分かった、その話はもういいよ。でも良い機会だし、ずっと聞きたかったことを聞かせていただきます」
ゆずが一息を置いた。
どんな質問が来るのだろうかと、少しだけ身構えた。
「心春ちゃんはクラスに好きな男子とかいないの!?」
ゆずはぐいっと体を寄せて聞いてきた。
「い、いないよー」
「おっと今の反応少し怪しいなぁー」
「怪しいねぇー」
ニヤニヤするゆずに渚まで同調して私の顔を覗き込んでくる。
「本当だよ! そういうゆずは?」
「私は今のところいないかなー」
「気になる人も?」
「えぇー、そんなことあんまり考えたことないから……」
後夜祭のとき、ゆずは上原くんと良い感じだと思ったんだけど、違うのかな?
まあ私がひかるのこと好きだってことを言わないのと同じように、言わないだけかもしれないし……
「上原のことは?」
渚、すごい直球に聞くんだね!
「上原? いや、ないない、ないって」
笑って頭と手をどちらも横に振るゆず。
「少しも気になってないの? ちょっとも?」
「ホントにちょっとも?」
私と渚はゆずの顔に顔を詰め寄らせた。
「あ、あはは、ないよ……」
あっ、今目そらした!! ゆずが頬をほんのり紅色に染めて目をそらしました!
なんだかんだ上原くんからもらった髪飾り気に入ってるみたいで、今日もつけてきてるし。
やっぱり少なからず意識しちゃってるのかなぁ?
からかう側に回ったからか、いつものゆずみたいにニヤァと頬が崩れた。
「もう私の話はいいからなぎちゃんは?」
少し頬を赤らめたゆずが早口で無理やり話題をそらした。
「私に関しては本当にないなー……うん、出会いがない」
「気になってる人も?」
「いないね」
「はいはーい! じゃあどんな人がタイプですか?」
「そりゃ頼りになる人でしょ。決断力があるような。よわっちぃー奴じゃなくてね。優柔不断なのだけは勘弁」
渚はそう言って手を横に振った。
「それじゃあゆずは?」
「ええ!? 私も言うの?」
「当たり前でしょ、私だけなんてずるい」
「一緒にいて楽しいことかなあ……行列にも一緒に並んでいたいって思える人?」
「その人とどんなことしたいの?」
「それ……言わなきゃダメ?」
「ダメ!」
「別に大したこととかは……休みの日にどっちかの家で、冗談混じりに膝枕してもらいながら一緒にテレビ見たり、ゲームしたりするとかで幸せかも……」
「なるほど、なるほど。それで膝枕をしている間に、上から顔を近づけてきて、不意打ちのキスをされてそのままベットに連れ込まれると?」
「なぎちゃん、勝手に付け加えんなっ!」
「ほほぅー! これはこれは随分とたくましい想像力ですねぇ!」
ふ、不意打ちのキス……
渚の言葉にゆずは顔を手で覆い尽くした。でも隠しきれなかった耳の赤さから手の下の顔も赤く染まっているんだろなってことは容易に分かった。
何だかこっちまで恥ずかしくなってきた。
「なんで言ってもないのにこんな恥ずかしい思いをしなくちゃいけないの……もう! 次心春ちゃん!!」
「えっ!? 私も!?」
「当たり前でしょ?」
渚とゆずが興味津々に顔を近づけた。私の好きな人を探ろうとしているのが見え見えだ。
「好きなタイプは?」
好きなタイプ……好きなタイプなんて今まで一度も考えたこともなかったなあ……でも強いて言うなら……
「私は自分のことを大事にしてくれる人……」
「まあ、心春が恋人だったらどの男も絶対大事にしてくれるでしょ」
私の好きな人を探る参考にならなかったからか、渚は冷めた口調で言った。
「心春ちゃんは好きな人とどんなことをしたいの?」
「えっ、それも?」
「当たり前だよっ! 私だけ恥かくのは不平等!」
「……ギュッってして、大好きって言ってほしいです……」
「わあ、エッチだなぁ、心春」
「え、エッチ!?」
渚のせいで体温がまた上がってくる。
ピンポーン。
「私ちょっと行かなきゃ」
「はいはい、行ってらっしゃい」
私は逃げるようにして部屋から飛び出した。助かった……深く追求されなくて……
どうやらまだ少し顔は熱いようだ。頬の熱さを確かめながら、私は急いで階段をかけ下りて、玄関の扉を開けた。
「あれ、花恋ちゃん!?」
その先にいたのは花恋ちゃんだった。
「こんにちは、心春ちゃん」
「今日はどうしたの?」
