022 例の少年についての報告を魔王様に。p01
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「チャッキー凄いよ、キラーラビットの巣穴に勇敢にも潜り込んで追い詰めて!」
「ニーナ様がしっかりと追い込んで下さったからですよ。エインズ様もお見事でした。もう片方の出口から出てくるキラーラビットをよく全て倒されましたね」
「エインズが飛び出てくるキラーラビットをはたく、真横に除けるの繰り返しで19匹。記録した後で巣の中にファイアを掛けて駆除どころか爆破。なんだかクエストってこんなのでいいのかしら」
「上出来ですよニーナ様。わたくしはちょうど燃え損ねたキラーラビットの骨が良い具合に炙られていたので十分です。そのまま咥えて帰りたいくらいでした」
「山分けしても報酬5万Gだよ? 大金持ちだ! 今日は焼きあがった骨付き肉を買えるからもう間食は駄目だよチャッキー」
キラーラビットを殲滅して巣を潰し、ジャンクウルフの群れを一掃した2人と一匹。ジャンクウルフに至ってはもう何も作戦などなかった。
何もない川べりでファイアの制御を2時間ほど特訓したエインズは、どうにか初回の半分程度の火力に留める事に成功していた。
といっても、それでも熟練の魔法使いのファイアが霞む威力なのだが……。
その後は歩き回って群れを探し、エインズはともかくニーナは明らかに疲れていた。街を一周するように歩きながら15時も過ぎた頃、ようやくジャンクウルフを見つけた時には、もうニーナは足の痛みを堪えきれなくなっていた。
「エインズ、魔法! いけっ!」
そうニーナが指示を出し、エインズが特訓の成果をしっかりと発揮したことで、ジャンクウルフの群れはエインズの魔法に沈んだ。数発のファイアが発動し、その戦いわずか1分。
牙に気を付けろ、モタモタしていると仲間を呼ぶ……そんな色々な注意点がまったく無視された戦いは、果たしてこれを経験と呼んでいいのか分からなかったくらいだ。
「ジャンクウルフの報酬はエインズのものよ、私は何もしてないんだから」
「え? 一緒のパーティーなんだから山分けだよ」
「いいの。エインズは宿代も掛かるし、これから装備も買わなくちゃいけないのよ?」
「だけど……」
ニーナはゴブリンとキラーラビットの報酬だけを山分けしようと言い、ジャンクウルフの報酬4万Gは受け取らないとキッパリ断った。
「じゃあ、パーティーなんだからジャンクウルフの報酬はパーティーの方針としてエインズの防具代として貯金、いいわね」
「そんな……いいのかな。てかニーナが持っててよ、それに俺の装備より先に水の魔法を覚えて貰わなくちゃ」
「あっ」
大金に全く慣れていないエインズがおろおろとしていると、ニーナが鞄から懐中時計を取り出して時間を確認し始めた。
「あー忘れてた」
「何を? 晩御飯の時間?」
「違うわよ、銀行よ銀行! エインズの口座を開設しに行くのをすっかり忘れてたわ……」
* * * * * * * * *
「魔王様!」
「なんだ、騒々しい」
ジュナイダ特別自治区の山中にある魔王城。
魔族の領域と言われ、隣国が領土を放棄して暗黒の地となったジュナイダ特別自治区において、もっとも「近づいてはいけない」とされている地域にそびえる不気味な城だ。
過去数回勇者を名乗るソルジャーが乗り込んだというが、魔族には敵わず未だその全貌を知る者は居ない……
という触れ込みになっている。
「人族の側から連絡です! 魔王様の討伐をはっきりと口にした人族のソルジャーが現れました!」
年中殆ど晴れない空に、遠くの山から流れ出る溶岩が赤々と流れる川。冷え固まった溶岩のように黒い城、ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎だけが照らす城内。
赤い絨毯はどこかくすんで見え、骸骨のオブジェに魔族の家来たち……恐ろしいがこれでもかと詰め込まれている。
しかしそんな城内において、何故か魔王が今いる部屋は様子が違う。
真っ黒なシーツに真っ黒な天蓋付きのベッドはまだいいとして、黒いカーペットも灰色の壁もいいとして、ピンク色のソファーになんだかよく分からない可愛いぬいぐるみ、なんだかよく分からない柄の黄色いクッション……極めつけはクリーム色のバスローブ姿の魔王だ。
「ハァ、また現れたか。俺が魔王になってから13人目だ。ったく人族は何をしておるんだ」
「こちらから何か仕掛けますか?」
「詳細を聞いてからとする。具体的にどのような奴なのだ」
魔族だ、魔王だと言われると角が生え、牙を剥き出しにし、牛頭だったり黒い炎のようなオーラを放っていたりを連想するが、どうもこの魔王はそうではないらしい。
ちょっと……いやだいぶ人相の悪いゴツゴツした人相と、ちょっと……いやだいぶ背が高く屈強そうな体格。
強いて付け加えるなら肌の色が灰色である事以外は人族の中年の男のようにも思えた。こもったような低めの声は、その見た目にとてもよく合っている。
魔族には動物由来の者も人型由来の者もいるが、今の魔王は人型由来という事だろう。
一方、魔王へと報告している者はガーゴイルと呼ばれる翼を生やした鳥のような怪物だ。体は石で出来ているのだという。
「はい、南にあるガイア国のド田舎に住んでいた少年との事ですが、その……ペッパーボアを2体軽々持ち上げたり、10メータ以上も飛び上がって屋根伝いに走り回っていたり、幼少期からずば抜けて身体能力が高く怪力で、まるで怪物のようだと」
自分だって怪物じゃないか、というツッコミは置いておくとして、魔王の表情は報告を受けて曇る。そしてバスローブ姿でピンク色のソファーの背にもたれ掛かり、ハァっと1つため息をついた。どうやらここは魔王の自室らしい。
「今度は本当に強い奴が来るっていうのか? もう少し恐れだけを抱かせるような上手い方法がないのか? もう嫌だよ俺。『はっはっは、よく来たな勇者よ』って、あれダサいんだよ、全然こっちは歓迎してないんだよ!」
「確かに、魔族らしくしなければと気疲れしますね」
「魔族に対するイメージ守るのは分かるよ? でももうストレス! ハッキリ言ってストレス!」
「来月にはまた人族の代表者が城を訪れます。演出は我々がやりますのでご安心を」
「そりゃ恐れさせるのは好きだよ? 大好き。でも世界各地に流行らせたお化け屋敷ってやつ? あれから集める恐怖でだいぶ魔族の腹は満たされているからなあ」
「人族が来る度に城下町の景観を取り締まるのも楽ではないですからね。私も家の前の盆栽を毎回片づけるのには苦労しております」
どうにも会話の内容は人族がイメージしている魔族とはかけ離れている。
そう、魔族や魔王は、実は人族が思い描く恐ろしい存在であり続けるため、人族の前では実体とかけ離れた存在を演じているのだ。
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