027 例のパーティー、立ち上がる。p02
「うおっ!?」
「なんだ、爆発か!?」
「くっそ、人族の奴ら、話が違うじゃねえか! 俺達は怖がらせる、人族は村人だけの状態にするって話だったはずだ!」
「チッ、どうする」
突然現れた火球と銃声に、魔族たちは戸惑っていた。今日は人族と日程を調整して決めた襲撃の日であり、魔族側はただ人族を脅かしながら村を一巡するだけだ。
家の扉を叩いたり隙間があれば入ったりもするが、基本的には危害を加えない。魔族への恐怖と怒りを持たせる為だけに行われる「イベント」のはずだった。
つまり、恐怖を吸い取ってくれる魔族という存在は人族にとっても有益。その魔族に対しての恐怖のお供えだ。
人族側は橋を架け替えるなどと口実をつけて仮の橋の建設を数日遅らせると、街道の反対側は通行止めにするなどソルジャーが入って来ないよう、万全の準備を整えたはずだった。
幅が広く獰猛なワニや肉食魚が生息する川を、まさかジャンプで越える少年がいるなどと想定して物事を進める事はない。
「と、とりあえずサッと町を駆け抜けて野菜の2、3個でも盗んだら引き揚げるぞ!」
「この威力……大砲の類か。人族め、この不義理の代償は高くつくぞ」
空を飛べる者も銃撃を恐れて地に降り、一斉に門ではなく塀を乗り越えて村の中へと侵入していく。いくら計画と違うとはいえ、反撃を受けたので撤退しましたなどと言えば、魔族としてのプライドが損なわれる。
「ギャハハハ!」
「グフフフ……」
「き、来たぞ!」
エインズ達は武器を構え、魔族へと一斉に振り始める。村の中で魔法を使えば家々が吹き飛び、畑が壊滅してしまう。ニーナの銃も、流れ弾で村人や家が傷ついてはたまったものではない。
「ひええお助けを!」
「この……!」
「やぁぁ! ……あれっ?」
頼りない剣術の構えで立ち向かおうとする2人を挑発するかのように、攻撃を仕掛ける訳でもなく不気味に笑いながらすり抜けていく魔族たち。
不気味に笑っているのは怖がらせる事が目的だったのだが、人族が目の前で直接怖がってくれることに喜びを覚えた者もいたようだ。
「ああ、気持ちいい、気持ちいいぞ! もっと怖がれ……ああこの満腹感……たまらん!」
「念願の襲撃ツアーに当選して良かったぜ! やっぱりイキの良い恐怖は違うなあオイ!」
「ふはは、ハハハハハッ! あの恐怖に歪んだ顔……イイ……!」
「俺、帰ったらうちの子に自慢するんだ、人族が俺を見て恐怖に腰を抜かしたんだぞって」
魔族としては人間が怖がるかどうかが問題であって、傷つけるなどというつもりは一切ないし、興味もなかった。これは新鮮な恐怖を味わう「恐怖狩りツアー」に過ぎないのだ。
綺麗に避けていくその群れに攻撃を与え……ようとしたところで恐らくエインズの剣は当たらないのだが、様子を窺ううちに魔族は目の前から消えていった。
「と、通り過ぎた?」
「村のどこかに何か目的のものがあるんじゃないかしら!」
「も、もしかしたらこの村の水源に……毒が!」
「毒!?」
「エインズ様、いけません! 向かいましょう!」
エインズ達と村人は急いで村の水源へと向かう。村の橋にある小高い丘の岩陰から勢いよく溢れだす湧水は、この村には無くてはならない存在だ。稲作、畑作、温泉に生活用水、この一帯はすべてこの湧水で潤っている。
だがそこに魔族の姿はなく、依然として家が立ち並ぶ集落から驚く村人の悲鳴が上がっている。
「水源じゃない……奴らの狙いは……そうか、人攫い!」
「人攫い!?」
村人たちは急いで集落へと戻り、そして家々の屋根や畑にいる魔族を追い回し始める。1軒ずつ回って確かめるも攫われたという情報は一切なく、家畜も無事だという。
「畑の作物が幾つか刈られているようだ、けが人は今のところいない」
「どういう事だ、魔族は……いったい何をしにこの村へ……」
村人達が魔族の目的を考えた所で分かるはずはない。そもそも目的は「怖がらせる事」なのだから。水源は無事、人的被害なし、その他の被害は畑の僅かな作物のみ。
怖いのは怖いが、なんとも憎むというには傷が浅く、村人たちは肩透かしを食らっていた。
「魔族は……俺達を攻撃する気がない?」
「どういう事? 魔族は人族を狩って楽しむような恐ろしい存在のはずよ?」
「あっ、あそこに魔族が!」
エインズは魔族にどういうつもりかを尋問しようと駆け寄る。角を生やし、青白く尖った鷲鼻と骨ばった顔の魔族は「クランプス」と言われる種族だ。老婆のような姿のその魔族は一瞬の判断が遅れ、エインズに進行方向を遮られてしまった。
「な、なんじゃい貴様は! その剣で……ワシを斬ろうと言うんかい」
「……この村に何かをしたのなら」
「はっ! クランプスであるワシが現れてやることはただ1つ!」
クランプスはやや焦りも見せていたが、魔族側は一般の人族が密約を知らないことは承知している。恐怖を与えるツアーで極上の恐れを堪能したなどとは言えない。
一方のエインズは、魔物は魔物としか認識していない。クランプスなどと言われても何も分かっていない。
「エインズ! 危ないわ!」
「エインズ様、おおさじですよ、おおさじ! 激しく戦うと村が壊滅してしまいます」
クランプスは手に持った鎖鎌を揺らしながら、キヒヒと笑う。
「ほう、貴様も怖いのかい? 威勢の裏に隠れた恐怖がまた美味い。ワシは悪い子供に罰を与えるのが何よりの好物。お前さんも……」
エインズはドキッとして一層の恐怖心を芽生えさせていく。親に買わせた甲冑の数、壊した家具の数々……ありとあらゆる悪い子供としての自覚がエインズの足をガクガクと震えさせた。
村の者達は遠巻きに見守りながら、少しずつ後ずさりしている。今日恐怖をどの魔族よりも集めたのはこのクランプスだろう。
「だ、大丈夫よエインズ! わ、私だって悪い子じゃ……」
「エインズ様は素晴らしい方です。褒められる事こそあれど、罰する事などひとつもございません」
虚勢を張る2人と1匹に対し、クランプスは悪い子に相応の罰を思い浮かべ、縛ろうか、焼こうか、刈ろうかと呟く。
が、次の瞬間、飛び出るほどに目を見開き、その場に苦しそうにうずくまった。
「くっ……なんじゃこのガキ……良い子、だと……?」
「ど、どうしたんだ、俺まだ何もやってない……」
「さ、触るな! 良い子には触れられん……い、命拾いしたな小僧!」
そう言ってエインズを睨むと、クランプスはその場から身を翻して颯爽と駆けて行く。恐怖のために足が動かなかったエインズ達は、追う事も出来ずにただそれを見つめていた。
「良い子……良い子怖い、良い子……皆、大変じゃ! 良い子がおった! 穢れなき良い子じゃ!」
クランプスの叫びに魔族の間で戦慄が走る。この日の恐怖狩りツアーはその瞬間に終わりとなり、魔族たちは一目散に村から逃げて行った。
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