第7話 幼馴染とスイーツ

「なんで俺はスイーツビュッフェに来てるの?」


 もうすぐ文化祭だってのに、俺は何故スイーツビュッフェなんてものに来ているんだろう?


「文句言ってないで楽しみなさい」


 花恋が俺を咎めた。


 そう元凶はこいつ、花恋だ。

 突然「ビュッフェに行こう!」だなんて言い出して、俺の大切な休日をまるまるかっさらった。昔から一度何かを言い出すと絶対に諦めない奴で、俺がそれにどれだけ振り回されたことか……


 だが、今日はもう一人――――


「そうだよ、ひかる。せっかく来たんなら楽しもうよ」


 そう今日は心春がいる。心春は心春で他人からの頼みを断れない性格だからこうして今日も花恋の被害にあってるわけだ。


 でも、心春も女子だし、こういうの好きだったりするみたいだな……心春も楽しんでいるようで良かった。

 なら心春の言う通り、俺もせっかく払った分、楽しまなきゃ損だ。まあ、甘いものは好きだから、良いんだけどさ……


「いいな、ひかるのケーキ美味しそう……」


 俺がショートケーキを食べていると、羨ましそうな眼差しで見つめてくる心春。そんなに見られると食べづらい……


「あっ、あのケーキもほしいなぁ……あれも食べたいな……」


 テーブルでそわそわした様子でキョロキョロと顔を動かす心春。自分の目の前にもチョコケーキがあるじゃん。

 

 全く可愛い生き物だな。


「花恋みたいにもっと取ってくればいいんじゃん?」

「取ってきちゃったら、全部食べなきゃいけないじゃん。でも全部食べきれないし……」


 心春は悲しそうにしゅんと縮こまった。


「じゃあ俺が今食べてるやつ食べる? シェアみたいな感じで」


 あんな顔されたらあげたくなっちゃうだろ。


「いいの?」

「もちろん。こんなに甘いやつ、俺は全部食べられないだろうし」

「ありがとう……って思ったけど、ちょっと新しいフォーク持ってくるね」

「なんで? フォークなら持ってるじゃん?」

「さっきからチョコケーキ食べてるからフォークがチョコレートだらけなんだよ。混ぜたくない!」


 そこに心春のこだわりがあるらしい。


「じゃあ俺のフォーク使う」

「……ほ、本気?」


 心春の頬にほんのり赤みが差したように見えた。


「ん? ああ……」


 そんなにおかしいこと言ったかな?


「わ、分かった……お願いする……」


 そう言うと心春は小さく口を開いて俺の目を見つめてきた。


 お願いする?


 一瞬頭の中がフリーズする。目の前で起こっていることが理解できなかった。


 しばらくして気付いた。心春はもしかして俺にあーんされると思っている!? 『俺のフォークを使う』って、このフォークを使って食べさせるって勘違いしている?


 どうする? 俺のフォークを心春が使うんだと思ったと正直に言うか? でも、周りに俺たちの様子を見ている人たちもいるし、すでにあーん待ちをしている心春に恥をかかせるわけには……


 時を同じくして心春が俺の異変に気付いたようだ。そして、顔から耳まで一瞬のうちに赤く染まっていく。あーん待ちのポーズを慌ててもとに戻した。


「あっ、そうだよね……ごめん、てっきりひかるがあーんするのかなーなんて、勝手に勘違いを……あはは……」


 顔が真っ赤になっている心春。


 恥をかかせてたまるか。


 俺はフォークに突き刺したケーキを心春の口に無理やり押し込んだ。


「ん!?」


 心春は突然のことに、口にクリームを含んだまま驚きの声を上げた。


 心春に恥をかかせまいと勢いでやってしまったけど、俺は今とんでもないことをしてしまったのでは? 俺の方まで顔が熱くなって来るのを感じた。


 心春は視線を俺と俺の外にちらちらと行き来させながら、もぐもぐと口を動かす。


「あ、ありがと……おいしい……」

「…………なら良かった……」


 心春が恥をかくことは何とか回避した。だが、赤面する心春の顔は収まることはなかった。

 たぶんそれは別のことが原因で……


 俺が無理やり押し込んだせいか、心春の口の回りにクリームがついてしまっていた。


「口にクリームついてる」


 ナプキンを手にとって心春の方へ手を伸ばす。


「だ、大丈夫、自分でやるから……」


 心春がそういう頃には、俺はナプキンを心春の口元まで持ってきていた。俺に身を委ねることにした心春は目をつぶって口を少しだけ前に突き出した。


 こ、これは…………キス顔……落ち着け、動揺するな……


 自分の体温が上がってきたのが分かった。


 ナプキンで心春の口元を拭うと、心春の小ぶりで可愛らしい唇がプルッと揺れる。視線が自然と心春の唇に吸い寄せられてしまう。ダメだ、やましいことを考えるな……


「ありがと……」


 そのタイミングでスイーツを取りに行っていた花恋が勢いよく席に座った。


「ちょっと、二人ともさぁ……周りの人から見られてるの気付いてる?」

「えっ……」


 心春は辺りをキョロキョロ見渡して、恥ずかしそうに顔を机にうずめた。


 気づいてたけど……花恋に指摘されたおかげでその実感を顕著に得て、何かどんどん恥ずかしくなってきた。


 ああ、本当に恥ずかしい。










 ※あとがき


 まずは読んでいただき、ありがとうございます。


 皆さんお気づきかと思いますが毎回交互に「幼馴染と……」「美少女と……」の話を繰り返していまして、今回は幼馴染回でした。


 前回が「美少女と文化祭の居残り」で、次回が「美少女と文化祭①」となるため、あまりその間に幼馴染回を挟んで話の繋がりが切れてしまうのは防ぎたいと思いました。


 なので、今回の話は短めの番外編みたいなものになってしまいました。読み応えがなかったり、消化不良だったりしたらすみません。


 次回からは文化祭編に入るので、これからもこの作品をよろしくお願いします。


 以上です。

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