032 例のパーティー、捕まる。p01
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封鎖されていると分かっても前に進む以外にない。
エインズとニーナは小一時間ほど歩き、商人が教えてくれた封鎖地点へと向かっていた。
両脇に切り立った崖が続く一本道は、馬車が余裕をもってすれ違えるほど広く、日陰となって歩きやすい。
「まったく、不審なソルジャーがいるからって、とばっちりもいいとこだよ」
「ホントよね。無銭飲食、住居不法侵入なんてのは小者って感じだけど、環境破壊や軍隊への挑発なんて人でなしにも程がある。ソルジャーの恥だわ」
「仲間のソルジャーをたぶらかして、それを指揮している女ソルジャーというのも怪しいですね。お二人ともご注意下さい」
当事者は自分自身を一歩引いて見つめるのが難しいようだ。緩やかなカーブに差しかかり、特に前方に注意することなく進んでいると、不意に腰ほどまでの高さの木製の柵が現れた。
その内側には数名の軍人が立っている。
「あ、ここから先には行けないのか……」
「おい、そこの2人組! お前たちソルジャーだな? 身分証とソルジャー章を見せてもらおうか」
「えっ、あ、はい……」
軍人たちは柵を越えて2人に詰め寄るように立ちふさがる。2人は身分証をまず見せ、そして首から提げていたソルジャー章も取り出した。
「ニーナ・ナナスカ、エインズ・ガディアック……ははん、お前たちだな」
「え? 何かありましたか?」
ニヤリと笑みを浮かべる軍人らに、エインズは何かやってしまったのかと不安を覚える。チャッキーを呼ぶと肩に乗せ、そして軍人の次の言葉を待った。
「何かありましただと? エインズ・ガディアックは無銭飲食、住居不法侵入、軍の封鎖地区への侵入行為、爆撃等の行為による環境破壊で指名手配となっている!」
「及びニーナ・ナナスカはそれを示唆した共犯!」
「ええ~っ!?」
どれもエインズ達は全く心当たりがなかった。いや、半分は濡れ衣、半分は自覚していないのだから当然と言えば当然だ。
「ちょっと待ってください、人違いですよ! 俺たちそんな事してません!」
「そ、そうよ! 食い逃げなんてしてないし、住居不法侵入? 封鎖を突破? 心当たりが全くないわ」
「心当たりがないだと?」
「ダイナ市では毎朝建物の屋上に侵入! 封鎖地域だったエーゲでは宿泊費を支払わずに村を立ち去った! 心当たりがないとは言わせんぞ」
エインズは驚いた表情のまま口を開けて固まっている。ダイナ市では他人とぶつからないで管理所まで行けるからと建物の上を飛び移って移動していた。
何もない平原では魔法を加減せず放ってストレス発散をしていた。それらのことだと気づいてしまったのだ。
力を加減して生きている……あくまでもそれはエインズが思っているだけの話だとして、そんな者たちからすれば何の遠慮もなくやりたい放題なエインズはどう映るだろうか。危険人物、秩序を乱す悪党、そう思われても仕方がない。
少なくともエインズはそう考えずにはいられなかった。
ただ、無銭飲食については違う。あれはエーゲ村の厚意であって逃げてもいなければ強要もしていない。
「お、俺たちはちゃんとエーゲ村ではもてなしを受けました! 聞けばわかるはずです!」
「そうよ! それに魔族が襲ってきたとき、私たちだけが居合わせたのよ? 確かにエインズはダイナで建物の上を飛び回ったけど……それはやむを得ない事情があったのよ!
「住居不法侵入は認める、という事だな。そしてニーナ・ナナスカ。貴様はそれを黙認、もしくは匿っていた」
「えっ!? いや、そ、そうじゃなくて!」
ニーナはエインズを擁護したつもりだったが、エインズの「犯行」を証言してしまったようなものだ。おまけに自分は犯人を知っていながら匿っていた共犯とまでされてしまった。ニーナもまた、目を閉じ口を開けたまま、しまったと思っていた。
「我々と共に来てもらおう。逃げたなら軍だけでなく国中の町や村に顔写真が配られることになるぞ」
「そんな!」
「エインズ様! これは何かの間違いです、エインズ様はとても良い子なのです! 魔族がエインズ様を恐れて立ち去るくらいに!」
「魔族が? 馬鹿を言え、こいつが精霊か。おい精霊はどうする」
「捨てていけ、捕えろと言われたのはこの2人だけだ」
軍人たちはエインズとニーナだけを馬車に乗せようとする。チャッキーはその場に置いていくつもりのようだ。
「そんな! 駄目です、チャッキーは俺の精霊なんです! 一緒にいなくちゃ駄目なんです!」
「そんな事は知らん。近くの町まで連れて行くぞ」
チャッキーは馬車に乗せてもらえず、その場にいた軍人らに前を塞がれる。何とかしてエインズと一緒に連れていかれたいと考えたチャッキーは、なんとかできないかと考え、軍人に提案を始めた。
「分かりました! わたくしだけ、捕える罪状がないというのですね!」
「ああ、テメエを連れていく理由は何もない」
「であれば、わたくしも何か悪さをすれば連れて行っていただけるのですね? であればとっておきの嘘をつきます! 嘘つきは大罪だと存じておりますので」
「……」
軍人はチャッキーを憐れむような目で見ている。それは決して同情ではない、残念な猫だと思われていたからだ。
「ならば、こんな事したくはないのですが……」
そう言ってチャッキーは爪を立て、そして軍人の首元にしっかりと当てた。鋭い爪は少しでも動けば軍人の首から血を滴らせるだろう。
「ご覧下さい! わたくし、軍人を脅しております! ほら見て下さい! これでわたくしも連れてっていただけますよね!」
チャッキーは爪を立てられて困惑している軍人をキラキラした目で見つめている。こんなに悪いことをしたのだから、自分もエインズたちと一緒に行けるに違いない、そう考えていた。
「……分かった分かった! お前も連れていく。ったく、なんて猫だ」
チャッキーは勝ち誇ったように悠々と4足歩行で馬車に近づき、飛び乗ると後ろ足だけでしゃがんでエインズの横で胸を張って座る。エインズがホッとしてチャッキーを撫で始めると、馬車は北へと向かい始めた。
「……あれ? 北って魔族が現れたから封鎖されたんだよね」
「そうよ? だから……なぜ北に向かってるの?」
「これは……罠だったのかもしれません」
チャッキーがエインズの膝に飛び乗り、不安そうに丸くなる。
「そうさ、ご名答。お前らが通るという情報を得たから待ち構えていたのさ。魔族が出たってのは嘘だよ」
「嘘つきは大罪なのに……軍人が嘘をつくなんて」
「そう言われると……ちと心が痛いがな。でも俺たちもお前らを捕まえて来いと言われただけなんだ、恨みがあるわけじゃない。潔白を証明出来たら解放されるさ」
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