Another Story 最強の兄妹たち

 ――巳の国 イザナ――

どこか遠く――海を越えた東の地。目つきの悪い侍がとある貼り紙を見た。


「西方から 伝統のコンテストが到来!

 彼の兄妹コンテストが 東方でも開催決定!」


「鍛錬が足りぬか……」


そこへ土煙が勢い良く近づいてきた。竜巻の中心には少女がいる。紺色の装束を身に纏い、腰帯に刀を差している少女である。


「兄上ー! 自分 こんなものを見つけました!

 ……! それです! 兄上がご覧になっている その掲示です!」


「……覚悟はできているな?」


「はい! 修行ですね!」


侍の男は巳の国西門を出たところで指笛を吹いた。どこからか蹄が地を蹴る音がする。すると間もなく、それは白い毛並みと白い鬣を靡かせながら現れた。


「白雪」


そう呼ばれた白馬は二人の侍を乗せる。雲一つない屋敷の上空で、凧がひらりと舞った。



 ――IDAスクールH棟・1階――

どこか遠く――時空を超えた未来の学校。これまた目つきの鋭い男子生徒がとある電光掲示板を見た。


「由緒あるコンテストの舞台は 我が校に決定!

 第300回兄妹コンテスト 参加者募集中!」


「…………」


「兄さん 何を見ていたの?」


白制服を着た黒髪の少女が兄の視線を追った。


「このコンテストに 参加するの?」


「いいや。くだらない行事だと 思っただけだ」


「そっか……。私はちょっと気になるかな」


「お前が そう言うなら……考えておく」


「ふふ。そういえば イスカさんが呼んでたよ」


「IDEAの会長が 俺に何の用だ……?

 面倒事なら 御免だぞ」


「とりあえず 行ってみよう兄さん」


2階へ行き、教室と教室の狭間――知る者だけが知る扉を通って、組織の作戦室へと入る。少女と同じ白制服を着た集団が忙しなく動いていた。その中にいたクリームイエローの長髪の女子生徒が二人に気付いた。


「やあ よく来てくれた」


周囲から会長と呼ばれる少女が笑いかける。彼らを呼んだのはまさに彼女だった。男子生徒は嫌な予感がした。


「実は 君たちに相談があるんだ」


面倒事――学校行事の主催――を頼まれるまで、もう間もなくである。



 ――魔獣の村 コニウム――

どこか近く――陸から隔絶された魔獣の村。一本角の生えた兜虫に見える魔獣がとある貼り紙を掲載した。


「王都 ユニガンで催されたコンテストにて 人間と魔獣が優勝!?

 リベンジを果たせ! 兄妹コンテスト~魔獣編~ 開催予定!」


「魔王様の世界制覇の第一歩となるために……!」


木の板に杭を打ち付けながら、杭とは別の思念までをも打ち付けながら、魔獣がそう呟いた。そこへ、村の子供たちと追い駆けっこをしていた魔獣の少女が足を止める。ライラックの髪から覗く、スカーレットの角が太陽に照らされた。並んでみると、二人の角は同じ色をしていることがわかる。


「それそれー! 逃げないと食べちゃうぞー! がおー!

 ……えッ 何それ 楽しそう! 私も出たい~!」


「これは 遊びではありません」


「えー……ケチ~」


少女の文句に、魔獣の子供たちが共鳴した。


「ケチ~!」


「けちだー!」


「おじちゃんのケチ~~!」


「何度も言っているでしょう……私はおじちゃんではなく お兄さんですからね」


調子に乗った少女は子供たちの影に隠れてさらに不満を垂れた。


「まったく……そんなことでは 魔王様に認められませんよ。

 このコンテストだって 魔王様が……」


「え……!? ギルドナ様も参加されるの!?

 それなら 私がんばっちゃおうかな~♪」


「おねえちゃん がんばれー!」


「がんばれー!」


のどかな村の真ん中で、少女と子供たちの笑い声が響いた。おじちゃん――ではなくお兄さんの魔獣が空を見上げる。

昼は太陽が大地を起こし、夜は月が子守歌を唄う。

流れる雲と星は迷う者を導き、風が行く道を清める。

――そんな世界が広がっていた。


これは、これから紡がれるかもしれない

――最強で 最愛で 最高な 兄妹たちの物語。

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最強で 最愛で 最高な 雪水だいふく @yukimi-daifuku

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