第24話 確実な死を齎す為には
「この街でやる事も終わったわね。」
大試食会も大成功に終わった。
後は各人、各々が好きなピザを作り出して広めてくれるだろう。
ニーナはこれ以上この件に首を突っ込むつもりは無かった。
色々なピザのレシピを卸しても良かったのだが、一つはお金には今はそれ程困っていない事。
もう一つはやはりこの世界の人達が自主的に料理を進化させることだった。
教えられた物よりも自分達で考え進化させた物の方がきっと素晴らしい物になるだろうというこれはニーナの思いだった。
ニーナはこの世界の人が嫌いな訳ではない。
自身の故郷を滅ぼした《奴等》はどの様な手段をとっても根絶やしにする事は心に誓っている。
ニーナに敵対しない者には寧ろ面倒みがよい位だろう。
ニーナと関わり今も幸せな生活を送っている人達も居るのだから。
この街でやる事も終わった。
勿論この街にとどまる事はニーナの頭には無い。
あくまでも情報収集の一環なのだから。
後は商人ギルドに立ち寄り軽く挨拶して旅立つつもりだ。
それに気になる人を昨日見かけたからだ。
「アレク、エリス、パルムそろそろこの街から出るわよ。」
アレクは勿論エリスもニーナに依存はない。
エリスが行くならパルムは嫌とは言わないだろう。
宿を引き払うとニーナ一行は商人ギルドへ向かう。
道すがら通りがかった人達がニーナに笑顔を向けてくれている事から騒ぎを起こした事は帳消しにされているのだろう。
「少女ちゃん、次は何処の街に行くんですかねぇ?」
「そうねぇ、そろそろとっかかりの一つでも欲しいものね。」
簡単に見つかったら苦労はしない。
それでも成し遂げる。
ニーナがニーナとしてこれからもある為に決して忘れてはいけない事だから。
ニーナ一行は商人ギルドへ着くと扉を開けて中へ入っていった。
我が家のような気安さである。
勿論商人ギルドも拒む事は無い。
「目当ての人は...... やはり居たわね。」
奥のテーブルにはゲインとギルドマスター。それに商人ギルドグランドマスターの姿があった。
「エルミナ、御機嫌如何かしら? わざわざこの街まで来るなんて貴方もお暇なのね。」
「ニーナちゃんが何かやるって聞いたらそれはワシが来る理由になるのじゃ。」
「大層な理由を付けて本当は自由にやりたかっただけじゃないのかしら?」
「そんな事は無いのじゃ。」
若干目が泳いでるエルミナにニーナは手を差し出しエルミナとガッシリと握手をする。
「全くニーナちゃんには敵わんわい。」
「本当は嬉しいんでしょ?」
二人は和やかに会話をしている。
「お姉様此方の方は?」
普段余り見ないニーナの和やかな姿にエリスはついつい聞いてしまった。
「丁度いい機会だから紹介しておくわエルミナ。この娘はエリスよ只のエリス。
そしてこっちのがパルムよ。アレクは知ってるわね。一応私の旅の連れね。」
「これは中々面白い面子じゃのう。」
エルミナの顔は笑っているが目は笑ってはいない。
それはエリスに向けた物なのかパルムへのものなのかはエルミナのみ知るものだろう。
「ニーナちゃん、少々過剰じゃないのかのう。まるでこれから国と戦争しようとでもしようと言わんばかりじゃな。」
「そう見えるかしら? それに国と戦争するにしても私一人で十分だと思わないかしら?」
「末恐ろしいと言いたい所じゃが、今もそれなりに恐ろしいのう。」
「
ハッハッハと豪快に笑うエルミナ
エリスはニーナが怒っていないか気が気で無かったが、アレクが大丈夫ですねぇと言っているので邪神様がおっしゃるなら間違いないだろうと落ち着きを取り戻す。
「そろそろ私達はこの街を出るわよ。それでエルミナ、教えて貰いたい事があるのよ。」
「何じゃ?」
