026 例のパーティー、立ち上がる。p01
魔族という言葉を聞き、エインズとニーナは椅子をガタッと揺らして驚く。チャッキーはサケの味が残った皿をペロペロと舐めているところだったが、キリの良い所まで舐めるとエインズの膝に飛び乗った。
「魔族!? この村を襲う気なのかな」
「ど、どうすればいいですか!?」
「ど、どうすればって、君達ソルジャーだろう!? 報酬は出す、行ってくれ!」
「わ、私達!? む、無理ですよ! まだソルジャーになって2か月目ですよ!?」
「肩書きはソルジャーだろう? 傭兵崩れが傭兵にすらなれずにどうする!」
オーナーの物言いにニーナがムッとする。言われている事はもっともだが、金さえ払えばどうでもいいと思っている連中とは一緒にされたくなかった。
「……ニーナ、行こう。俺達は役に立たないかもしれない、けどやりたい仕事だけ出来るとは限らないんだ」
「私は現実的な話をしているの! 新米ソルジャーが太刀打ち出来る相手と、こんなに長い歴史の中でいがみ合いするは……ず、ないと……思う」
ニーナはそう言いながらハッと気が付いた。目の前にいるのはエインズ、ベテランソルジャーも真っ青な身体能力を兼ね備えた少年だ。
魔族は恐ろしい、魔族は強い……そんな当たり前の事がエインズに限っては通用しないのではないか。もしかしたらエインズの方が強いのではないか。
「ニーナ様、参りましょう。エインズ様はこんな所で止まってはいられないのです。ここで奮起し、弱くなるために勇敢に立ち向かわなければならない身なのです」
「ややこしいわね……まあいいわ。装備取りに戻るわよエインズ!」
「うん!」
少年少女と猫……2人と1匹が部屋へと準備の為に戻る姿を見送るオーナーは、傭兵崩れと言ったものの、いざ防戦に行こうと立ち上がった姿を見ると、申し訳なさと不安が込み上げていた。
宿を継ぐのを拒んだ自分の息子よりも更に若い2人に頼る大人達を、このソルジャー達もまた笑っているのではないか、笑われて当然なのではないか。
金で解決しようとする自分が他人に言えたものではないと自覚していたようだ。
数分で階段を駆け下りて来たエインズとニーナとチャッキーは、そのまま宿の外へと出て行こうとする。
「ちょっと待ちなさい!」
「何ですか?」
「これを持っていきなさい。ソルジャー用に置いているポーションだ。体力を回復出来る」
「あ、有難うございます……」
先程とはうって変わって心配そうな表情を向けるオーナーに対し、不思議に思いながらもお礼を告げ、エインズ達は宿を後にした。
「……大丈夫ですよ、オーナー」
「ソルジャーになった息子が負傷した時も、俺の挑発がきっかけだった……分かってはいた事なのに」
「ソルジャーの振る舞いが酷かった頃を思うと仕方がないですよ。さあ、今は吉報を待ちましょう」
* * * * * * * * *
見張りの櫓の上にいた者に魔族が出たのはどの辺りかを聞き、エインズ達は走って向かっていた。もっとも、エインズは全力疾走をせずにニーナの後ろをついていく事に神経を使っているが。
「それにしても、他には誰もソルジャーがいないっていうの? いくらなんでもそんな事……」
「ああ、ソルジャーがいたか! 良かった、2人だけだとしてもハッタリにはなる……」
「げっ、やっぱり2人だけ?」
エインズ達が斧や鍬を持った村人達と合流すると、まるで英雄のように迎えられた。見る限りソルジャーは他にいない。
「北の街道一帯が魔物の目撃情報によって、2日前から軍に封鎖されていてね。出るのは良いんだが入れない。街道の南は橋が落ちていて修復中だ。あんたらはどこから」
「えっ? ダイナ市からですけど……」
「ほんなら橋はもう架け終わったんか、あと数組でも来てくれたら……」
エインズとニーナは変な汗が出ている事を感じていた。街道から離れてわざわざ平原を歩いていた2人と1匹は、橋が落ちている事なんか知りもしない。
平原の途中に現れた幅10メータ程の川は、エインズにおんぶされて軽々と飛び越えたのだ。
「こ、孤立無援ってやつ?」
「ど、どどどどうしよう、ま、魔族、まままま、ま、ま……」
「お、落ち着きなさいって、と、とにかく魔族からみんなを守るの!」
にわかに村の外が騒がしくなってくる。目を凝らすと村の門の外には大小様々な魔物が近づいており、村人たちの膝はガクガクと震えはじめる。
「ひっ……ヒィィ!」
「ば、馬鹿野郎! お、俺達が村を守らねえでど、どうする! お、俺あいつ連れ戻しに行ってくる……」
「駄目だ、村は終わりだ……」
武器を持っていても、戦えるとは限らない。この様子だと村人は恐らく持っている武器を振る事は無い。
「よ、よしニーナ、本気を出そう」
「えっ、えっ?」
「魔族相手なんだ、本気を出さなきゃ!」
言われなくても本気を出すつもりのニーナに対して、エインズはやけに本気を強調する。エインズの言う本気とは、持てる力を出し切る事以外にも意味があった。
「制御なんてしてる場合じゃない! 本当の力で!」
「あっ……えっと……」
ニーナは動揺する。エインズは自分だけが力を弱められないのだと勘違いしている、それを思い出したのだ。
ここでエインズに力を出し惜しみする事を告げる訳にはいかないが、かといって全力を出すと言っても、到底エインズの想定するものとニーナの全力は違う。
そうすればエインズは自分の秘密に気づいてしまう。
「エインズ様、ニーナ様は銃をお使いなのですよ。力を制御しなければ使いこなせません」
「そ、そうなの、銃は繊細なの!」
「そうだった、じゃあ俺は全力で行く!」
ニーナはチャッキーの助け船にホッと胸を撫で下ろし、背負っていたショットガンを構える。魔族の群れへと照準を合わせ、エインズが突撃するのを待っていた。
「ニーナは銃の威力を全力にするんだね、分かった!」
「ニーナ様、加減はおおさじですよ、おおさじ」
「ちがーう! チャッキーも詰めが甘い! おおさじって何よ、何の話?」
「爪には自信がありますが、甘みはございません」
エインズは最初から当たらない武器を構えず、軽く駆けながら門の外に出て右手のひらを魔物の群れに向けた。
「ファイア!」
エインズはおおさじと言われた以上は加減をしたのだと思われるが、手のひらから発生した火球は超特大。村までもうすぐだった魔族たちの目の前に発生したそれは、更に膨れ上がった後で爆弾のように破裂した。
「ちょ、ちょっと威力!」
あまりにも激しい発動で標的が見えない。ニーナはショットガンを群れより上空へ威嚇のように発射した。
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