033 例のパーティー、捕まる。p02


 2人と1人を乗せる護送車となった馬車は、北の町に着くとそのまま軍の施設へと向かった。警察軍とも言うべきか、この国では軍が警察の機能を有している。


 警察と言ったり軍と言ったりはその時の状況で違うというが、この場合はどうなのか。


 もしくはそのどちらでもない、と言える状態があるのか。


 だとしたらまさに今がそうかもしれない。



「もう勘弁してくれ、いったい幾つ手枷を壊せば気が済むんだ!」


「手枷をしていようがいまいが、逃げたなら手配書が回ることを忘れるな」


「違うんです、違うんです! お、俺その、加減ができなくて……だからその気なくてもこうなっちゃううんです!」



 エインズに手枷をはめて拘束しようとした軍人はとてもぐったりとしていた。馬車に積んであった手枷は10個。ニーナの分を除けば9個。木製の板に丸い穴を開け、両手首を通して両脇の金具と鍵で固定するものだ。


 しかしエインズはそれをいとも簡単に破壊してしまった。いや、彼の名誉のために言っておくと、故意にではない、過失だ。



「なんて馬鹿力なんだ……暴力的で、反抗的で、本当は素直で良い子かもしれないなどと一瞬信じかけた俺を見事にだましたやがった!」


「そんなつもりないんです! そんな……っくしょん!」



 エインズがくしゃみをすると、バキッと何かが割れた音と、重く高い金属音が足元から聞こえた。



「……あっ」


「お前……今、今ので最後だったんだぞ!?」


「ご、ごめんなさい!」


「謝る必要はありませんよ。エインズ様の事を暴力的、反抗的、おまけに嘘つき呼ばわりした事と相殺といたしましょう」


「チャッキー、それだとあと6つ足りない。9個壊しちゃったから」


「おっと、それでは謝っておきましょう」



 エインズの怪力にガックリと項垂れる軍人と、そもそも手枷などなくても逃げないのに、力加減が出来ない事をからかうように手枷をはめられ、最後の1個まで失敗してしまったエインズ。落ち込む2人の横ではニーナがすやすやと寝ていた。


 この怪力があれば、軍人や全国の市町村への公開手配など怖くないだろうに、とてもおとなしく連行され、ただし手枷は壊す。


 行儀がいいのだか悪いのだか、悪人なのかそうではないのかちっとも分らない。


 そんなエインズと、考えても仕方ないとあっさり睡眠に入ったニーナ。そして一緒に捕まって安心しているチャッキー。2人と1匹を乗せた馬車は施設の裏門前に到着する。



「おいニーナ・ナナスカ! 起きろ! ったく、なんてへんてこな2人組だ。怪力馬鹿と神経図太いガキと、おまけに頓珍漢な猫。お前らといると調子が狂うぜ」


「ほらさっさと降りろ!」


「ん……着いたの? はいはい降りますって。じゃあね嘘つき軍人さん」



 護送を担当した軍人は、手枷が無いことをなんだか恥ずかしそうにしているエインズと、あの軍人さん嘘つきなんです! と早速周囲の軍人に言いふらしているニーナを見て、取り調べは難航するだろうと予想していた。





* * * * * * * * *





「じゃあ、屋上を飛び移らせた訳ではない、無銭飲食もしていない、と」


「そうです! あの子の怪力見たでしょ? あれで他人とぶつかりでもしたら相手の人が死んじゃいます! それにエーゲ村の宿に電話してくださいよ、証言してくれます!」


「……地形を変えるほどの爆撃だか何だかは」


「エインズの魔法の暴発です。あの子の怪力見たでしょ? あの力と同じくらい魔法もすごいんです。人がいないところで少しでも抑える練習させないと大惨事になります!」


「つまり、お前は共犯じゃない、教唆もしていないと主張するんだな?」


「ええ、そうよ! ほら早くエーゲ村に電話してよ! 嘘は言ってないんだから」



 施設に連行され、まっ先になされたのは取り調べだ。やや圧迫感があるくらいには狭い取調室で、まずはニーナが質問を受けていた。


 取り調べ担当の軍人は面倒くさそうに部下を呼び、電話を掛けるように指示する。そして尋問にいい加減うんざりし始め、少し態度が悪くなったニーナに向かって不敵に笑うと、少々意地悪そうに釘を刺した。



「これでエーゲ村がお前らの主張を否定したら……どうなるか分かっているな」


「何よ、刑務所行き? その前に裁判するのが当然よ?」


「ああそうとも。だが検察は何と言うだろうな」


「な、何? 警察軍が脅しなんて、私たちが無罪だと証明されたらどうなるか分かってるのよね?」



 軍人はニーナを挑発するように鼻で笑い、そしてまたニヤリと笑った。



「未成年のお前らに俺たちが求刑するのは……」



 勿体ぶった言い方に、ニーナの表情がやや崩れ、眉間にしわが寄る。



「社会奉仕刑だ」


「……しゃ、社会奉仕!? いやよ、それだけはイヤ!」


「しかも、2週間だ」


「2週間!? 街角で見世物になりながら2週間も……ひどい! 求刑が重すぎるわ! 奉仕活動させられる程悪いことはしてないわ!」



 ニーナはまるで目の前で世界が終わったのかと思うほど顔色が真っ青になり、悲壮な声で抗議する。捕らえられる時よりも今の方が明らかに狼狽しているように見える。


 奉仕活動自体はとても褒められるべき行動だ。この世界でも困った人へ手を差し伸べる事は美徳であり、称賛される行動である。


 それでいて刑務所に入らなくて済むというのなら、普通はラッキーと考えそうなものだが、思春期、それも反抗しがちな少年少女にとっての社会奉仕は何より恐ろしい罰だ。


 1日の終わりにプログラムに参加した証として、通称「良い子スタンプ」をもらうのだが、監視員の前に整列している姿を見られることは特に屈辱的なのだという。



「メインストリートに落ちた犬猫や馬の糞を清掃させてやるのがいいか、いや、平和ポエムの朗読会で朗読をさせてもいいな……」


「いやぁぁぁァァ! あんまりよ!」



 ニーナは机に突っ伏して震える。取調室を出る頃には立ち上がるのもやっとなほど生気を失い、ゲッソリとした表情になっていた。






* * * * * * * * *






「じゃあ、屋上を飛び移っていたのは他人とぶつからないため、無銭飲食は歓待を受けたと」


「そ、そうです。あの、手枷も壊しちゃうくらい力加減が苦手なんです。誰かにぶつかっちゃったら……」


「……地形を変えるような真似は?」


「俺の魔法の暴発の事……でしょうか。人がいないところで少しでも抑える練習しないと大惨事になっちゃうと思って……」

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