020 例の少年少女と猫VSゴブリン。
ニーナはトリガーに掛けようとした指を外し、エインズの突拍子もない発言に固まってしまった。まさかモンスターの倒し方に拘るなどとは、思ってもいなかったようだ。
「ソルジャーってさ、こう、剣でズバッと斬って倒すイメージがあるじゃん。あんなカッコイイソルジャーになりたいんだ。魔王をこっそり狙撃とかカッコ悪くない?」
「倒すのにカッコイイも悪いも……あるけど、あるけどさ! 銃で仕留めるのも凄くカッコイイと思わない?」
「俺の知ってる護衛のソルジャーはみんな剣とか槍とか持ってた」
「エメンダ村はソルジャーの方がよく通りかかるのですよ。わたくしも武器はそのように把握しておりますね」
「それ、持ってるだけよ。今はリボルバー1丁なんて笑われる時代なの。カービンやライフルと合わせて持ち歩く人もいるわ」
それを聞いたエインズは驚く。それはそうだろう、力加減が出来ず絶対に壊すというのを抜きにしても、マッチやライターを使うだけで怒られる村に住んでいたのだ。
もちろん、ソルジャーの古典的な戦い方しか知らない。
「でもさ、銃は危ないから駄目だってよく言われるじゃん! その犯罪とか、間違って撃ったとか、持ってたら使いたくなるものです絶対落ちてても拾ったら駄目ですそんな危ないもの扱う子はうちの子じゃないですよその子です! って言われるじゃん!」
「あなたそんな子供みたいな注意されてたの? 銃を使える職業なのよソルジャーは。卑怯だとか危ないとか、そういう発想で命かけてんじゃないの」
「エインズ様、ニーナ様にはニーナ様の戦い方があるのです、エインズ様はご自身のなさりたいように」
腑に落ちない様子のエインズを無視し、ニーナはゴブリンへと銃を向ける。こっちの声が聞こえているのか、群れはこちらにゆっくり忍び寄っているつもりらしい。
パァーン!
思わず耳を塞ぐほど大きく、そして乾いた音と共に薬莢が飛び、ガチャリとシリンダーが回った。遠くでゴブリンの悲鳴が聞こえる。銃の訓練を受けたことがあるニーナはしっかりと命中させたようだ。
「撃ったわ、1体片付いたはずよ!」
「音が凄いね……こっちがびっくりした」
「わたくし、耳の中で何かが響いているようです……」
エインズとチャッキーは目をパチパチさせ、2発目を狙おうとしているニーナの視線の先に注視する。
「ギェギェギャアァ! ヤイヤイアーギャギャギャ!」
「ウギャイギャギャイヤイヤ! ヤイヤイヤイ……!」
「ウンギャギャギャイ、ギャヤヤヤイヤイヤ!」
ゴブリン達は草の中から顔を出し、ニーナを睨みつけて指さしている。その先頭に立っているゴブリンの額は数秒後にパンっと弾かれて形を変え、後頭部を地面に打ち付けた。
「俺、どうしたらいいんだろう? ゴブリン達は何って言ってるんだろう」
「何言っててもいいわ、怒ってるのは確かよ!」
「ギェギェギャアァ! ヤイヤイアーギャギャギャ! と言っておりますね」
「いや、そういう事じゃないでしょ、聞いたままじゃなくてそのギャギャギャ! って言ってる言葉の意味よ」
ニーナへと狙いを定めたように走ってくるゴブリン達は、あと数十メータの位置まで来ている。ニーナは更にもう1体へと銃口を向け、片目を瞑ってリアサイトを覗きこみ、銃口の上のフロントサイトをゴブリンに合わせて狙う。
「何語なんだろう……」
「ゴブリン語でしょうかね。あの女が撃った、あの女を殺せ、あいつを生け捕りにして巣に持ち帰って殺そう、あいつが良い子を産まなかったら殺そうと言っているようですよ、まあ、単なる勘ですが」
「へっ!? ちょっとやだ! 言葉が分かるならちょっ……ほらエインズも戦ってよ!」
チャッキーが何気なしにゴブリンの言葉を訳すとニーナの顔色が悪くなる。エインズはニーナへと迫るゴブリンに向かって駆け出し、そして数秒もしないうちに家庭用ナイフを手に持ってゴブリンを斬り裂かんと水平に一振りした。
「うりゃぁ!」
「ギャギャギャ! ……キィィィ!」
エインズの一振りがゴブリンの頭……上を掠める。皮膚をザワッと撫でられたゴブリンは首を縮めたが、攻撃を受けていない事に気付くと他のゴブリンと共にエインズへと狙いを変えた。
要するに、ゴブリン達からナイフが当たらないヘッポコソルジャーだと判断され、『弱そうなエインズ』に狙いが移ったのだ。
「ああ空振りした!」
「何してんのエインズ! ああそんなに混戦だったら銃で狙えないじゃない!」
エインズは応戦しようと焦りながら、ゴブリンを斬り付けようと腕を振り回す。
「この! 離れろ!」
「わたくしもお手伝いを! 困った時には猫の前足と相場が決まっておりますので!」
「助かるよチャッキー! えいっ!」
チャッキーがゴブリンに突進していき、よろけたゴブリンにナイフの刃ではなくエインズの腕や肘が当たる。
もちろんその威力はハンマーで殴られた以上の衝撃であり、弱いソルジャーがやみくもにナイフを振りまわしている様子とは似ても似つかない。
「やぁ! この!」
エインズの腕によって押し潰されるように弾かれ、ゴブリンの数はみるみる減っていく。
ゴブリンが手に持っていた棍棒は粉砕され、まだ息のある個体をニーナが銃で狙う。初戦であり緊張もしていたが、ニーナはエインズには武器だの銃だのとこだわる必要が無い事を察していた。
作戦通りでも何でもないが、自然と出来上がった役割分担は、エインズとニーナ、時々チャッキーの攻撃の効率を上げていく。
「このっ……!」
「ギュブププ……」
「ハァ、全部やった!?」
「お見事でしたよエインズ様」
「うん……1回もナイフ当たらなかった」
ゴブリンの群れに襲われながらも、殆ど無傷の状態で迎え撃った2人と1匹は、最後の1体を倒し終えると周囲を確認する。もしかすると何体かは逃げたのかもしれないが、ひとまず周囲には残っていない。
ホッとため息をつくと、エインズとニーナは互いを見てニッと笑い、初戦の勝利を称えあった。
「さっき剣や槍なんて持ってるだけって言ったけど、訂正するわ。至近距離で戦う時は必要ね。あー、その、私には」
「俺、ナイフ1回も当たらなかったよ、剣術の練習しなくちゃ……あと銃は引き金を壊さない自信がない」
お互いに戦った際の分析を始めるが、チャッキーはエインズへと歩み寄りちょこんと座った後、エインズのまだ披露していない可能性の1つを挙げてみせた。
「エインズ様、ファイアがあるじゃないですか。ニーナ様、ゴブリン討伐の記録として録画をお願いします。わたくしもエインズ様も映すのが苦手でして。その代わり、このゴブリンの死体はエインズ様が炎で焼き尽くしてご覧に見せましょう」
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