「竜騎士団について何か知らないかしら?」
「竜騎士団? そう言えば最近は大人しいみたいじゃのう。只、最近は良い噂は聞かないのう。」
「例えばどんな噂かしら?」
「団長である第二王子絡みじゃな。副団長は中々出来た男じゃ。」
「へぇ〜そうなんだぁ。」
ニーナから滲み出る様に殺気が漏れ出す。
ゲインも若干顔色が変わっている。
エルミナは気にした様子は無く話を続ける。
あくまで噂程度と前置をおいた上で
「どうやら竜騎士団の団長セシル・フォン・ドラゴニアスが辺境の村を襲っていると言った噂じゃ。」
なるほどとニーナは思う。
団長であるセシルは実際の力はナンバーIIである。
副団長こそが実質の竜騎士の最強戦略であり統率者だ。
どうせ目の届かない所で力を誇示して悦にでも浸っているのだろうと思った。
それでも第二王子がわざわざ外に出てきてくれるのだ。
これはある意味大きなチャンスだろうとも思う。
城に引き篭もられる方が実際は面倒だったからだ。
如何にニーナと言えど単身城に乗り込んで大暴れするリスク位は分かっているからだ。
やって出来ないとは思わないが時間がかかる上に何倍も面倒だからである。
「フフフ...... カモネギかしら。」
カモネギ等と言ってもこの世界の人には分からない。
だからこそ敢えてこの言葉を選んだ。
アレクだけには通じるかもしれなかったが、特にアレクは口を挟むつもりは無かった。
「エルミナ、ニナエは知ってるかしら?」
「確か辺鄙な小さな村じゃな。」
「ニナエは私の故郷よ。」
「そうじゃったのか......。 帝国ではおかしくなった一人の冒険者によって村民は皆滅ぼされたと伝わっておるのう。」
やはりそうかとニーナは思った。
好き放題暴れても相手は王子である。
王子がそういえば周りはその話が嘘でも受け入れるのは間違いないのだから。
竜騎士団団長にして第二王子セシル・フォン・ドラゴニアス
ニーナが例え真実を告げても信じる者はいないだろう。
「ここから南に下った先にある街は竜騎士団の駐屯地があるのじゃ。ニーナちゃんにも深い事情があるのじゃろうからワシは聞かん。それでも死ぬんじゃないぞ。」
大体の事情を察した上での忠告と心配
「エルミナ、私が誰かに負けると思う? 私は例え神であろうと行く手を阻むのならこの手で奈落へ堕として上げるわ。」
エルミナも簡単にニーナがどうこうなるとは考えていないが、相手は帝国である。
一筋縄では行かない。
それでもニーナが死にさえしなければエルミナも協力を惜しむつもりは無かった。
「困った事が有れば言うのじゃぞ。」
「分かったわ。それじゃあ私達は行くわ。また、何処かで会えたらいいわね。」
ニーナは踵を返すと歩き出した。
それにアレクやエリス達も続く。
誰も一言も発しなかった。
商人ギルドを出て街を抜けると平原に出る。
道は険しくも無く平坦であり比較的な安全な街道である。
後はこの街道を通り南へ下れば目的の街パラノイアがある。
「漸く見つけたわよ。兄さん......。」
ある日突然奪われた日常しあわせ
家族の仇、兄を失った元凶、村の人々の平穏を奪った怨敵竜騎士団
ニーナがニーナである為には忘れる事は出来ない。
抑えきれない
ニーナは自身の闇が抑えきれないとばかりに両腕で自身を抱く。
早く殺したい! 今すぐ殺してやりたい! と身体中の細胞全てが叫んでいるかの様に憎悪が次々と生まれ出て来る。
「待っていなさい、地獄が生温いと思える程の絶望と痛みをプレゼント《殺》して上げるわ。」
ニーナを止める者は居ない。
ニーナを止められる者も居ない。
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