031 例のパーティー、足止めされる。
* * * * * * * * *
「おっと、この先は魔族が出たので立入禁止だとよ」
「えーっ!? またですか? ダイナ市から北上してきて、これで魔族が出たから封鎖しますって言われるの5度目ですよ?」
「村はすぐそこなのに、大丈夫なんですか?」
「ああ、どうも最近魔族の動きが活発だ。ここだけの話、街道や橋の崩落は魔族の仕業って噂があるんだ」
「じゃああの軍事演習はひょっとして、魔族に攻め込むための練習……」
ガイア国とジュナイダ特別自治区とを隔てる小国「ビンジャ共和国」との国境が近くなった頃。
街道の北から引き返してきた商人達に街道の封鎖を教えられ、エインズ達はガッカリしてその場に座り込んでいた。
町や村に立ち寄っては少しずつクエストや突発の依頼をこなし、所持金や食べ物に困る事はなかったが、いかんせん時間が掛かりすぎている。
まさかすぐに魔王から腕輪を奪取できるとは思っていない。ちょっとジュナイダ特別自治区で魔族の情報を得よう程度のつもりで向かっていたのに、そこに向かうだけで何度も行く手を阻むものが現れるのだ。
街道をただ北に向かうだけならとっくに着いていたであろう北東の隣国。その手前でまたもや足止めを食らい、エインズのストレスは爆発寸前だ。
チャッキーを撫で回す手にも力が入っており、これが普通の猫ならどんな惨劇になったことか。
とにかく、エインズにもニーナにも明らかな苛立ちが見て取れた。
「あーもう! 何で? 馬車だったらもう1ヶ月も前に着いてたような旅だよね? 走ったらもっと早く着いてた旅だよ? 何でこんな邪魔みたいな事ばかりされるんだろう!」
それは邪魔しようと思って邪魔をされているからなのだが、エインズ達はそれを知らない。
昨日はクエスト対象ではない魔物を見つけると全力で戦ったり、意味もなくフル火力のファイアを放ってみたりと大暴れしてみたのだが、完全にストレスが解消された訳ではないようだ。
そんな少年少女を見て、同じように足止めされていた中年の商人が「同情するよ」と苦笑いする。そしてとびっきりの情報だといってこっそりと話を教えてくれた。
「なあ、最近の魔族の出没、軍の出動、おかしいと思わねえか?」
「おかしいです! 明らかにおかしいです!」
「だろ? 商人ギルドもこの数ヶ月の異常な動きに辟易さ。で、とある商人が調べたんだけどよ……」
そう言って商人は上手く話へと引き込む。流石は商人だ。
「ならず者のソルジャーがいるとか何とかで、国の役人が嗅ぎまわっているらしい。南端のダイナ市では住居不法侵入、どこかの村では英雄を騙って無銭飲食。報告が必要な魔物を根こそぎ狩ってまわるそうだ」
住居不法侵入といえば、宿から管理所まで建物の屋上を飛び回ったことがある。
無銭飲食といえば、実態は違うが水と温泉の村で英雄と称えられ、食事代、宿泊代、それに温泉代もタダにして貰った。
報告が必要な魔物……すなわちクエスト対象である可能性があった魔物なら、ここ数日乱狩りしている。
どれもならず者呼ばわりされる程ではないが、噂は大げさに広まるものだ。エインズはまさか自分の事だとは思っておらず、それらの行為を思い返そうともしていない。
横にいたニーナは「あれ?」と思っているようだが。
「そんな悪者がソルジャーになれるなんて間違ってます! 同じソルジャーとして許せませんよ」
「お前さんみたいなソルジャーばかりなら商人としても嬉しいだけどな。実際は……ならず者一歩手前みたいな奴が多いんだ。若いからってナメられんように気をつけな」
「ご丁寧に有難うございます、そんな奴に出会ったらどうしよう」
お前の事だよとツッコミを入れる者はこの場にはいない。商人は袋に入ったリンゴを2人に手渡し、封鎖をその目で確かめるならそれでもいいさ、と言って引き返していく。
「どうする?」
「この先は渓谷よ、1本道だわ。回り道するなら一度手前の村に戻って、そこから山脈を大回り……1ヶ月コースね」
「魔族に見つからないようにコッソリ行けないかなあ」
この先には検問が設けられており、そこには軍人が待ち構えている。エインズとニーナの情報が既に回っていて、そこで2人を拘束する手筈になっていることは、まだ知る由もない。
「エインズ様、いつかは魔王と対決するおつもりなのでしょう? その手下の魔物を恐れて立ち止まるなど、あってはなりませんよ」
「そうだねチャッキー、良い事言うね」
「いえいえ。それであの……そのリンゴはお食べにならないのですか?」
「リンゴ? そうだね、食べちゃおうかな」
エインズは立ち止まり、ニーナからリンゴを1つ受け取ると、近くの岩に腰掛けた。
「えっ、エインズ何してるの?」
「何って、今からリンゴを食べようかと」
「いや、それは分かるんだけど何で座ってるの?」
リンゴを齧ろうとしたまま不思議そうにエインズを見つめるニーナに、エインズもまた不思議そうに答える。
「え、だってリンゴを食べるんだよ? 食べる時はちゃんと座って、いただきますして食べないと行儀が悪いじゃないか」
「ニーナ様、まさか歩きながら召し上がるおつもりで?」
「えっ? ……ええ~……」
エインズは常識知らずな所があるが、行儀だけは抜群に良い。自分が指摘される側に回ったのが恥ずかしいのか、ニーナは何か言い返そうとするものの、少し考えた後でエインズのすぐ横に腰掛けた。
エインズがこの行儀良さを失ったら。
自分の行動ひとつで、エインズをここまで育て上げたエメンダ村の人々の苦労を台無しには出来ない。
「ニーナ様、ニーナ様」
「何? どうしたの? リンゴ食べる?」
「いえ、さきほどジャーキーをいただきましたので。紙袋はいただけないでしょうか」
「あ、そうね、チャッキーは紙袋が大好きだったわね」
ニーナが小さく茶色い紙袋を地面に置くと、チャッキーが姿勢を低くし、僅かに尻尾とお尻を振って紙袋の中へと滑り込んだ。そして頭に被った状態のまま首を左右にぶんぶん振ってカサカサとなる音を楽しんでいる。
「このですね、紙袋の底がですね、舐めると舌触りが良いのです! ああ、落ち着きます……」
「チャッキーってほんと喋らなかったら猫みたいよね」
「猫呼ばわりはお止め下さい。わたくしは誇り高きエインズ様の従僕。精霊なのです」
「誇り高い従僕って……」
矛盾を感じながらもニーナは猫呼ばわりをやめ、紙袋に頭を突っ込んだまま後ろへと下がっていくチャッキーをクスクス笑う。その隣ではエインズが厚い手袋でつかんだリンゴの、最後のひとかけらを口に放り込む所だった。
ニーナは自分もと、やや大きな残りの欠片を頬張る。
「あ~美味しかった」
「「ごちそうさまでした!」」
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