「お母さんからこれ渡せって」
渡された紙袋の中身を見てみるとそこには少し高そうなお菓子が入っていた。
「どうしたの、これ?」
「お洋服くれたお礼で渡してこいって」
「別にいいのに……」
「いやいや、心春ちゃんのお洋服は可愛いし、おしゃれだしですごく助かってるんだ! ありがとうね、心春ちゃん!」
花恋ちゃんは笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫、心春?」
私が戻ってくるのが遅いからか、心配した渚とゆずが階段から下りてきた。
「あれ、心春どうしたの、この子?」
「隣の家に住んでる花恋ちゃんだよ。幼馴染なんだ」
「えぇー、可愛いー」
「どうも、花恋です」
花恋ちゃんは私の意図を察したのか、自分の名字を名乗らなかった。それに私は心のなかで感謝していた。名字を言えば、ひかるの妹だってことがバレてしまうから。
「幼馴染とかって本当にいるんだね」
「いますよ。ほらこうしてここに」
「それでどうして来てたのっ?」
どうやらゆずは花恋ちゃんに興味津々な様子。
「心春ちゃんのお洋服もらったんで、そのお礼に来たんです!」
「私のお古だからそんなに感謝されるようなことじゃないよ」
「いやいや、今まで何度可愛くもない男用のお下がりをもらったことか……心春ちゃんのはとてもおしゃれだから大好きなんですよっ!」
「へぇ~、何だか姉妹みたいだねっ、二人とも! いいなぁー、私も妹欲しいなぁ……」
ゆずは羨ましそうな顔で私たちを眺めていた。
「じゃあ、私はそろそろ」
「じゃあね、花恋ちゃん」
※ ※ ※ ※ ※ ※
「ただいま」
「ちょ、お前。何してんだよ?」
「何って心春ちゃんの家にしてただけだよ」
「はぁ!? よりによってなんで今日なんだよ……」
颯心はサッカー部があるとかでパス。凌平は文化祭ボッチの傷心を慰める時間が必要だそうだ。
家を出れずとも、なら家から出なければいいと引きこもっていたのにこのざまだ。花恋のやつ、どうしてくれよう……
「心配しなくても変なことは何もは言ってないよ? お兄ちゃんがいることは若干言っちゃったけど、名字も言わなかったからお兄ちゃんが秋谷光だってことはバレてない。学校の人なんでしょ、あの人たち」
「……さすがは俺のよくできた妹だ。やっぱり花恋を信じて良かった」
心春の家を訪れてすぐそんな機転が利くのか……やるなぁ……
「掌返しがすごいなあ……まあ、バレてないだろうから安心しなよ」
※※※※※※
「花恋ちゃん、お兄ちゃんがいるの?」
渚の質問にギクッとする。
「あ、ああえっと……」
確かに花恋ちゃんは男用のお下がりにうんざりしていると言っていた。なら嘘を付いてもバレてしまう。
「いるよ?」
別にそこはさほど重要じゃないから大丈夫。そのお兄ちゃんがひかるってことがバレなければ……
「なるほどね」
渚が何かを察したように頷いた。もしかして、ひかるのことが……バレた?
「どういうこと、なぎちゃん?」
ゆずが興味津々な様子で尋ねた。
「花恋ちゃんのお兄ちゃんってことは、そのお兄ちゃんも心春の幼馴染ってことでしょ?」
「あっ、確かに!」
「ねぇ、心春。何で幼馴染の存在を今まで隠していたのかなぁ? しかも男の。何かやましいことでも?」
渚が顔を詰め寄らせてくる。
「べ、別に何も……」
熱い。顔が熱い。
「さっきの写真の男の子ってその幼馴染なんじゃない?」
す、鋭い……
「あっ、心春ちゃんの初恋の相手の!」
「ち、ちがう!」
「なんで心春が色々な男子からの告白を断り続けるかが分かったよ。今も好きなんだね? 一途だねぇ」
「勝手に納得しないで! 違うから!」
ひかるだってことはバレなかったけど、もっとバレたくなかった私の恋心がバレた……
「心春ちゃん、その幼馴染の今の写真ないの!?」
「からかわれるから絶対見せない」
「えぇ~」
というか見せられない。それはひかるの写真だから……
「仕方ないなー、今回はこれくらいで勘弁しとくかー」
「心春ちゃんに好きな人がいるって分かっただけで大収穫だよ」
「だから違うってば!!」
私がいくら否定しても、二人が顔のニヤニヤを収めることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます