第26話 静かに出来ない者達

 街を出てからの旅路は順調だった。


 魔物に襲われる回数も数回でニーナは一切何もせずエリスにお任せモードに入っていた。


 過保護なパルムが手を出そうとすると魔物が怯えた様に逃げて行く為訓練にならないとエリスがパルムを怒った為、女が反抗期に入ったと崩れ落ちていたが、ニーナは特に助け舟は出さなかった。

 余りにその容が居た堪れ無かったのか何故かアレクがフォローしていたが邪神なのに随分と気がつく事だとニーナは感心と呆れ半分の気持ちで見ていた。


 移動は今回は徒歩だったので途中野営する事にはなったが、パルムを恐れてから魔物の襲撃は無かった。


 特に何事も無く順調な旅路を続けニーナ一行は目的地ラナレーンの町に辿り着いた。


 街の入口で街へ入る為の列に並ぶ。


 好奇な視線を感じるが、ニーナ一行の面子が少女と幼女と美女と猫という旅にくない様に見えるのだから仕方がないのかもしれない。


 ニーナ達の順番がようやくやって来た。


 ニーナは軽くスルー、エリスも同じく対して絡まれたりはしなかったがまさかのパルムが衛兵に絡まれていた。


 「お姉さん、かなりの美人だね。仕事が掃けたら酒場で一杯どう?」


 「何故我が虫けらの如き人と酒を酌み交わせねばならぬ。他を当たれば良かろう。」


 「まぁ、そう固い事言うなよ。どうせのお守りで疲れているだろ? 一緒に楽しめばいいじゃないか。」


 パルムの不機嫌パラメータが右肩上がりに急上昇しているのが分かるがエリスはどうするべきかとオロオロしている。


 見兼ねたニーナが衛兵に声を掛けた。


 「私のが何かしたのかしら?」


 ニーナを頭の先から足元まで見てから


 「子供には関係の無い話だから向こうで待ってろ!」


 興味を失ったようで強い口調で言われたニーナ


 「もうだけ聞いてあげるわ。私の連れが何かしたのかしら?」


 全く耳が遠いのかしらと吐き捨てる。


 「自分が相手されないからって大人に絡むな。チンチクリンのお嬢ちゃん。そうだな、あと十年経ったら相手してやってもいいぞ?」


 馬鹿にした様な下品な顔と蔑んだ目がニーナの怒りの導火線に火を付けた。


 「どうやら言ってはならない事を言ってしまった様ね。チンチクリン? 真っ平らな胸? 貴方死ぬわよ。」


 それを聞いていたアレクがボソリと気にしてたんですねぇと言ったのをニーナが殺意が篭った目で睨み返す。


 「はっ! お前みたいなチンチクリンにこの俺様がどうにか出来るわけないだろ。」


 ニーナの性格を知っている者が居たら慌てて逃げ出しただろう。


 ニーナは苛烈な性格で決して容赦はしない。


 街の上に隕石だって落としかねないからだ。


 「死ね!」


 短いニーナの声


 掌を衛兵の足元に向けると亜空間に繋がる穴を開けた。


 衛兵は何が何やら分からないままその亜空間に落ちていった。


 次にニーナは掌を上空に向けて亜空間の出口を設定。


 吸い込まれた筈の衛兵が空から勢い良く降ってくる。


 このまま地面に激突すれば間違いなく潰れたトマトの様になるだろ。


 ニーナは地面に再び亜空間の入口を作る。


 衛兵はその穴に吸い込まれて行きまた上空の穴から降ってくる。


 人間フリーフォールの完成だ。


 それを見てニーナは顔色一つ変えずに眺めている。


 時折地面に作った亜空間の入口を消したりしながら遊んでいた。


 衛兵はずっと悲鳴を上げながら上空から降って来ては地上の穴に吸い込まれるという一連の動作を繰り返していた。


 周りで見ていた者達も目を逸らしている。


 地上の亜空間入口を消し衛兵が地面ギリギリまで迫ると亜空間入口を作成。


