第25話 断章 殺戮の巡礼者
山奥を必死で逃げる盗賊達
「何だあの化物わ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」
「早く逃げろ! 捕まったら殺される。」
阿鼻叫喚の地獄絵図
盗賊達は散り散りに山の中を逃げ惑っている。
街道を逸れた所でたまたま見つけた極上の獲物を狩って今晩はお楽しみに洒落こもうと意気揚々と襲撃したのだが、まさかの返り討ちにあい必死に山の中を逃げ回るハメになっていた。
それは日常とばかりの簡単な狩の筈だったが、何処で間違たのかも分からない状態であった。
気付けば数十人は居た仲間達はもの曰ぬ骸へと変わり果てていた。
残り数人となった盗賊達は今も四方八方に無秩序に逃げ回っている。
きっかけは山に迷い込んだ一人のシスターに目を付けた事だった。
修道服を着た女性
肢体は男好きする様な見事なプロポーション。
修道服がはち切れそうな位に自己主張している二房の果実の様に稔っている。
今にも修道院破かんとばかりだった。
また、修道服の裾も短く切られておりシスターにしてはかなり短く太ももの大部分が露わになっている。
まるで男を寄せ付ける為にわざと切られた様なスリットが深く入っていた。
これに飛び付かない者は居ないだろうとばかりに飢えた
山の中をバラバラに散った筈なのに一人また一人と殺されているようで悲鳴が方々から上がっている。
今も尚止まない悲鳴に盗賊達は錯乱し逃げ回っている。
事の始まりは誰が最初に言い出したのか山道を迷っている一人のシスターが居ると言う所から始まった。
盗賊達は今までも今回と同じ様な状況で美味しい思いをしていた。
それで判断が狂ったのは間違いないなだろう。
いつも通り集団で囲み捕らえて後は慰みものにして用がするんだら始末するだけだった。
今までもこの盗賊達の被害にあった者は数知れない。
語るのも耳を塞ぎたくなる様な酷い話ばかりだったからだ。
今回も極上の獲物が掛かったと盗賊達は歓喜した。
ましてやか弱く見えるシスターだ。
簡単に狩った後は酒盛だと盛り上がっていた。
誰が一番にありつくか興味はそこにしか無かった。
順番も決まり盗賊の一人が迷い込んだ獲物の前に飛び出すと声を掛けた。
「よぅ、姉ちゃん大人しく言う事を聞けば悪い様にはしねぇ。それに姉ちゃんにとっても気持ちいい事だから悪くはねぇ話だろ?」
懐からナイフを取り出しシスターの目の前をチラつかせた。
「おぉ、神よ......。」
「おい! 聞いてんのか? お前はこれから俺達と楽し......。」
それ以上盗賊の言葉は続かなかった。
盗賊の上半身は吹き飛び残された腰から下から血が吹き出していた。
いつの間にかシスターの手には身の丈の二倍はあろうかという十字架が握られていた。
但し、その十字架には至るところに鎖に見える何かが巻かれている。
よく見ると鎖に見えるのは無造作に穴が開けられて繋がれている頭蓋骨だった。
一瞬で命を奪われた仲間の仇とばかりに数人の盗賊がシスターに飛び掛かったが、シスターが見えない速さで振るった十字架に同じ様なオブジェになるだけだった。
それを見た盗賊達は恐慌状態に陥り一斉に踵を返しまるで蜘蛛の巣を突いたかの様に散り散りに逃走したのだった。
シスターは特に追いかける素振りを見せなかったが何故かバラバラに逃げた筈の自分とは違う方向から悲鳴が上がった。
盗賊仲間とは言え所詮烏合の衆
人の命より自分の命がけで大切なので周りの犠牲を逃げる為の時間稼ぎになってくれる位にしか考えていなかった。
辺りから段々と悲鳴すら聞こえなくなりかなりの距離を逃げ切った盗賊の一人は息を切らして近くにあった木の根本に倒れ込んだ。
「他の奴には悪いが俺は生き残らせて貰う。」
そう言って息を整えていると持たれ掛かっていた木の裏側から鎖が擦れる様なジャリっという音が聞こえた。
盗賊はまさかと思い後ろを振り返るとそこには居る筈の無い女性が立っていた。
男は慌てて慌てて木から飛び起きて距離を取った。
「み、み、見逃してくれ。」
盗賊は膝を突き頭を地面に擦り付け懇願した。
「何も恐れる必要はありません。死は救いなのですから。」
「は? 何を言っ」
一瞬目の前には十字架が映ったかの様に見えた盗賊の意識はそこで消失したのだった。
「おぉ神よ、僕の罪はいつになったら許されるのでしょうか。」
神に祈りを捧げる様に血に染まった禍々しい死の十字架を天に掲げる。
「僕は...... 私は......俺は......。」
十字架を振り血を払うとまるで何事も無かったかの様に再び罰の巡礼をしているかの様に歩き出した。
彼女の名はアナベル・オラクル
二つ名は
当ての無い殺戮の巡礼者
彼女もまたニーナとは違った【動乱を呼び起こす者の一人】なのだ。
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