第28話 真実は何処にあるのか

 翌日


 ニーナの元へ竜騎士団の団長より招集がかかった。


 どうやら副隊長が団を抜けて行方不明になったらしい。その事について話しが聞きたいとの事だった。


 そんなの知らんがなというのがニーナの正直な気持ちである。


 只でさえ竜騎士団はなのだ。


 力を貸すなんてごめん被る存在


 殺意を抑えるのだって何とかなのだ。


 一歩間違えればその場で皆殺しににしかねない。


 しかも何故呼び出され無ければいけないのか。この世界の人は何かと人の都合も関係なく直ぐに呼び出そうとする。


 話しが聞きたいなら自分から尋ねて来るのが本来の筋ではないのかと思っている。


 ニーナの常識はこの世界では常識ではないだろう。


 そんな事もあり朝から気分は優れない。

 寧ろイライラが表情に現れていた。


 団の問題で有って何故わざわざ部外者のましてやに連日呼び出さなければならないのかと。


 それよりも何勝手に逃げ出してるのよ1殺し損ねたじゃないの! と口に出したくもなるが、使者にそのままダイレクトに言うわけにもいかずイライラは募る一方である。


 ニーナのイライラをしたアレクはそそくさとエリスと共に逃げ出していたる。


 その事が余計にニーナを苛立たせる。


 八当たりする唯一の相手も逃げ出したので取り敢えず頭の中で何回も団長を殺しイライラを少しでも軽減させるしかなかった。


 頭の中が見えたらニーナは完全に危ない人だが、幸い顔は不機嫌としか見えないので早朝に起こされた事でニーナが不機嫌になったのだろう位に竜騎士団からの使者が思ってくれた事は幸いだったのだろう。

 