 上空落下から逃げられずまた着地位置を誤れば地面に激突し地面に無残な姿を晒す事になる。


 ニーナは衛兵の恐怖心を最大限掻き立てる様に入口を衛兵が地面に激突する寸前まで消したりしていたのだった。


 ニーナの気紛れ一つで衛兵は地面の染みになる。


 それを顔色一つ変えずにやっているのだ。


 エリスはニーナにお仕置きされるとしても今回のやつだけは絶対にやめて欲しいと懇願したのだった。


 「エリスなら落下しても死なないでしょ?」


 試した事はないので実際エリスがどうなるかは分からないがこのお仕置きだけは恐怖以外にもに関わる事になりかねないのでその後もエリスは何故かしつこくニーナに食い下がったのだった。


 暫くニーナが遊んで居ると何やら街の中から騒ぎを聞き付け走って来る騎士鎧を着た集団がやって来た。


 「おい! 誰だこの騒ぎを起こしているのは?」


 状況は分からないが犯人を探す様に恫喝する騎士の男。


 その騎士の後ろには騎士の上官なのだろうか青い髪を後ろに纏めた冷たそうな雰囲気を持った女性が一本踏み出して来た。


 「これは一体何の騒ぎだ?」


 誰もニーナがやったとは口にしない。


 余計な事を言って自分に飛び火したらたまらないからだ。


 「私がやっているのよ。何か問題でもあるかしら? それに、私に喧嘩を売って来たのは馬鹿よ。自業自得じゃないかしら? 自分の力量も弁えず人様に偉そうに言ってあのザマとは情け無いわね。」


 ニーナが指差す先には既に意識を失いながらもえいえんにループを繰り返している衛兵。


 途中からニーナも面倒くさくなり亜空間入口は固定していた。


 「事情がよく分からないから話をして聞きたいがその前にあれを止めて貰えないだろうか?」


 「地面に落とせばいいのかしら? 死んじゃうけど。」


 「それは困るので何とか穏便にお願いしたい。」


 「それ、私に何のメリットも無いんだけど?」


 「彼にはしっかりと謝罪はさせる。君が望むならその後、彼に罰も与えよう。」


 「そうね〜 じゃあ二本で手を打つわ。」


 ニーナは上空から降ってくる衛兵が地面に落下する手前に亜空間を複数作成し減速させる。


 しかし完全に速度は落ちていないのでそのまま足から地面に着地させると辺りにバキバキバキバキと嫌な音が響き渡った。


 衛兵の両足の骨は粉々に砕けた事だろう。


 気を失っていたが余りの激痛に目を覚ましたが直ぐにまた気を失った。


 慌てて他の衛兵が気を失った衛兵をはこんでいった。


 「こんなもので許して上げるから罰は不要よ。まぁ、もう二度と歩く事は出来ないでしょうけど。」


 ニーナはそれっきり気が済んだのか興味を失ったのか衛兵の方から視線を外した。


 「それで君の気が済んだのなら取り敢えずは何も言わない。その上で話を聞きたいので同行願えるだろうか?」


 「同行に異論は無いわ。それより貴女お名前は? 見ず知らずの者について行く程私お人好しじゃないの。」


 「これは失礼した。私は竜騎士団第二師団副隊長クレア・マスカレードだ。」


 「へぇ〜貴女が有名なの副隊長さんなのね。分かったわ同行しましょう。私の連れはご一緒しても宜しいのかしら?」


 「一緒で構わない。別室で待機してもらう事になるが。」


 「それでいいわよ。それでは行きましょうか。」


 ニーナはクレアの後ろを付いて歩いて行く。


 クレアには聞こえなかったみたいだが


 「漸く見つけたわ。」


 殺気こそ抑えていたもののニーナの口角は上がり目は紅くルビーの様に深紅の光を纏っていたのだった。


 

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