 渋々ニーナは支度を済ませると竜騎士団の宿舎に向かった。


 街を見回しながら逃げ出した彼等アレク達の気配を窺うがどうやら上手く気配を隠して行動しているらしい。


 「本当に忌々しいわね。」


 悪態をつきつつもニーナは宿舎に向かって行くのだった。


 宿舎に着くと案の定昨日の練兵場の模擬戦に参加した者はニーナの姿を見るとサッと目を逸らす。


 「何か文句あるのかしらぁ?」


 「いえ、ありません。」


 「ふんっ!」


 慌てて絡まれた竜騎士団員はその場を立ち去っていく。


 まるでヤンキーの様に目が合っただけで絡むニーナの視界に入るまいと視線を下げ首を変な角度に向けて歩き障害物にぶつかる者までいる始末だった。


 出来の悪いコントの様だ。


 これが世界に名だたる竜騎士団とは......。


 こんな者達に故郷を滅ぼされたとなると些か情け無い気持ちにもなる。


 あの時私にもっとチカラがあれば......。


 後悔しても時は戻らない。


 時間を跳躍出来る様な時空魔法の様な物があるなら一体自分は平和なむらでどの様な将来を送っていたのだろうか。


 考えても栓無き事だがふとした時にはどうしても考えてしまう。


 更に飛躍すると元の世界に戻れないだろうかと。


 実際戻りたいかと言われたら即答は出来ないと思うが、前世の記憶は多大なる恩恵を齎らしてくれる半面何処か郷愁ノスタルジーを感じてしまう事もいなめない。


 「先の事はその時考えればいいわ。今はブレない様にやるべき事をやり遂げる。」


 自分に言い聞かせる様にニーナは内心で改めて誓ったのだった。


 考え事をしながら歩いていると目的の扉の前に辿り着いた。


 ニーナはノックする事もなくとびらを開いた。


 中では昨日と変わらない姿勢でセリスが机の上に積まれた書類を読んでいた。


 「早朝からわざわざ呼び出していったい何の様かしら?」


 わたしは不機嫌ですと言わんばかりにぶっきら棒に言い放つ。


 「よく来てくれたニーナ。取り敢えずかけたまえ。」


 立ち上がると態とらしく大業な仕草でソファを指すセシル。


 「失礼するわ。」


 そしてニーナはソファに掛けた。


 「で?何?」


 「まぁそう怒らないで欲しい。折角の可愛い顔が台無しだ。」


 「くだらない話しなら今すぐ帰っていいかしら?」


 「ハハハ、冗談だよ。その位で怒らなくてもいいじゃないか。」


 「私達親しい訳じゃないんだけど?」


 「相変わらず連れないな。」


 「当たり前でしょ。私は貴方に興味がないの。お分かりかしら?」


 「その辺りはこれからだよ。それでは本題に入ろうか。」


 「これからもそれからもあれからも無いわ。」


 流石にこのニーナの拒絶には苦笑いのニーナ。


 ごほんと一つ咳払いをするセリス。


 「早朝クレアが団を抜けて行方不明になった。何か知らないだろうか?」


 やはりこの話題かと呆れる


 勝手にショックを受けて行方不明になった者等知った事では無い。


 「エリスにボコボコにされたのがショックで実家にでも帰って花嫁修行にでも切り替えたんじゃないのかしら? 彼女所の令嬢でしょう?」


 その方が身の丈に合ってていいんじゃないと付け足す。


 「ニーナは容赦とか配慮が無いんだね。」


 「私か気に掛けるに値しないからよ。」


 「今の所実家に帰ったという話は届いてる居ない。まぁ、無事ならそれでいいのだが。」


 「そういう訳で私は何も知らないわよ。」


 話はこれで終わりとばかりに立ち上がろうとするニーナを引き留めんとばかりにセリスは声を掛けた。


 「ニーナは私に何か聞きたい事はないか?」


 そんな物は無いと一言告げれば終わるだけの問答にニーナはの質問をした。


 そう言えばと前置きを置いた上で


 「ニナエ村をご存知かしら?」


 「ニナエ村か......。」


 悪夢を思い出したかの様にセシルの顔色が悪くなっていく。


 余り思い出したくないんだがと前置きをした上で


 「確かニナエ村が何者かに襲われていると瀕死で隣のムライ村へ逃げて来た者からの通報により私達竜騎士団が駆け付けたんだ。駆け付けた時には既に村中から火が上がり住んで居た村人は皆殺しにされていた。」


 「私が聞いた話も大体同じね。」


 「しかしどうしてニーナがニナエ村を気にするんだ?」


 「私はニナエ村のに住んで居たから。ニナエの人達とは交流も有ったから気になったのよ。」


 なるほどと頷くセシル。


 しかしニーナが他者を気にするのはだったとセシルは怪訝な顔をしていた。


 「貴方の中で私がどういう風に思われているのかよく分かったわ。」


 まあそう膨れないでくれと諫めるセリス


 私は何和やかに敵と談笑しているのよと自分に対する嫌悪感が募ってくる。


 「それで、犯人は捕まったのかしら? 私はとあるが急におかしくなって村人達を襲っていたのを貴方達が倒したという風に聞いていたんだけど。」


 そのニーナの言葉にセシルは話す事自体が苦しい様な様相を浮かべていた。


 やはり何かの秘密をセシルが隠していると思い闇魔法【邪心の瞳】を使うとセリスの目を覗き込んだ。


 この【邪心の瞳】は相手が嘘を付いていればその目が緑色に光る。


 ニーナにのみ分かる様になっていて相手には魔法を掛けられた事は気付かれないものだ。

 勿論周りに人が居ても気づく事は無くニーナが闇聖女としてのみ使える特別な魔法であった。

 

 セリスの瞳に変化が無ければ嘘は付いていない事になる。


 だがニーナはセシルの瞳の色が変わるとしている。


 そうで無いと自身のアイデンティティーが崩れかねないからだ。


 何かを躊躇う様にセシルはぽつりぽつりと語り出した。


 「私達はニナエ村の隣村のムライ村からの救援要請に応じて出動した。竜騎士団は地域の平和を守る為の活動も行なっている。小さな村々にも我々の仲間が常駐している事もありニナエ村の話を聞き私達は急行したんだ。」


 今の所セシルの金色の瞳の色は変わってはいない。


 ニーナは話の続きをと黙って首肯した。


 「私達が村へ辿り着いた時には既に全てが後だった。村は火に包まれ家屋は暴風にでもあったかの様に倒壊していた。村の中には背中を槍で貫かれ息絶えた者や何かに取られた様に身体の一部が無く死に絶えた者が多数見受けらた。この世の地獄といった様な様相だったよ。生存者は居ないかと村中を探し回ったが見つからなかった。冒険者の姿も見ていない。もう少し早く駆け付けていればと今は後悔しかないよ。」


 今もセシルの瞳の色は変わっていない。


 「それで冒険者がやったという話は何処から来たのかしら?」


 「私達は報告はしていない。事実をありのままに報告しただけだ。私達は間に合わなかった。既に全てが終わっていたとしか報告はしていない。そこに冒険者の話などは一切していない。」


 この辺りは帝国が何らかの意図を持って話をすり替えようとしたのだとニーナは思った。セシルの話を信じるのならばという前提が付くが。


 「それで肝心の瀕死の村人はどうなったのかしら?」


 「ニナエ村が襲われているから助けを呼んで欲しいと伝えて息を引き取っている。ただ......」


 それでもまだ何かを躊躇う様に言いづらそうにしているセシル


 ニーナはそんなセシルに詰め寄った。


 ニーナの気迫にたじろぐセシル


 「この報告は帝国でも皇帝や宰相にしかしていない。だから話す以上ニーナ自身にも危険が及ぶかも知れない。その覚悟はあるのか?」


 別にセシルの話を鵜呑みにはしていない。 

 

 ニーナが唯一本当に信じるのは自分のチカラ《邪心の瞳》のみ。

 

 「勿論よ。」


 ニーナは迷う事なくセシルの目を見つめ答えた。


 セシルも覚悟を決めたのか一度大きく息を吸うと目を瞑り自分を落ち着かせた。


 ニーナの目をしっかり見つめるとセシルは短く答えた。


 「黒いの頭をした化物が村を襲っていた。」と


 ニナエ村から瀕死で逃げ出し今際の際に村人が遺した言葉


 それを言ったセシルの瞳は最初に出会った時と同じ綺麗な金色のだった。

 


 


 

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